第一章 「聖遺物と変人と私」
第二話
私立英雄学園東京本校。それは、一言で表すなら「壮大」であった。
世間一般的に広さの基準として示される東京ドームを引き合いに出すなら、その広さは五十個分を優に越えるほどの、人工島である。
周りからいくつかの橋を架けられ、そこが学園間のアクセスになっている。
まさに、学園都市。
ありとあらゆるものがこの英雄学園の中で完結し、学園外、すなわち島の外に出なくとも何不自由のない生活を送ることが可能な、今までの常識を軽く覆すような理想郷。
様々な国に英雄を育成する学び舎、「私立英雄学園」があり、国はあまたの資金をここに投じて国力を上げている。
実際、ここを卒業した英雄たちは国の平和を守るためや、未曽有の危険にさらされている地に赴いて活躍するためなど、文字通りヒーローとして活躍する。
そしてこれはとても下世話な話にはなるが……高給取りは確実。人によってはそれ目当てでここに来ることもある。
……以上、下世話な話を挟みつつ、学園案内パンフを読み解いた内容。
院が横を見ると、そこには新天地に瞳を爛々に輝かせた礼安がいた。つい数時間前、仙台市の慣れ親しんだ土地を離れた際の涙やら鼻水やらでぐずぐずになった顔はどこへやら。
「すごいね院ちゃん、おっきいね!」
「貴女、それがこの間中学を卒業した人間の話す言葉ですの……?」
能天気な礼安に胃を痛めつつも、院は彼女を連れて校内へと進んでいく。
様々なものが広大な校内にて、木陰に隠れる不審な人間が一人。
不審な人間にも、様々な種類がある。露出狂であったり、真っ黒な服に身を包んだ文字通りな人間であったり。
しかし、この不審な人間は少し違う。
学校敷地内を歩く女子に……特に、英雄の因子を持った女子に目をつけて涎を垂らしていた。金髪を腰辺りまで伸ばした、蛍光ピンクの作業服を腰まで脱ぎ、『LOVE WEAPONS』と書かれたTシャツを着ている「女子」である。
「いやあ……今日は新入生ちゃんが一堂に会する、入学前学生証交付の日……いや初々しさがたまりませんなあ……涎垂れてきた……下の」
かなりハイレベルな美人顔のはずが、興奮によって歪みに歪んでいた。ひどい。
道中、妙な寒気を感じながら、無事二人ともスマートフォン型の学生証(デバイス)を入手した。
「これで校内の買い物ができるらしいけど……」
「これでとりあえずなんか買ってみようよ!」
はたから見ると、とても踏み込みづらい、二人だけの空間が出来上がっていた。包み隠さず表現するならば、百合である。
しかし、そんなのお構いなし、な人間は少なからず存在する。特に、無知な女子を食い物にする浮ついた集団などが該当する。
「ねえねえそこの二人? もしよかったらここの土地勘無いだろうし、オレらがちょいと案内してあげよっか?」
「ついでにお茶でもシバいちゃお的な??」
見た感じ怪しそうな二人についていきそうな礼安を後ろに控えさせ、警戒心をむき出しにする院。
「……別に結構でしてよ」
しかしそんな院をよそに、浮ついた男二人は徐々に「増殖」し始める。比喩ではなく、本当に増殖し始めたのだ。まるで中学時代映像で見たような、アメーバのよう。アメーバは無性生殖によって繁殖するために、同じ見た目の者がわんさか増える。
礼安と院を囲むように、数を一人ずつ増やす男二人。
「オレら、『武器≪ウエポン≫』科の二年。君ら一年……どころか新入生だよな? 先輩の言うことぐらい……聞いといたほうがよくないかい??」
礼安はいまだに状況をよく理解しておらず、院はそんな礼安をかばいながらじっとりとした嫌な汗をかく。
男二人は、だいぶ格好も性格も浮ついてはいるものの、確かな危うさを感じさせていた。実際、この二人には何人かの女子生徒が被害に遭っているのだろう。でなければ、ある程度人目がある中でこのように目立つ行動はできないはずである。
院は男たちに抵抗するため、ズボンのポケットから聖遺物を取り出し、自らの「力」を開示しようとするも、一人の女子の手によって止められた。
一瞬、院は礼安かと思ったものの、目に痛い蛍光色のネイルをしていたために、間違いなく別人であると確信した。こんな色のネイルはまずさせたことが無い。
いつの間にか現れた謎の女子は、とても美しかった。
眩しいほどの長い金髪に、まるで青空のように澄んだ瞳。「日焼け」という概念をどこかに捨て去ったほどの純白の肌に、目が痛くなるほどの蛍光色のつなぎ。総じて、「美人」であった。
その女子は、いつの間にか礼安たちの側にいた。音もなく、気配もなかった。
「……お前……まさか帰ってきてたのか!?」
「私が分かるようだねチャラ男諸君。ここは僕の顔を立ててもらおうかな? じゃなかったら、君ら僕が『教育する』、ってことになるけど」
謎の女子は笑顔で男たち二人に対し、言い放った。刺すような殺意をむき出しにしながら、ではあったが。
男二人が急いで逃げ出した後、礼安たちは学園都市内のファミリーレストランで、午後のティータイムとしゃれ込んでいた。
