第12話 リッテの思いとメイドのユリ

「こちらですリッテ様。」と言って、裏口から手招きするメイド。

私はその後に付いて領主邸の中に入って行く。


「ありがとうユリ。」と私はそのメイドに感謝を口にした。


「あたりまえじゃないですか。今代の手引きをできるなんて、他の部下に自慢できできます。あ、すみませんつい緊張すると、なんかわけわかんないこと言っちゃううんです。」とぺこぺこしているメイド。


「あまりかしこまらないでくれる。普通の同僚メイドとして接して欲しい。」と笑顔。

「はいーーー。」と敬礼しているメイド。

うん、このメイドからは、屋敷に入ったら別れようと決意するリッテ。


「とりあえず。貴方の部屋に案内してくれない?」と優しく言う。

「は、むぐむぐ。」と私は大きな声を出そうとした彼女の口を手で抑える。


「あまり大きな声を出すと注目を浴びてしまいます。」と言ってメイドの口をふさいでいた手を話し、自分の唇に右手の人差し指を当て静かにと言うジェスチャーをする。


うんうんと首を縦に振る。

まだ緊張は解けていないようだが何とかなっているか?


「とりあえず貴方の部屋に案内してくれる。私はそこでここのメイドとなるように貴女のメイド服に着替えます。」

今着ているメイド服と、屋敷のメイド服は色合いが若干異なる。

些細なミスでリース様奪還をダメにしないように、完璧にしなければ!

キラーンと目が光る。


私は目立たないように、ユリと呼ばれたメイドの後ろを付いて行く。


廊下を歩いていたら前から誰かやってきた。


「あ、ユリ。」と駆け寄ってきたのはこの屋敷のお嬢様ミーナ様だった。

「こ、これはミ、ミ―ナ様。」ダメだこのメイドと頭を抱えそうになる。がポーカーフェイスだ。


「えーと、そちらの方は?」とお嬢様が聞いてきた。

「あ、えーと、うーんと。」とだらだら汗をかいているメイドのユリ。


「初めましてミミーナ様。私は新人メイドのリッテと申します。こちらのユリの従妹なんですよ!」と頭を下げてあいさつする。

再び汗をだらだらかき出すユリ。お嬢様のミーナも戸惑っている。


「あーと、えーとその。」と言い辛そうにしているユリ。

「そのユリがごめんなさい。あの私の名前ミーナと言います。」と赤くなって謝ってくるお嬢様。


「そうだったんですね。申し訳ございませんいつもユリが間違ってミミ―ナ様って紹介していたのでてっきり、そのお名前だと思ってしまって、そう言えばいつもなんだかミーナ様の名前を言おうとして噛んでましたね。」と驚いて返す。


「そうだったんですね。」とミーナがちょっと笑顔の裏で怒ってる。

ひぃーとユリが言っている声が聞こえた。


「ミ、ミーナ様。」っと後ずさるユリ。

「うん、今ミミ―ナって聞こえたような・・・」と笑顔の怒気を放つ。

「ひー。助けてください。」と泣いてリッテに頼む。


ふーっとため息を吐く。リッテ。

「すみませんミーナお嬢様。少しお待ちいただいてもよろしいですか?あとでユリを煮るなり焼くなりしてもよろしいので・・・」とリッテは笑顔。


「ええ、わかりました。ユリ案内が終わったら、私の部屋に来てね。」と笑顔が恐い。

「ひーーわかりましたミ、ミーナ様!」と言って再び睨まれたユリ。

お嬢様は歩いて行ってしまった。


「さて行きましょうか。」とリッテは言う。

「さて行きましょうかじゃないです!私どうしたらいいんですか?怒られちゃいますよ!!」と抗議する。


うーんとちょっと考えて答える。

「うん、頑張ってね!ユリ先輩!」と私は笑顔で言った。


「ガーン。」と肩を落とすユリ。


「それより早く案内してね。」

「それより、それよりって私の・・・わかりました。」と、ガクッとしてとぼとぼ案内する。


使用人の部屋に来た私は早速着替える。

前掛け風のエプロンを取り、それから背中を紐で結んで固定した部分を解いた。

来たものを下におろす。


そこで見たリッテのプロポーションは見事だった。

出るとこは出て凹むところは凹んでいる。

着ているブラジャーとパンツは若干煽情的だ。

リース様に見せるために付けていたのに!

