怪獣の子供たち

翠雨このは

第1話

 あたり一面広がる海に囲まれた人工島コズモノア。


 そこには現在、百二十五名の少年少女が暮らしている。


 今から七十五年前──


 地球に突如あらわれた巨大怪獣との戦いで人類は苦戦を強いられたが、巨大怪獣から採取したDNAと人間のDNAを組み合わせて誕生した対巨大怪獣兵器の活躍によって、人類は勝利した。


 巨大怪獣の度重なる出現に対抗すべく、政府は対巨大怪獣兵器の生産と教育をかねた人工島を太平洋上に造った。


 対巨大怪獣兵器は、人間の姿を普段はしているが、戦いの場になると巨大怪獣に変異する。


 『怪獣変異』には膨大な力を消費するため、彼らの寿命は十八歳で尽きるとされた。


 人類存続のために命を散らして世界を守り続ける彼らを、いつしか人はこう呼んだ──


 “怪獣の子供たち”と──……。


 海が見渡せる崖の上に、スコップを土に突き刺し、懸命に土を掘り続ける短い髪をした少年の姿があった。少年の胸の名札には『クサビ』と書かれていた。


 土を掘り続けるクサビを呆れた顔で眺めていた少女がクサビに尋ねた。彼女の名札には『ユミ』と少しくすんだ文字で書かれてあった。


「……それ、掘る必要あるの? 中に入るシキナの遺体はもう無い・・・・じゃない」


 すると、ユミの言葉にクサビは眉間にしわをよせた。


「……わかってる! だけど、これ作ってやんねーとあいつが生きた証が残らねーだろ! あいつは英雄だった。この墓はあいつが世界を守った証なんだ」


 ユミは掘るのを辞めないクサビにため息を吐くと、彼から視線を離した。 すると、崖の先に腰かけて本を読んでいる蒼髪の少年に彼女の目は留まった。


 彼の横に置いてあるリュックサックの名札には『ナオリ』と書いてあった。


 ユミは読書に耽っているナオリに近寄ると、彼に話しかけた。


「……ナオリ。何を読んでいるの?」


 ナオリはユミに話しかけられてもなお、本のページから視線を離さないまま彼女の質問に答えた。


「──この本、浜辺に落ちてたんだ。暇だから読んでみた。どこかの大陸の町に住んでる『家族』というグループで、彼らは一つの居住宅に暮らしてるらしい。彼らは俺たちよりも長生きで大人になると、異性相手と子供を作って家族を増やしてるそうだ」


 ページに並んだ文字の塊を真剣な目で追い続けるナオリに、ユミは大きなあくびをした。


「それは人だもの。あたしたち兵器とは関係ない話よ」


──すると、ユミの言葉にナオリは本を読むのを止めてポツリと呟く。


「俺たちって、人じゃない・・・・のかな?」


「そりゃ、当然でしょ。あたしたちは人を守るために生まれた兵器なんだから」


 本をぱたんと閉じたナオリは、決心したように立ち上がる。


 ナオリはユミの前に立つと、真剣な表情で彼女に告げた。


「──ユミ。俺と子供を作ろう」


 * * *


──それから数か月後。


 四方八方をコンクリートに囲まれた無機質な部屋で、ユミは立ちすくんでいた──その手には妊娠検査薬が握りしめられていた。


 ユミは自身の体で起きたことが信じられず、肩を震わせ、目からは涙がみるみるうちに溢れ、笑みが自然とこぼれた。


 その様子を捉えた監視カメラを通し、モニタールームでは監察官の男が、モニター画面を冷たい眼差しで見つめていた──……。

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