第13話 トリオと王国暗部

所変わって宿屋ニース


「確かここだったよな例の女がいる所は?」

男たちが乱暴にドアを開けて中に入る。


「はい、そのはずですが・・・おい隅々まで探せ。」

兵の隊長格とゴースが会話する。

隊長が右手を振って指示を出すと兵達は部屋の中に散っていった。

兵隊長格の男は皮の鎧を付けて背中に大剣を背負っている。


「しかしこんな人目に付かない宿に止まっているなんて、まるで悪いことを企んでそうですね大将。」兵の隊長がもみ手しながらゴースに言った。

「ああ、わが兄ながらおかしなことだ。昨日から領主邸に泊まっていればこんな二度手間踏まずに済んだものを!!」とめんどくさそうに言うゴース。


辺りを見てきた数十名くらいの男たちが戻ってくる。

「ゴース様!隊長!どこを探しても誰も居やがらないぜ!」と下っ端ぽい男Aが言う。

「ああ、誰もいないぜ。」と下っ端ぽい男Bが言う。

装備は普通に下っ端らしく剣を腰にして、胸当てを当てているくらいだ。

他の下っ端も同じ感じの装備を付けている。


「クッソ居やがらねー。どこ行ったあの女。」忌々しげに呟くゴース。

「恐らく逃げたのでしょう。リース様が捕まる時何か言ってましたからね。」と渋い顔をした。


「こんなことならあの時一緒に捕まえておくべきだった!」

物を投げる。そして蹴った。


「しかし妙ですね?」隊長が首を傾げる。

「どうした?」隊長に振り向く。

「普通宿屋には従業員がいるはずなのに誰もいないとは?」


ゴースは辺りを見渡す。

「む?そうか?おおよそ、その女が被害が及ばないように逃がしたんだろう。」


「そうでしょうか?」と疑問に思っている隊長。

「そんなことどうでもいい!ふん、帰るぞ!!適当なものに街中を巡回させて怪しそうな女を捕まえよと命令しておけ!あとこの宿屋で金目になりそうなものを没収しておけ。理由は親父の暗殺に加担したことだ!」と手でジェスチャーしながら、命令する。

「はっ!かしこまりました!」と言ってまた部下に命令する。


「便利だよな。この建前があればこの街ではなんでも許される。そうだ!このまま街で気に入らない奴の店に押し入り、金品、女を没収するか!やはり私は天才だ!」と名案を閃いた風に言う。

「それはいいですね!!」よいしょよいしょと乗ってくる隊長。


「おぬしも悪よのう。」と語りかける。

「いやいやゴース様には負けますよ!」と二ヘラーと悪い顔で笑っている。


「おい、ここの捜索はいい。皆で街の気に入らない所に押し入って金品を没収するんだ!理由は辺境伯暗殺の罪でいい!」と隊長は宿屋中に聞こえるように言い放った。


「「「ひゃはー」」」

我も我もと争う様に何人かがここから出ていった。

まるで手慣れているようだ。

だめだこいつら!!思わず隠れている地下から出そうになる。宿の娘。


「隊長よ俺たちも行くぞ。この機会だ、いい女どもがいる所に押し入ってしまおう。」と下ひた笑いをする。

「さすがに名案ですゴース様!いいですね行きましょう!」と煽てている。

妙に取り入るのがうまい男だ。

「ふふふははは、そうだろうそうだろう。」と笑いながら二人は外に出ていった。



それからある程度は出ていっただろうか?

まだ何人かがこの宿に残っているみたいだ。


「もう我慢ならない。」憤慨やるせない声が聞こえる。

「そうだそうだ!」と同調している人。

「やるなら今夜しかない!」と何かの決意を固めているようだ。


〝おや?〟そう言う声が娘には聞こえてきた。


「俺の交際相手のメイドが・・・今夜あのドラ息子に呼ばれてしまったんだ。許せない。」怒りに燃えている。机をバシバシ叩いている。


「俺の家たぶん今夜あいつらに襲われて財産持っていかれる!!」嘆いている兵士!


「俺は執事長のセバス様に拾ってもらった恩をまだ返してない!」三者三様に言葉を紡ぐ。


「今夜しかない。明日リース様を殺されてしまったらすべて終わってしまう!」

今しがた発言したリーダー格っぽい人が言う。うんと三人で頷く。

「あとは同志を集めるだけだ。」

仕切りだす灰色髪のリーダー。革製の胸当てと肩パッドをしていた。


「すでに声をかけて戦闘経験と、応急処置ができるメイド連中が参加してくれるみたいだ。」とオレンジ髪の男が言う。さっきの下っ端連中と同じ格好だ。


「あとはクーガー護衛長はさすがに動けないと言っていたが、他の護衛隊のメンバーは参加してくれるみたいだ。」と緑髪の男が言った。この人もオレンジの髪の人と同じ装備をしている。


「護衛長は仕方あるまい、辺境伯様を亡き者にされても困る。しかし、護衛隊のメンバーが協力してくれるのは大きいな、可能性が見えてきたぞ。破れかぶれじゃなくなってきたな。」と安堵する。


