第4話 ダンジョンは商売の種が溢れている

ダンジョンは太古の昔より存在していたらしい。


中にはモンスターと言われる異形のものが支配し、君臨している。


モンスターを倒すごとに、ドロップ品というのが得られる。


肉や皮、牙に角……上げたらきりがない。


宝石なんかも出てくる。


人間たちはそれらを恵みの種として、生活を営んでいる。


いわば、ダンジョンあっての人間なのだ。


それゆえ、ダンジョン探索者は農家であり、漁師であり、木こりであり、鉱山夫なのである。


僕は最深部を目指すようなバカなことはしない。


たしかに、最深部に行けば、希少価値の高いものが見つかるだろう。


それを独占をすることが出来れば、莫大なお金を手にすることも出来る。


だが、それに見合ったリスクがつきまとう。


そんな物を背負うのはゴメンだ。


そもそも、僕には『出会い』スキルしかないのだ。


そんな芸当が出来るとも思えない。


だったら、今までの経験を活かせばいい。


要は商売の種さえ見つけることが出来れば、それでいい。


商会が目につけていない物があれば……。


といっても、簡単に攻略できる場所にそんな都合のいいものがあるとも思えないけど……。


武具の確認をして、出発だァァァ。


クスクスと僕を笑う『敵』達を無視して、ダンジョンの入り口に一歩……。


足を踏み入れた。


真っ暗な洞窟のはずなのに、不思議な光が点々と壁から漏れている。


そのおかげで視界こそ悪いが、全く見えないということはなさそうだ。


「松明が不要なのは助かったな」


冒険に特化したスキルならば、収納袋と呼ばれる能力を持っている。


『勇者』にも当然、備わっている。


それがあれば、大量の荷物も小さなカバン程度に収まってしまう便利能力だ。


まぁ、それがなければ、巨大なモンスターから採れた素材を持ち帰るなんて芸当は出来ないのだが……。


……僕?


僕はもちろん、そんな便利アイテムは持っていない。


だから、大きな背負いのバックを持っていかなければならないのだ。


持っていく荷物は最小限に……。


さて、最初はどんなモンスターが現れるのかな?


……。


さすがは王都近郊のダンジョンだけあって、人通りが多い。


行き交う人たちは皆、僕の胸に書かれた文字に失笑と侮蔑の表情を浮かべる。


『出会い』と書かれた鎧がそんなに面白いのだろうか?


ボロいシャツに『勇者』の方がよっぽど面白いと思うんだけど……。


こんな状態が何度も続く。


本当に……『勇者』ばっかりだな。


しかも、誰も彼も貧乏くさい。


僕だったら、絶対にヘラヘラ笑いながら生きられないよ。


次第に奥に向かう人の数も減っていく。


この先に転移紋が設置されていて、攻略していくと、そこまで進めることが出来るようだ。


とても便利だ。


まぁ、僕には関係のない話だけど。


ついに最上階層のダンジョンにたどり着いた。


さすがに一番簡単な場所だけあって、誰もいない。


こんなところでうろついている奴はルーキーくらいしかいないだろう。


さてと……。


辺りを見渡す。


ここは平原が広がるエリアのようだ。


実にほのぼのとした雰囲気の場所だ。


木陰に腰を下ろし、じっと地平線……ではなくて、遠くの壁を見つめていた。


「モンスター、出ないなぁ」


探し回ってみたが、出てくる気配がない。


もしかして、狩られ尽くしたとか?


ありえない話ではないけど……。


「疲れたなぁ」


着慣れない重い鎧で僕の足は既に限界を迎えていた。


それに……。


「ここの風は本当に気持ちいいな」


ここにキャンプ場を作ったら、人気が出るだろうな……なんて思いながら、うたた寝をしてしまった。


これはダンジョンでは絶対にやってはいけない行為らしい。


寝ている間は無防備だから、モンスターに襲われる危険性がある。


……だけではない。


ダンジョン探索者に金品を奪われる危険性もあるのだ。


ここでは自衛が基本。


油断したほうが悪いことになる。


だが、僕は運が良かったようだ。


モンスターが一匹だけこちらを伺っているだけだった。


……うおっ!


モンスターだ!


といっても、小さなスライムだ……。


最弱のモンスター。


僕はゆっくりと剣を抜き払った。


「重っ!!」


おかしい……買った時はこんなに重くはなかったのに……。


あの親父、何か呪いでも掛けやがったのか?


僕は何度も振り回されるように振り下ろし続けた。


「避けるな!! くそっ!! 避けるなって!!」


嘲笑を浮かべられている気がする。


くっ……ちょっと可愛いじゃないか。


……倒せない……。


僕にはこんなに可愛いモンスターを……。


「あっ」


剣を落とした拍子に、スライムに剣がクリーンヒット!


会心の一撃でモンスターを倒してしまった。


「ああ、スライムぅ。こんな姿になって……」


スライムのドロップ品はスライムの素だった。


ネバネバとした液体だ。


「……とりあえず、持ち帰るか」


たしか、商会の買取りリストにはこのスライムの素は入っていなかった。


ゴミかも知れないが、持ち帰って損はないだろう。


次っ!!


すっかり、目が覚めた。


初めてのモンスター討伐……偶然に倒せてしまったけど……のおかげで気分は少し高揚していた。


「やれる!! 僕でもモンスターを倒せるんだ!!」


最上階層でこんなに燥いでいるやつも珍しいだろう。


だが、気にすることはない。


だって、誰もいないのだから。


「次はスパイダーか」


大きな蜘蛛だ。


これはさっきみたいに偶然では倒せなさそうだ。


ここは一気に剣で突き刺してやる!!


あっ!


やるな……まさか、糸を伝って、あんなに早く動けるとは。


だったら、人間の叡智を見せてやる。


火打ち石だ!


これで蜘蛛の巣を燃やしてくれる!!


さあ、降りてこい。


一思いに突き刺してくれる!


……こない、だと?


しかも、頭上高くジャンプをして……逃げるつもりか?


違う!!


こっちにやって来る!


どうする?


逃げるか?


いや、あっちの方が早い……。


だったら……。


謝るしかない!!


誠心誠意、謝るんだ。


モンスターにも通じるはず!!


「巣を燃やして、すみませんでしたぁ」


「ぐぅにゅ」


あれ?


スパイダーが倒れている。


手にした剣に自分から突き刺さったのか?


「バカだなぁ」


ドロップ品は蜘蛛の糸。


これは買い取りにあったな。


銅貨1枚……こんな命懸けをして……しょぼい……。


通貨は銅貨10枚で銀貨一枚と交換だ。


一日、宿代と飯代を安く済ませたとして、銀貨4枚は欲しい。


つまり、蜘蛛の糸を最低でも40個集めないといけない。


「これはかなり大変だなぁ」


スライムとスパイダーを倒しただけで、僕の体力は限界を迎えようとしていた。


今日の稼ぎ……銅貨1枚。それとスライムの素を1つ。

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