第7話 出会ったエルフはやっぱり美人でした

塗り薬のポーションを作るには、薬草エキスとスライムの素が必要である。


それは夢の記憶の中で教えてもらったことだ。


だけど、調合まではすることが出来ない。


これには薬作成系のスキルがどうしても必要不可欠だ。


といっても……大きな薬屋に頼むのは無理だろう。


彼らは商会とは強く繋がっている。


持ち込みを受け入れてくれるとは思えない。


そうなると……スキルを持っていて、商会に属さない、金に困ったやつを狙っていくしかない。


それに『出会い』スキルで『敵』に該当しないやつ……。


……見つかるかな?


僕はライムートの街をそれこそ虱潰しのように歩き回った。


いないか……。


まぁ、無理もないか。


薬作成スキルは有用なスキルだ。


特にダンジョン探索者にとって、ポーションは生命線。


需要も高止まりをしている状態だ。


まさに引く手あまたのスキルと言わざるを得ない。


「これは……ちょっと早まったかな?」


すでにレイモンドからの仕入れが次々と行われている。


市場性のないゴミが在庫として積み上がり始めている状態だ。


なんとか、これを消化しないと……。


中心地から郊外に……そして、路地へと足を運んでいった。


「さすがにここまで来たら、いないよな。やっぱり、王都で探したほうがいいかな?」


それでも構わないと思った。


だけど、頭で計算をする。


ライムートで仕入れた材料を王都まで運ぶ。


王都でポーションの製造をする。


そして、ライムートで販売する。


これだけでも経費がかなりかさむ。


それだけ利益が減るということだ。


出来れば、ライムートの街で見つけたかったんだけど……。


そんな時に『出会い』スキルが発動した。


……まさに光明というのはあるんだな。


「ポーション! 安いですよぉ! ねぇ、お兄さん、これ買ってよ」

「うっせぇ! こんな胡散臭い所で買えるかよ!」


通りの少ない郊外のハズレでひっそりと路地売りをしている人がいた。


「ねぇ、買ってよぉ」

「汚ねぇな。触るな!」


探索者とも揉めて、売り子が倒された。


「げっ……エルフかよ。気持ち悪ぃ」

「あ、あの……ポーションを買って下さい」


僕は遠くから、その光景をじっと見つめていた。


正直、悩んでいたからだ。


『出会い』スキルはあのエルフを捉えていた。


スキルが告げる、僕との関係性を受け入れるべきか……。


正直、エルフとは関わりになりたくない。


彼らの祖先は我々人間と長い間、戦い続けた。


だが、長い年月を得て、エルフは人間たちとの共存を選んだ。


それがどう言う理由なのか、経緯すらわからない。


ただ、当たり前のように街中でエルフを見かけることがある。


それでも過去の記憶がそうさせるのだろう。


エルフは人間からは迫害の対象だった。


そして、それに拍車をかけることがある。


それは彼らの外見だ。


とても醜く……見るに堪えない顔をしている。


……僕も昔はそう思っていた。


だが、夢の中の記憶に触れる内に大きく考え方は変わっていた。


「エルフって物凄く美形だよな」


身長が高く、細身で……顔が小さい。


翡翠色の髪と瞳がとてもキレイだ。


お近づきになりたいとは思う。


しかし、これからの商売を考えると……エルフは障害になりかねない。


今だって、そうだ。


ポーションの品質は悪くないだろう。


なにせ、ポーションの製法を伝えたのはエルフなのだから。


その知識に長けている種族なんだ。


だが、見目だけで毛嫌いされ、売れるものも売れない。


……どうしたものか?


すると……僕の存在に気付いたのか、エルフが近づいてきた。


「あの……ポーションはいかがですか?」

「あ、あ……」


ああ、見れば見るほどキレイな人だ。


女性に何を話せば……。


逃げる? いや、ダメだ。


これは千載一遇……リスクをしっかりと計算を……。


「どうか……なさいましたか?」


それ以上、近づくな……。


緊張で胸が張り裂けそうになる。


僕はずずずずっと後ろに引き下がった。


「あっ……ごめんなさい。近すぎましたね。あの……ポーションを」


しまった……つい条件反射で離れてしまった。


「違うんです! 貴女がその、とてもキレイで……」

「えっ!?」


何を言っているんだ、僕は……。


「いや、あの違う……いや、キレイなのは違わないんですけど……」


落ち着け……大丈夫だ。


仕事の話だ……仕事の話なら……


「貴方に一つ、相談があるんですけど」


そうだ。


それでいい。


「相談……ですか?」

「ええ。きっと、貴女にとって悪い話ではありません」


とりあえず、商品開発を先に進めよう。


売り方はどうにでもなる……。


どうにでもしてみせるさ!


……。


彼女はそれからも商売を続けたが、結局一本も売れることはなかった。


僕は、少し離れた場所でじっと彼女の動きを見ていた。


正確には見惚れていたのかも知れない。


やって来る客は横柄な者が多い。


別にダンジョン探索者が皆、性格が荒いというわけではない。


ただ、露天売りに対して、見下しているだけなのだろう。


これも立派な商売だと思うが……


これが、店舗を持たない者に対しての扱いなのだろう。


そんな客に対しても、彼女は決して丁寧な姿勢は崩さない。


実に優秀な売り子だ。


ただ、それだけではない。


客によっては暴力をしてくる者も少なくない。


特に商品に当たる客が多い。


だが、彼女の冷静な行動で商品は必ず無傷だ。


もっとも、彼女がその被害の全てを受け止めているのだが……。


キレイな顔に傷が付くことに心が痛むが……。


僕は静観する。


それが彼女の商売道なのだろう。


そこに土足で踏みにじるような真似は僕には出来ないな。


「終わりました。結局、一本も売れませんでしたけど……」


憂い顔もまた、美しいな。


さて、商談だな。


「どこか、落ち着く場所はありませんか? 僕の定宿でもいいんですけど」


「でしたら、家に来ますか?」

「分かりました」


彼女の後ろ姿をずっと見つめながら、郊外の更に奥に向かっていく。


……なんて、酷い場所だ。


ここが噂に聞く、スラムというやつか。


辺りに糞尿が転がり、悪臭が鼻につく。


住み着く人たちの視線は常に下を向いている。


まさに人生の墓場だな。


そんな中に彼女が暮らす家……というべきなのだろうか?


大樹二本に雨よけの布が掛けられ、周りを粗末な木で覆っているだけだった。


入り口らしいところにも布があり……彼女はすっと姿を消した。


彼女はすぐに布の間から顔を出した。


それがまた……可愛いな。


「どうぞ、中に……」


商談をするともあって、心は至って冷静だ。


「ああ。入らせてもらうよ」


中を入って、驚いた。


片隅に薬草の山とポーション作成の道具が綺麗に置かれていた。


という部分ではない。


子供がいたからだ。


もしかして……この人の子供かな?


エルフは長寿で見た目が変わらないと聞く。


「貴女のお子さんですか?」

「えっ!? ち、違いますよ! この子は私の妹で……」


なんで、僕はホッとしているんだろう。


まずは商談だ……。

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