スキルを自由に選べる世界で僕はあえてゴミスキルを取ります。だって、『勇者』や『聖女』なんてバカが取るものでしょ?

秋 田之介

第1話 スキルは所詮はスキルだな

僕は夢を見ていた。


人一人の一生分の夢を。


彼は商人だった。


類まれな才能で小さな商会を大陸を支配するほどの大商会へと育て上げた。


商人としては順風満帆だった。


商会は肥大化を続け、巨万の富を築く。


動かせる資金もその辺りの小国の国家予算並であった。


彼の前では多くの人が跪き、彼の声を一つも漏らさぬように聞き耳を立てる。


そう、彼は臨終を迎えようとしていたのだ。


その今際の際……彼は強く願っていた。


全てを手にした男が唯一手に出来なかったもの。


それが家族だった。


「生まれ変わったら……金も名誉も要らない……家族だけを……」


夢はそこで終わった……。


……。


「坊ちゃま!! 坊ちゃま!! 朝でございますよ」


我が家の家令長の声でいつも目が覚める。


僕の家は王国でも指折りの商会で、大金持ちだ。


それこそ、その辺の貴族など足元にひれ伏すほどの。


「坊ちゃま。涙なんて流して、何か嫌な夢でも?」


今は家令と話している場合ではない。


「さあな。それよりもすぐに父上に会いたいんだが」

「大旦那様に……ですか?」


「急げ!!」

「は、はい!!」


僕はかつてないほどの高揚感に包まれていた。


さっきの夢は神からの贈り物なのか?


スキル以外にもこんなに素敵な『知識』を与えてくれるなんて……。


……。


父上は我が商会の15代目になる。


代々、『商人』スキルを神から授かり、商会を大きくさせていった。


特に父上は儲けの香りを嗅ぐ天才だった。


次々と商品化を成功させ、今まで以上に商会が膨れ上がっていた。


「父上。僕に仕事を任せてもらえないでしょうか?」

「なに? 12才のスキルもない子供に仕事を?」


この世界では15歳でスキルを与えられる。


それまではどんな人でも大差のない子供だ。


スキルのあるなしは、大きな能力の差を生む。


だからこそ、スキル無しの僕に仕事を任せるなど、論外と言わざるを得ない。


だけど……僕には夢で見た知識がある。


その世界ではスキルなんてない。


完全に自分の実力だけでのし上がる世界。


そんな厳しい世界で巨万の富を築いたあの人の知識が僕にはある。


「お願いします! 今のうちから、勉強をしておきたいのです」

「ふむ……」


スキル無しの僕が今の実力をひけらかしても、相手を不快にするだけだ。


結果で証明しなければならない。


だけど、その入り口に立つためには……。


ひたすらお願いをするしかない!!


「父上!! どうか……お願いしますぅぅ」

「わ、わかった! お前にはウィンベル商会を与える。そこで勉強するがいい」


潰れかけているとは言え、商会を子供に与えるとは……。


ちょろいもんだな……父上は。


商売の鬼になりきれない父上の弱さだ。


子供の頼みなど、聞く必要などないのに……。


まぁいい。


父上も所詮は僕の踏み台に過ぎないのだから。


「ありがとうございます!! ウィンベル商会を立ち直らせてみせます!!」


「ふん!」


子供の戯言を鼻で笑った父親の姿が印象的だった。


だが、僕は本気だ。


僕はこの商会をきっかけに、大きくなってやる。


父上を越す程の大商人に……。


……。


「ここがウィンベル商会か」


名前こそ、老舗に数えられる程だが……。


「ボロいな……」


初代様が作ったと言われる最初の商会だ。


商いの殆どは父上が持つ商会に奪われ、残っているのは旨味の少ない物ばかり。


だが、僕にとっては最高の商会だった。


旨味が少ないというのは、言い方を変えれば、手堅いとも言える。


利益は少ないが、決して動きが悪いというわけではないのだ。


それにかつての大商会と言うだけあって、それなりの規模を持っている。


「変えるべき所はたくさんありそうだな……」


僕は一歩、ウィンベル商会に足を踏み入れた。


それから、すぐに改革を断行した。


もっとも、最初は僕の言うことを聞いてくれる人なんて誰もいなかった。


そんな時は毎回……「父上に言いつけるぞ」という一言で解決が出来た。


子供の浅知恵と笑われるかも知れないが、これが存外、効果覿面だ。


まず、行ったのは人員整理だ。


効率を重視した人員配置を決め、有能なものは商会内で出世させた。


もちろん、使えないやつは追い出した。


真っ先に追い出したのが、商会のトップだったから父上で叱られてしまったが……。


それでも関係はない。


仕入先も変えた。


昔からの取引先を変え、新規で集めることにした。


そうすることで新陳代謝を図り、新しい息吹を入れることにした。


もちろん、こちらの条件に従ってくれれば、今まで通り取引をするつもりだったが……。


そんなことをしている内に、周りの態度は少しずつ変わっていった。


なぜなら、ウィンベル商会の売上が右肩上がりになっていったから。


従業員の給料も少しずつ上げ、我が商会内でも高い水準にまでなっていった。


そんなある日、父上に呼び出された。


「お前には見込みがある」


そんな言葉から始まった。


実に無意味な言葉だ。


僕には父上が何を言おうとしているのか、すぐに分かっていた。


父上の商会は少しずつ、傾き始めていたのだ。


その理由は肥大化したスピードが早すぎたためだ。


売れる商品は飛ぶように売れたが、それを支える商会が出来上がっていなかった。


そのせいで、入荷待ちの列が並び、市民や取引先から不満が集まり始めていた。


「お前には統括をやらせる」


いわば、父上の代理人だ。


若干14才の少年に商会の全てを委ねてしまったのだ。


これが『商人』スキルの限界。


なるほど……確かに素晴らしいスキルだと思う。


商売の種を見つける……これに特化したスキルだ。


だが、それに父上は振り回されすぎた。


そのせいで……商会は大きく傾こうとしているのだから。


「分かりました」


……。


たった一年で商会はゆるやかに回復基調に戻っていた。


大小ある傘下の商会を統廃合をし、労働力と資源を一極集中することでなんとか状況を打開していった。


あと5年もすれば、商会は完全に立ち直り、更に大きな商会へと成長できるだろう。


僕は父上からも大きな信頼を得た。


これでいい。


ここまでは僕の願望だ。


次は貴方への恩返しをする番です。


夢の中でずっと願っていた男の願いを叶えるために、僕は一歩をふみだした。

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