「兵士の何人かに声をかけたいがたぶん信頼できないんだ。声をかけるにしても門番勤務の連中くらいか?あとは冒険者に声をかけるか?」緑髪の男が言う。


「それしかないだろう、ギルド長は味方に付いているのか?」とリーダーが聞く。

「はい・・・信頼できる人だけを今夜集めとくと。ただギルドに責任を負わされるのはと。」オレンジ髪の男は報告する。


「止む負えまい。失敗したら三人で腹を切ろう。」とリーダーは言った。

「痛そうですね。」とオレンジ。

「それしかないかー。」と緑。

「うんうん。」と娘が頷いている。


「「「って誰?」」」と思わずツッコミを入れた三人。

そこには黒装飾を着た女がいた。

美人で目がトロンとしている。

三人は悪寒がした。

こいつ強い。三人とも剣に手を伸ばす。

しかし伸ばす前に、何人かの黒装飾の者たちから首にナイフを当てられていた。

計4人の手練れがいる。三人は冷や汗をかいているだろう。


「えーと私たちは敵じゃありませんよ!」と両手をブンブンしている。

「首にナイフを当てられた状態では信じられないな。」リーダー格の男が言う。

「ふむ、ではあなた方が先に剣から手を放してくれませんか?」

リーダー格の前にいる女が言う。数舜にらみ合う。小さな火花が散っている。


「うーん、確か名前はトッテさんでしたよね。他の二人がキースさんにウッテさん。キースさんは農村の出で最近メイドの方と付き合ってらっしゃるとか。ウッテさんは商屋の出で、兄が継ぐから店を継げない、家を出て兵士になった。近所の娘さんと結婚しようと言って、ある程度のお金が溜まるまで待ってもらっているが、中々お金がたまらない。お酒にお金をかけすぎですね。ダメじゃないですか。」と言って机をバシバシしている。


「どうしてそれを・・・」

「お酒が辞められないって何で知って。」二人は動揺しているようだ。

トッテはますます警戒心を強めた。


「そちらのトッテさんさんは孤児だった所を執事長の養子になった。孤児院はこの領都にある教会、給料を半分程を孤児院に寄付しているとか。そして公認はされていないが領主の息子。ふむ、なかなかにこの孤児院は面白い事になってますね。」

ニコっと笑うリーダーの女。


「それ以上は言うな。さすがに剣を抜かないといけなくなってしまう。」と玉砕覚悟で戦う決意をするトッテ。

「・・・確かにそうですね。」

右手の人差し指を顔に当て考えるそぶりをする。


「俺もお前らをたぶん知っているぞ!それ以上言うなら、こっちもそっちの素性を言わないといけなくなる。」リーダー同士目線が交差する。

「ふふ、わかったわ。」そう言って女は右手を上に上げた。


他の三人は消えるようにこの場所から去って行った。

男二人はホッとする。剣の柄を握っていないがトッテはまだ警戒している。


「さて、交渉をしましょうか。」と女は言った。

「なんの交渉だ?」疑問に思うので聞く。


「もちろん次の辺境伯についてですよ。私たちはリース様を押しているんです。」と女の口からとんでもない言葉が出てくる。

「そうか・・・ん?確かここにリース様と一緒にいた女がいたはずだけど。まさか!」と男が驚く。


「それ以上話すと、首が飛んでしまいますよ。」

トッテは一瞬首に刃物が当てられた感触があったが、その女は動いていない。


「なるほど・・・その話題はしてはいけないって事ですか・・・」

再び冷や汗が流れている。

「話が早くて助かるよ。」と女は頷く。


「で、あんた等が少しは力を貸してくれるのか?」と必死の思いで聞く。

わかる。少し焦らされているのがわかってしまう。

この時間が長い、そしてこいつらは絶対に敵にしてはいけない奴だ。

拳に力が入りじわりと汗をかく。相手の女は考えるそぶりをする。


「そうね。まぁ時間だけでしょう。深夜の0時くらいがいいかしら、なにか屋敷が騒がしくなると思うのよね。」と女はつぶやく。


「なるほど、その時間を狙って襲撃をかけろとそれが上の意志なのですか?」と最後の部分は声を小さめに言った。

「そうしてくれるといいわね。ふふっ、その答えはいずれわかるわ。」と近づいてきた女に耳元でささやかれる。


「わかりました。その話し乗りましょう。」と決心するトッテ。

「え、いいんですか。」キース。

「マジか。」ウッテ。

「そう、じゃあその時に・・・」そう言って女は消えていった。と思ったら・・・


「あれどうしていない、なんであれこれヤバい。どこ行った。窓が開いている始末書ものだよこれ。」と謎めいた言葉が宿の二階から聞こえた。

とりあえずは命の危機はないことに安心した。トッテは座り込んでいた。


「トッテ良かったのか、さっきのこと。」キースが聞く。

「ああ、俺たちは仲間が少ない、少しでも多く仲間を得られるにはそれに越したことはない。」とふーっと息を吐く。


「しかし、信頼できんのか?」ウッテが言う。

「ああ、俺が保障しよう。あと、この世の中には知らないほうがいいことがある。お前たちあいつ等にあったことは絶対に言うなよ。じゃないとこれだからな。」

首をはねられる仕草をする。


「確かに強かったもんな。」とウッテ。

「それよりお前、今日から禁酒な!あと給料をその幼馴染に渡すように、経理にでも言っておこう。」とトッテが言う。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!そ、そんなご無体な。」と慌てるウッテ。

そんなウッテを見てトッテとキースは笑い出した。そして言う。

「「絶対に言っとく!!」」と親指を立てながら二人はシンクロしていた。

「お、俺の酒が・・・」と崩れ落ちるウッテ。

そんなウッテを笑いながら俺たちは宿を後にすると、冒険者ギルドに向かった。

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