しかし、明らかに先ほどの眉目秀麗な女子、という印象とは打って変わって……
「とっととととととりああえずお二人はどっどどどどうどどどうどどどういうお関係なのでしょうか! ってこんな初対面のどこの馬の骨とも知れない変態には教えられないということなのでしょうかお二人の花園というものがあるのでしょうか!!」
いうならば、見た目は美人、中身はてんで残念、というのが素朴な印象であった。
「……とりあえず、落ち着いてくださいませんこと? 途中風の又三郎のようなものを感じましたし」
先ほどのとても頼もしいような印象が吹き飛んで、どこか残念な顔をした院は、先ほど学生ウェイターがおいていったお冷を飲むよう、その女子に促す。
そのお冷を一気飲みした後、一つ咳払いをすると語り始める。
「いやあ、何か惹かれるものを感じ取って覗きをやめ……ゲフンゲフン、即参上いたしました! エヴァ・クリストフ、十六歳! 『武器』科二年の、武器ちゃんと可愛い女の子が大好きな女です!!」
いろいろと突っ込みたい院ではあったが、礼安はすぐにエヴァと打ち解けている様子であった。まず「助けてもらった」という大恩があったため、礼安にとってはそれだけで打ち解ける材料足りうるのだった。
「さっきはよくわかんない中でありがとう! 私瀧本礼安! 今年からここに入学するの、よろしくね!」
両手でしっかりと握手する礼安に対し、鼻血を出しながら興奮している様子であったエヴァ。小声で「ありがとうございます」と何度もつぶやいていたため、院は静かに引きはがした。礼安は頬を膨らませ、多少不満げであった。
「……しかし、貴女がお父様推薦の『武器の匠≪ウエポンズ・マスタリー≫』だとは……意外でしたわ」
『武器の匠』。それは、あらゆる武器に精通し、使いこなすことだけでなく手入れ、修理など様々なことが高水準で行える、世界でも数人しかいないプロフェッショナルである。
「おや、私のことをご存じでしたか! ぶっちゃけ趣味が仕事になっちゃったパターンなんですけどね? この世に存在する武器ちゃんをお世話したい、って考えで仕事にしちゃって……世の中の英雄たちの為になりたい、だなんて思いは欠片たりともないわけなんですけども!」
最早ここまでくると清々しかった。武器のプロフェッショナルであるエヴァは、変態でありオタクであった。先ほどの美人、というファースト・インプレッションを返してほしかった、と院は心の底から考えていた。
しかし、その時であった。
平和そのものだった学園都市内が、やけに騒がしい。見学に来ていた候補生、一般市民が一方に逃げ始めたのだ。
何かあったのか、と礼安たちは外に出ると、学園都市と本州が繋がる橋のほうで黒煙が上がっていたのだ。
礼安たちは居てもたってもいられず、その騒ぎのほうへと駆けていった。
学園都市、橋入り口付近にて。
エヴァが神妙な顔つきで、人が走り去っていく橋の中腹を指さす。
「あれ、なんだろうね」
そこにいたのは、サソリのような見た目をした、半透明の生物であった。
人間の体躯のおよそ五倍はあろうかという巨体に、そこから細長い六本程度の脚といえるものが生えている。尾はやたらに刺々しく、その巨体のさらに二倍ほどの長さを兼ね備えている。その尾からは、コンクリートを易々と溶かすほどの毒が滴り落ちており、途中に停められた自家用車のほとんどが、その毒によって見るも無残に溶かされている。
「あ、あんな巨体どこから出てきたのよ……」
「――あ、院ちゃんあれ見て!」
礼安の指差すほうを見ると、どこかで見たことのある顔が映った。こんな時でもわけのわからない聖書(しかも紙袋に大量)を重たそうに、しかし必死に何とか逃げ惑う、あの宗教勧誘の女性がいたのだ。
「何でここにあの人がいるの!?」
「わかんない、多分見学に来たんじゃないかな!」
お馬鹿、と軽く礼安の頭を小突く院。院は半ば仕方なくあの女性を保護すべく走ろうとした。しかし。
「院ちゃんは、ここで待ってて! 私、助けに行ってくる!」
と、院を遥かに超える速さであの女性に向かっていったのだ。
エヴァは大声で止めようとするも、すぐさま院が静止した。
「なんで? あの子一人だと危険ですよ! 私たちも出ないと……」
院は静かに首を横に振る。エヴァがさらなる反論をしようとしたが、院はどこか諦めている表情であった。
「あの子は……礼安はいついかなる状況でも、自分以外の関係者が傷つく姿は死んでも見たくないって子ですわ……何より礼安は――私より『強い』子でしてよ」
エヴァは何か胸騒ぎがして、礼安が向かったほうを見ると、そこにいたのは一人の『英雄』の背中であった。
礼安が女性のもとにたどり着くと、女性はすぐさま二度見どころか三度見していた。一度目は「助けが来た」という安堵の表情、二、三度目は「あの時こっ酷くぼったくろうとしていた少女が何でここに」という驚愕の表情であった。