再び怒りが込み上げてきそうになり、首を振って冷静になる。


「わ、わ。リッテさん奇麗です。」と言っているユリを置いてこの屋敷のメイド服に手を伸ばす。さっきとの巻き戻しで着ていく。あっという間に着替え終わった。


「もう少し見ていたかったかも・・・」とかユリが言っていたが無視だ。


「さてユリ、私は単独で行動します。ユリはいつも通りにこの屋敷で仕事をしてください。わかりましたか?」と指示を出す。

「はい、わかりました。」


「では先に貴女が外に出て、ミミーナ様の所に行ってください。」

ニコっと笑って私は言う。

「はい。」と言ってドアの外に出ようとして固まる。


「どうしましたか?」と首を傾けて私は聞いた。

「もしかして?さっきのわざとですか?」

「何のことでしょう?」と惚けるリッテ。ユリは振り返って聞く。


「惚けないでください。さっきいや、ミ、ミーナ様に会った時の事です。」と緊張しながら聞く。


「あら、やっと気付きましたか?まだまだですね。あのくらいすぐに気付かないと後でしっぺ返しがくると学んだほうがいいですよ。」と言う今代、はやっぱり今代なのだ。

「ひどい、ひどすぎますよ!」と私は声を上げる。


「それが私たちの仕事でしょう。頑張りなさい貴女の仕事、いや仕事の練習くらいでしょうか、なんとかミミ―ナお嬢様の誤解を解きなさい。これは命令と言ったらわかりやすいでしょう。ここで役に立つか立たないか見極めさせてもらいますね。」と言った今代の笑顔が鬼に見えた。


私リッテは屋敷のメイドを装い。辺境伯邸の周りを歩いて観察する。

誰にもばれずにばれても屋敷のメイドの風を装う。


廊下を通り過ぎるとメイドの噂話が耳に入ってくる。

曰く辺境伯の暗殺未遂でリース様が地下牢に幽閉された。

曰く執事長も地下牢に連れていかれた。

曰くお嬢様が公爵家に嫁がれるだとか・・・

曰く離れに辺境伯を軟禁しているだとか。


メイドがどこの館や城よりも多いのが辺境伯邸、噂話を集めるのは簡単だった。

大体こんな感じの噂話をしている。

王城で過ごしていた私に取ってはこんなことは朝飯前。

そうやって王城で訓練していたのだ。

些細なことでも大事に繋がらないようにすべて報告している。

良からぬ企みを防いだのも一度や二度ではない。


「王城のメイドは伊達ではないのだよ!」とどや顔である。


遠くにメイドに暴力を振るっている領主の息子のダストが見える。

今は見て見ぬことしかできない。

変にことを荒立てるわけにはいかない。


しかし我慢が効かないようだ。

私は強い殺気を放った。何か感じたのか周りを見渡すダストのゴミ。

いえ間違いましたね。私は気配を消して、その場から遠ざかっていた。


ある程度の噂話を聞いた私はリース様救出に向けて、近くの部屋に隠れることにした。

そこで私は来るべき決戦に向け集中力を研ぎ澄ます。

その力は荒れ狂う波のようなものだ。

血液が沸騰し暴走しそうになる。

それを押さえつけコントロールできるギリギリまで、持っていく。

そうすることで身体能力の強化がされていき、リース様を救出するための力が手に入っていく。


途中この部屋の前で何者かが何かに気付いたようだ。

私は入ってきたら無力化する準備をしていた。

この術は中途半端になるが仕方ない。

今の段階の操作は難しいがギリギリまでコントロールしておく。

その人物はドアを凝視するように見ていた。


ゴクリと唾を飲む。

こちらの気配に気付くとはただモノではありませんね。


しかしそのものは通り過ぎて行く。

恐らく不審に感じただけのようです。同業者でしょうか?


ホッとしながらまた力をためて、コントロール下に置いていく作業を再開する。


研ぎ澄まされていく力。

この力は扱いが難しい何かの拍子に暴走するかもしれない。

危ない力だ。だがこの力が今はありがたい。

こうして私にリース様を助ける力をくれるのだから。


決戦は今夜皆が寝静まる頃!

私は時間いっぱいまでここで闘気を練る。

助けたらいっぱい甘えようと考える。

どんなことをさせようか?と力を練りながら考えていく。

エプロン姿でお出迎えとかかな?

おかえりなさい、ご飯にする。お風呂にする。それとも私!とかもやってみたい。

身体をもじもじさせる。


いっそのこと私が襲いましょうか。

今はリッテ様弱っていますから、イチコロでしょうね。

こんな姿は部下には見せられない。

この邪念が、力のコントロールをよりやり易くしているとはリッテはまだ気づいていない。


そして狂暴化、バーサーカーのスキルがまさかの進化をしようとしていたのだ。


「待っていてくださいリース様!」

リッテは必ず助けるという決意で両手の拳を握った。

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