第2話 これが僕にとって最高のスキルだ‼

15歳になるとスキルを得ることが出来る。


この世界では、このスキルですべてが決まると言われている。


あの夢がなければ、僕もそれを信じていたかも知れない。


だけど、スキルがなくても商会を大きく出来ることを証明した。


「行ってきます」

「うむ。お前も我が商会の習わしに従い、『商人』スキルを取ってくるのだぞ」


僕にとっては『商人』スキルなんて、大した価値があるものとは思っていない。


だからこそ、僕が欲しいスキルは他にあるんだ……。


「さあ、ここから好きなものをお選び下さい」


目の前に大きく映し出されたスクリーンに数多のスキルが並ぶ。


実はスキルは自由に選ぶことが出来る。


といっても、本人の能力によって選べるスキルは変わってくる。


その点……。


「それにしても、凄まじい量のスキルですな」


まさに無限のスキルだ。


当然、その中に『商人』スキルも混ざっているが、興味はない。


そんなものがなくても、商売は出来るのだから。


だったら、別の物を選んだほうがいいだろう。


横でも僕と同じような人たちが、スキル選びをしている。


「よっしゃぁ!! 『勇者』スキルだ」

「私なんて、『聖女』よ!!」


各々は優秀なスキルを取れたと思って、喜びの声を上げていた。


こいつらはバカなのか?


そんなスキルをとって、どうするつもりなのだろうか?


自由にとれるせいで、この世界には『勇者』や『聖女』が溢れかえっている。


高い攻撃能力でダンジョン探索者になったり、高い治癒能力で医者になったりするだろう。


だが、もう一度言う。


溢れかえっているのだ。


そのせいで、街中では『勇者』スキル持ちの浮浪者が大量にいる。


その現実を見ていないのか?


だが、若者を責めてばかりもいられないか。


なにせ……。


「お客様はどうなさいますか? 勇者……賢者なんてものいいのでは?」


神官が勧めてくるのだ。


これも王国の政策と言うべきか……。


勇者などの高い戦闘力を持つ人たちは王国にとっては軍事力のステータスなのだ。


より多くの勇者を保有する国家が強国となる。


……と本気で信じている。


そのため、躍起になって勇者確保に動いている。


もちろん、それに匹敵するスキルも同様だ。


手厚い給与を与え、保護をしている。


「勇者になれば、年に金貨300枚が与えられますよ」


まぁ、それだけ貰えれば、暮らしていくには十分なお金だ。


それにダンジョン探索者ともなれば、上乗せが出来る。


一見、良さげに見えてしまうだろ?


それが全然違うのだ。


それはまた後で説明しよう。


僕は再び、スクリーンに目を向けた。


欲しいスキルは……。


これだ。


『出会い』スキル。


これを探し求めていたんだ。


夢の中の人が叶えることが出来なかった夢……。


それを叶えるためのスキルを僕の生涯一度しか得られないスキルにする。


それについて一切の後悔はない。


「ほ、本当によろしいのですか? 後戻りは出来ませんよ」


こんなスキルを選ぶ人なんて、この世界に存在するのだろうか?


いや、いないのだろうな。


神官の驚く顔がそれを証明している。


「このゴミスキ……いや、『出会い』スキルはボーナスがありませんよ? それに……」


この神官、ゴミスキルって言おうとしていなかったか?


まぁいいか。


このスキルの真価を分かっているのは、この世界ではきっと僕だけなのだから……。


「問題ありません」

「分かりました!! 本当によろしいんですね!?」


しつこいな……。


「では……これでお客様は『出会い』スキル持ちです」


すると、神官から服を手渡された。


……やっぱり、これを着ないといけないのか?


この世界……いや、王国の独特なルール。


それが……。


『出会い』と大きく書かれた服を着ること。


自分のスキル名が書かれた服を着なければならないのだ。


スキル選びで人生が変わると言った。


それは職業の選択が変わる、と言う以外にも変わる部分がある。


それは……価値観だ。


だから、さっきの『勇者』スキルの少年は……。


「かっけぇぇぇぇ」


と勘違いすることになる。


『勇者』と書かれた服のどこが格好いいのだろうか?


全く、理解に苦しむ。


だが、僕の服も相当だな。


『出会い』って……。


なんだか、とても恥ずかしい。


……教会を出て、すぐにスキルの恩恵を受けることになる。


『出会い』スキルは、出会った相手が自分にとって、どのような存在かを教えてくれるものだ。


例えば……。


そこの人。


僕の服を見て、ケラケラと笑っている人だ。


その人は……『敵』と教えてくれる。


こうやって、相手と僕との関係を教えてくれる。


……。


本当に敵しかいない。


特に王国推奨のスキル……『勇者』とか『聖女』とか『賢者』持ちは殆どが敵だ。


『出会い』スキル持ちをバカにし、攻撃をしてくる。


まぁ、こんな奴らに構っている暇はない。


このスキルをどうやって、商売に役立てるか……。


すぐに実践できることはないか……。


僕の右腕となる人……そして、一生と共にする人……。


考えなければならないことが山のようにあるんだ。


「父上。ただいま、戻りました」

「……」


父上の青ざめた顔など見たことがあっただろうか?


まぁ、無理はないかな。


でも、問題はないだろ?


なにせ、僕は証明し続けてきたのだから。


『商人』スキルなどなくても、商会を維持できる、と。


「な、なんなのだ!! そのふざけたスキルはぁ! あれか? これしかなかったのか?」


勘違いされては困る……。


それでは僕が無能みたいじゃないか。


「いえ、殆どのスキルが選べましたよ」

「はぁ? じゃあ、なぜ……」


どう説明したものか……。


「これが最適だと思ったからです。なにか、問題はありますか?」


これで父上も分かってくれるだろう。


さて……教会に行っていたせいで、仕事が滞っているな。


ちゃちゃっと片付けるか……。


「では、父上。仕事に戻らさせてもらいます」

「お前など、我がエグバート家の者ではない! すぐに立ち去れ!! このゴミスキル持ちが」


……。


何をそんなに怒ることがあるんだ?


「冷静になって下さい。このスキルは商売ではとても有用なのです。特に……」

「黙れ黙れ! 『商人』スキル以上に有用なスキルなど存在するか!! 貴様のような無能はさっさと出ていくがいい!!」


困ったな……。


これだけは言いたくなかったんだけど……。


「僕がいなければ、この商会は回りませんよ? それでもいいんですか?」

「くだらないことを言うな!! お前が生まれる前からずっと私は一人でこの商会を育てたのだ。お前がいなくなったからと言って、なんなのだ?」


父上がここまで頭の硬いバカだとは思ってもいなかった。


「分かりました。それでは再び、会うことはないでしょう。それでは」


引き継ぎ?


そんなものはする必要はない。


僕がいなくなったことで、商会は機能不全を起こすだろう。


だが、そんなのは知ったことではないな!

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