第2話 第1幕 求婚
第1幕 求婚
舞台中央に玉座。その手前にリアとケント
ナレーター 病により急死したブリテン国王の後を継ぎ、若き王子リ アは王位を継ぐこととなる。王は即位に伴い、妻を迎えて婚礼の儀を執り行うこととなった――
リア ああ、何ということだ。どうやら母上は私の結婚相手には従妹のゴネリ ルがふさわしいと言い出してしまった。しかし、しかし私は……
ケント 何を迷うことがありましょう。リア様、あなたは国王であられる。あなたの意見を誰が反対できましょう。他に……心に決められた方がおいでなのですね
リア わかるか、ケントよ。実は私はキャピュレット家の令嬢コーデリアに恋してしまったのだ
ケント なんと、キャピュレット家とは
リア ああ、そうなんだ。我がモンタギュー王家とは犬猿の仲と言われるキャピュレット家の令嬢だ。噂ではキャピュレット家は国家転覆を奸計しているとも言われている。そんな者を妻にするなどいくらなんでも大義名分というものが……
ケント いや、そんなことはありませんぞ。大義名分が必要というのならば、むしろ好都合。対立する家同士の結婚とあらばそれはひとつの国家安泰の印。ためらうことなどありません
リア いやしかし、それだけではまだ足らない……はっ、そうだ! こういうのはどうだろうか
暗転
リアが玉座に、右にケント、左にクロ―ディアスとガートルード。向かいにゴネリルとコーデリアが離れて立つ
ファンファーレと共に照明
リア 今日ふたりに来てもらったのは他でもない。今から二人にはわたしのことをどう思っているのかをそれぞれ言ってもらいたい。その上で私をより感心させた方を妻としたい
ゴネリル それではリア王様。まずは私から――
ああ、リア王様。初めてお会いした時からわたしはあなたのとりこ。あなたのことを思えば花は咲き、鳥も歌う。そよぐ風は果実を実らせるのです。
この想い、どんな言葉で表せばよいのでしょう。
持ち金を数えるのならば貧しいもののほうがたやすいでしょう。富める者ほどその数を数えることは困難になります。
わたくしの思いも同様。溢れすぎるその想いはいくつ言葉を重ねても語りつくせることはございません。
わたくしのこの想い、せめてリア様にその一端でも知っていただければ幸いかと……
リア 言い尽くせぬか。それならばそれも仕方なかろう。気持ちは十分に伝わった
ゴネリル 心苦しく存じます
リア うむ、では次だ。さあ、言ってくれ。コーデリアよ。そなたの気持ち、存分に伝えてくれ!
(リア王は後ろを向き、つぶやくように)
どんな言葉でもよいのだ。私の気持ちは初めから決まっている。恐れることなど何もないのだ。さあ、言っておくれ……
コーデリア ああ、リア王よ。あなたはなんて残酷な人なのでしょう
リア 残酷とな?
コーデリア だってそうでありましょう? 身分も決して高くないわたし、ましてや長い間モンタギュー家がキャピュレット家とは仲が悪いということだってリア王様は知っておいででしょう。
それなのにこのような人前で想いを言葉にしろなどと言われ、どうしてそれが言えましょう。そんなことをして、わたしが選ばれなかった時、果たしてわたしに帰る家があるでしょうか?
リア いや、しかし……それはだな……
コーデリア きっとあなたという人はそうやって人前で何も言えないわたしをあざ笑い、元より決めてあったそのゴネリルという女と結婚をなさるおつもりだったのですね。ああ、何という残酷。わたしはそうして人前で恥をかかされるだけの運命なのですわ
リア 私が、恥をかかせるだと?
コーデリア そうでありましょう?
リア ええい、なにを言う。恥をかかされたのはこちらの方だ。お前のようなやつは知らん。どこへでも行くがいい! 私は、ゴネリルと結婚するぞ!
ケント リア王様!
コーデリア立ち去る
リア ゴネリルよ、そなたの言葉、このリアの心に確かに届いたぞ
私の妃となり、共にこの国を支えてはもらえないだろうか
ゴネリル 本当に、本当にわたしなどでよろしいのですか
リア 何を言っている。ゴネリルよ、そなた以外にいったい誰がいようというのだ
実をいうとな、私は初めから決めていたのだ。二人が、どんな言葉をわたしに投げかけようとも、心の中ではゴネリル、そなた以外にはありえないと思っていたのだ
ゴネリル 信じて、信じてよろしいのですか?
リア もちろんだ。
リア、ゴネリルを抱きしめ幕が下りる
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます