第9話 初めて女性を宿に連れ込みました
彼女はしばらく、ぼーっとしていた。
薬の副作用か?
「ノーラさん、大丈夫ですか?」
「ええ。まさか、エルフの長年研究してきたことが、こんなに簡単に解決してしまうなんて……」
そういうことか。
問題がないなら、それに越したことはない。
さてと……。
「ノーラさん。ここからは商談に入らせてもらいます。このポーション、僕にいくらで譲ってくれますか?」
「はえ? だって、これはアルヴィンさんが持ち込んだもの。いくらも何も……」
僕は首を横に振った。
「ここにあるのはポーションです。僕が持ってきたのは、二束三文のゴミクズ同然のもの。ノーラさんから買い取るのが筋というもの」
ノーラさんがいなければ、このポーションは完成しなかった。
それゆえ、多くの利益はノーラさんに帰属しなければならない。
僕はただ、それを右から左に動かすだけの商人に過ぎないのだから。
「じゃ、じゃあ、銀貨一枚で……」
まったく、この人は……欲がないのだろうか?
「本当にそれでいいんですか? 僕としては有り難いですが……」
「じゃあ、二枚!」
そういうことじゃないんだよな。
このポーションの効果は回復魔法に匹敵するほどだ。
もちろん、回復魔法は更に上位ともなれば、ポーションなんて足元にも及ばない。
だが、一般的な回復魔法師と考えれば、このポーションでもお釣りが出る。
そして、その回復魔法師に治療を頼めば……金貨5枚は下らない。
これは王国が定めた価格だから、安くなることはない。
それゆえ、ポーションの一瓶金貨一枚は良心的な値段なのだ。
それが回復魔法師級のポーションとなれば……金貨3枚でも買ってくれるだろう。
それを仕入れで銀貨1枚で済んでいるんだ。
ノーラさんには報酬として金貨一枚でも安いくらいだ。
ただ……今は販路が決まっていない。
それゆえ、金貨一枚はさすがに厳しい。
「銀貨5枚。これでどうです?」
「ご、ご、ご、5枚!? そんなに頂けるんですか?」
材料と販売はこっち持ち。
作るだけの全量買い取り。
それで銀貨5枚なら悪くないだろう。
「販路が決まれば、金貨1枚まで増額する予定です」
「き、き、金貨!? 百本作ったら……金貨百枚……ふにゅう」
……え?
気絶しちゃった?
まぁ、今日はこの辺りでいいだろう。
「今日は帰らせてもらうよ」
「ええっ! 泊まっていきなよ」
バカを言うな。
こんな所で寝られるわけがないだろう。
……しかし……。
ノーラさんはこれから重要な人になる。
こんな場所で暮らされて、体調でも崩されれば商売に大きな影響が出かねない。
……。
「僕のところに来るか?」
「なんで? お姉ちゃんをお嫁さんにするの?」
どうして、そうなる。
「彼女は僕にとって大切な人なんだ。ここにいれば、病気になるかも知れない。それを心配しているんだ」
「ふーん。やっぱり、好きなんじゃん!」
どういったら、いいものか。
商売の上での話をしているのに、子供に全く通用しない。
もう面倒だな。
「そういう事にしておこう。それで?」
「分からないよ。お姉ちゃんが起きてから、決める」
それもそうか。
僕は定宿にしている場所の地図を手渡して、このスラムを出ることにした。
「よしっ! やったぞ!」
誰に言うわけでもなく、喜びながら、宿に戻った。
……それからしばらく経った頃……。
いつものようにラウンジで朝食を摂っていた時……。
表が少し騒がしくなっていた。
「汚いエルフが入ってくるんじゃない!」
「ここにいる人に用があるんです! 決して、怪しいものでは」
「うるさい! ここはこの街で一番の宿なんだぞ。お前らのような卑しい奴らを相手にする人なんて、いないわ」
……。
「ここにいるぞ」
「アルヴィン様! すみません、この汚い者たちを・・…えっ!? 今、なんと?」
「僕が彼女らを呼んだんだ。すぐに部屋に案内してくれ」
「……かしこまりました」
従業員が彼女らを宿の中に案内しようとしたが……。
「ちょっと待て、君は彼女らに言うことがあるんじゃないか?」
「は? いや、特には……」
「そうかな? 彼女らは僕の大切な客人だ。君は何だ? 従業員だろ? 宿の客の客人に暴言を吐いても、構わない……そう言うのかな?」
僕は腹が立っていた。
彼女らエルフは確かに嫌われている。
それは僕が『出会い』スキルを持っているだけで笑われているのと変わらない。
どちらも理不尽なものだ。
「申し訳ありませんでした」
「それでいいよ。さあ、案内してくれ」
僕は彼女らの宿をとるために、カウンターに向かった。
「済まないが、二人分の部屋を頼む」
「申し訳ありません。アルヴィン様。エルフをお泊めするわけには……」
どいつもこいつも……。
「じゃあ、僕との相部屋なら構わないな?」
「ええ、エルフが宿にいることを知られなければ……」
「それでいい。じゃあ、もっと大きな部屋を用意してくれないか?」
「かしこまりました。アルヴィン様」
一旦、部屋に戻り、ノーラさんと再会した。
「すまないけど、移動してもらえるかな?」
「そう、ですよね。私達がいると皆が迷惑しますね。分かりました……」
ん?
どこに行こうとしているんだ?
「ノーラさん、こっちだよ」
「だって、私達は外では?」
何を言っているんだ?
……。
「ここだよ」
「な、な、なんですか! ここは」
そんなに驚くことかな?
「ここの宿で一番大きな部屋を借りたんだ。なかなか言うことを聞かない人たちでね。一緒の部屋になったんだけど……いいかな?」
さすがに男と一緒はイヤかな?
「ぜ、全然! 私の方こそ……いいんでしょうか?」
「もちろんだよ! 君は僕のパートナーなんだから!」
「パ、パートナー!? いや、でも、私達……いつの間にそんなに親しくなったのでしょう?」
それもそうか。
まだまだ、出会ったばかりだもんな。
これからの商売にはノーラさんは必要不可欠な存在だ。
一緒に商売をして、信頼を勝ち得ていかないとな。
「時間がかかっても、必ず僕はノーラさんにとって大切な人になってみせますよ!」
「……えっと。よろしくお願いします」
始まったんだ。
「ねぇ、お兄ちゃん。お腹空いた」
「そうだね。ノーラさん、食事にしようか? と、その前に……」
ノーラさんと妹さんに服をプレゼントした。
二人は身奇麗になって、見違えるようだった。
特にノーラさんは……。
「見惚れちゃ、ダメだよ。お兄ちゃん」
見惚れて何が悪い!
こんなに綺麗な人がこの世にいるのだろうか……。
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