第10話 エルフとダンジョンに潜る

ノーラさんと妹さんは新しい住居での暮らしに慣れ始めていた。


仕事と思えば、美女との同棲もなんてことはない。


「今日からポーションの製造をお願いしますね」

「分かりました。あの……妹にも手伝わせてもいいですか?」


妹さんも一応はエルフ族なんだよな……。


「品質に問題がなければ、好きにしてもらっても構いませんよ」

「ありがとうございます! ほら、シーラもちゃんと頭を下げるの」


「えーーっ!」


「小さい子供には仕事は辛いよな。お姉さんの邪魔さえしなければ、好きにしててもいいぞ」

「ほんと!? ダンジョンに入ってもいい?」


……。


ノーラさんは困りきった顔で、ペコペコと頭を下げていた。


まぁ、別に問題はないんだけど……。


「シーラちゃんは戦闘経験はあるのかな?」

「ない……かな? でも、とっても強いよ‼」


戦ってもいないのに、どうして強いと分かるんだ?


教えて、ノーラさぁん!


「えっと……シーラには武人の神が宿っていますから」


よく分からない単語が出てきたな。


「ノーラさんとしては、シーラちゃんがダンジョンに行っても問題はないのですか?」

「まぁ、ポーション作りには問題はないんですけど……誰かに迷惑を掛けないかが心配で」


この国の子供は基本的に学校に行ったりする。


シーラちゃんにも学校に行かせるべきだろうか?


「シーラちゃんって何歳なの?」

「15歳だよ」


……え?


どう見ても10歳そこそこ……。


僕と同じ歳だったの!?


「冗談だよね?」


「すみません。この子は適当なことばかり言って……」


そう、だよね。


良かったぁ。


「シーラは今年で18歳になりますよ」


まさかの年上‼


エルフは外見が変わらないと聞くが、ただ単に成長が著しく遅いということなのか。


しかし、どう考えればいい?


人間なら18歳は立派な大人として接される。


エルフはどうなんだろう?


「シーラちゃん。本当にダンジョンに行きたいの?」

「うん‼」


どうみても、子供にしか見えないんだけど……。


まぁ、やってみてから決めてもいいよな。


「分かった。じゃあ、こうしよう。これから僕と一緒にダンジョンに行く。それで出来るかどうかを決める。それでいい?」

「本当に? お姉ちゃん‼ いいの?」


ノーラさんは何度も頭を下げていた。


なんだか、いいお姉さんだな……。


……。


いつもの武具屋にやってきた。


「シーラちゃん。好きな武器を選ぶといいよ」

「えっと……これかな」


早いな。


グローブ?


「えっ? シーラちゃんって格闘ができるの?」

「それしか出来ないよ」


そうか……。


「ノーラさんもその……格闘が強いの?」

「お姉ちゃんは弱っちいよ」


なんだか、守ってやりたくなるな。


「でも、お兄ちゃんより強いよ」

「うっさいわ!」


支払いを済ませた……金貨50枚。


結構、高級品をせびられてしまった。


まぁ、ノーラさんのこれからの儲けを考えれば、後先考えない買い物とは言えないか。


ダンジョンの最上階層は相変わらず、誰もいない。


「とりあえず、ここでモンスターを狩ってみなよ」

「はぁーい‼」


……。


ため息しか出ない。


物凄く強い。


あんなに苦労したスパイダーを拳圧だけで倒してしまった。


「お兄ちゃぁん! この階層のモンスター、全部倒しちゃったよぉ」


嘘だろ……。


確かに山のようなスパイダーの糸とスライムの素があった。


スライムの素はしっかりと持ち帰って……。


スパイダーの糸は……。


「シーラちゃん。これは君の取り分だ。戻ったら、換金しよう」

「いいの!?」


「当たり前だろ。シーラちゃんの仕事からお金を取るつもりはないよ」

「大好き‼ お兄ちゃん‼」


まぁ、僕のほうが年下だから、微妙な呼び方だけど……。


「そろそろ帰るか?」

「うん」


荷物を詰め込んでいると、遠くから呼ばれたような……。


「アルヴィンさぁん!」


あれは……レイモンドか。


「今日はダンジョンにいらしていたんですか?」

「ああ、この子を連れてきたんだ」


シーラはすっと僕の後ろに隠れてしまった。


結構、人見知りなのかな?


「エルフ……ですよね?」

「ああ。これから一緒に仕事をする仲間になったんだ」


レイモンドも同じ、仲間だ。


二人には仲良くなってもらいたいものだが……。


「そう、ですか。まぁ、えっと……よろしくお願いしますね」


行ってしまった。


どうしたんだ?


「シーラちゃん。僕達も帰ろうか」

「うん。ねぇ、また美味しいもの食べてもいい?」


宿屋の食事が気に入ったみたいだな。


「ああ、いいぞ。どうだ? 今日の稼ぎで食べてみたら」

「それ、すごくいい! お姉ちゃんに驕ってあげるんだ‼」


いい子だな。


さすがにスパイダーの糸ではあの宿屋の食事代を稼ぐのは難しいだろう。


こっそり、僕が足しておいてやるか……。


換金はスムーズとは言えなかった。


「エルフからは買い取れないんですよねぇ。お兄さんなら、いいんですけど」


どの商会もこんな調子だ。


仕方がないから、僕が代理で買い取りを依頼した。


銀貨3枚がシーラの稼ぎとなった。


結構、頑張ったな。


「ほら。これがシーラのだよ」

「いいの? 本当にこんなに貰っちゃっていいの?」


彼女なら、きっと更に下の階層に行っても問題はないだろう。


だが、僕が常に付きっきりという訳にはいかないし……。


ノーラさんも難しいだろうな。


そうなると……。


「レイモンド! こっちだ‼」


いつものスライムの素と薬草エキスを卸しにやってきたレイモンドを引き止めた。


「アルヴィンさん。こっちにいらした……エルフも一緒ですか」


やっぱり、何かあるのかな?


「とりあえず、座ってくれ」

「はい……何か、御用ですか? というか、部屋にもエルフがいたんですけど。どういう事ですか?」


「どうって……言っただろ? 一緒に仕事をしているって。ノーラさんと言って、彼女が仕事仲間。この子はノーラさんの妹だよ」


「……」


シーラは僕の影に隠れるようにじっとしている。


レイモンドはそんなシーラと顔を見ないように、キョロキョロと辺りを見ていた。


「レイモンド、実は頼みがあるんだ。シーラの面倒を少し見てもらえないか?」

「えっ? ええええええっ!? 私が、ですか?」


レイモンドもエルフが嫌いなのだろうな。


「無理を言っているのは分かっている。だが、シーラの戦闘能力は本物だ。遊ばせておくのは勿体無いと思ってな。もちろん、報酬も払う。どうだ? やってくれないか?」


仕事を頼んでいる相手にお守りを頼むようで恐縮だが……。


シーラがある程度、一人でダンジョンで活動できるまでの間は誰かに見ていてほしいんだ。


一応、仕事仲間の身内に不幸があっては、いろいろと支障が出てしまうしな。


「……お断りします」


……。


「理由を聞いても?」


返ってくる答えは分かりきっている。


しかし、僕はレイモンドを買っている。


少しは見所があるやつだと思っていたが……。


「だって……そんなに可愛い子と一緒にいたら、大変じゃないですか!?」


……は?


一体、どうなっているんだ?

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