しかしそんな女性の心境なんて何のその、礼安は明るい表情で言ってのけたのであった。
「私が来たからにはもう大丈夫、安心していいよ」
女性は、それまで自分が死んでしまうかもしれないという恐怖と戦っていたのだが、不思議と安心していたのだ。今までの面識なんて、たった一度しかないのにもかかわらず、であった。
礼安は半透明な化け物と対峙する。
「……今までは、私はちょっと勇気のある一般人。……でも今は……違うの!」
礼安は自らのポケットに入れていた、古びた剣の一部を加工したネックレスを手にし、額に近づけ念じ始めた。
(お願い、この私の思いに応えて、『アーサー・ペンドラゴン』)
サソリの化け物は女性をかばう礼安目掛け、猛毒の尾で心臓を串刺しにしようと、亜高速で突き出す。
(私は、ちょっと欲張りだけど……『友達も、他人も、全部ひっくるめて助けたい』んだ)
そんな礼安の思いに呼応して、古びた剣の一部は煌々と光り始める。
化け物の狙いはその影響で逸れ、礼安と女性の側にあった高級外車に命中する。
光が収まるのと同時に、礼安の手に握られていたのは、一枚のカード型のアイテムであった。
まるでバスや電車の定期パスのように、小さく頼りないが、通常のソレと違うのは、デバイスに呼応し始めたのだ。
礼安はそのアイテムを手に持った学園支給のデバイスにかざす。すると、
『認証、アーサー王伝説! 多くの騎士を束ねた、円卓の騎士の頂点に上り詰めるまでの、成り上がり物語≪シンデレラ・ストーリー≫!』
急にゲームの説明のような、野太い男の声がそのデバイスから聞こえてきた。背後にへたり込んでいた女性は、呆気に取られる。
礼安はそれをデバイスに本体側から挿入し、下腹部あたりにそのデバイスを当てる。すると、デバイスは高速で変形し、さながら変身ベルトのようになったのだ。
デバイスの画面には、王冠のデザインがあしらわれていた。
『GAME START! Im a SUPER HERO!!』
「変身!!」
デバイスの右側を押し込むと、割と喧しい音と共に、礼安の体に青を基調とした装甲が展開されていく。
左肩を覆うような青のマントに、多少ポップにリデザインされた西洋の鎧、頭にはキュートな王冠が飾られている。そして右手には、かの有名なアーサー王の原初の剣である、カリバーンが握られていた。勿論、多少ポップにはなっているのだが。
「嘘、何で一年生にもなってない子が変身できるの!?」
「あの子は、元々英雄の因子持ちだったお父様の影響もあって、ここに来たんですの。昔から変身ベルト……もとい、『デバイスドライバー』はあの子の身近にあった、ってことですの」
デバイスドライバー、英雄学園生徒に渡される、変身資格を持つものならだれでも変身できる、変身ベルト。
英雄の聖遺物とその英雄に応じた因子継承者、その心の中にある願いや、先天性か後天性のコンプレックスをもとに生成された、ヒーローライセンスを認証、発現させることによって、英雄の因子を持った人間それぞれ、力の形に添った強化アーマーを具現化、装着することのできる唯一無二の変身ベルトである。
礼安は、その場で手を握ったり開いたりして、自身のもう一つの姿を確認する。一つ息を吐くと、太陽のように笑って見せたのだ。
「さあ、張り切っていってみようか!」
力を込めて、その場から跳躍する礼安。頑丈なはずの舗装された道が破片と化す。
化け物は空中の礼安に目掛けて、尾を伸ばし一撃で仕留めようとする。
しかし、礼安は尾の一撃を軽く受け止める。まるでその攻撃を予想していたかのように。
着地し、尾を起点にハンマー投げの要領でぐるぐると振り回し、本州側のほうに思い切り投げ飛ばす。
化け物は空中で受け身を取ることもできないまま、背のほうからコンクリートにたたきつけられたのだった。
「なかなかの力、まるで私じゃあないみたいだ」
まるで無邪気な子供のように笑って見せると、着地することなく宙を疾駆する。
雷光のごとく、突き抜けるスピード。瞬きする間に百メートルをかける。
そしてその勢いのまま、電光石火の左ストレートを化け物に放つ。
化け物はその一撃で爆散する。あとには何も残らず、あるのは今しがた生まれた、新たな英雄の姿のみであった。
「――――ふぅ、これで一応終わり、かな?」
デバイスの中からカード型のアイテムを取り出す。すると、今まで着用していた装甲は光とともに消えていった。それと同時に表示された画面には「GAME CLEAR!」と書かれていた。
化け物騒動があったその後。
橋の修復のために、学園都市内から派遣された武器科の生徒何名かが修復作業を行っていた。
幸いなことに人的被害はゼロ。変な宗教の勧誘者も無傷で、本州へと逃げ帰っていった。しかし礼儀礼節の心はあったのか、礼安に対してまるで神でも見たかのように、数えきれないほどの礼をして去っていったのだった。
礼安は一躍時の人になりかけたが、院たちはその場をそそくさと立ち去った。入学前からあまり目立った行動をとりたくはなかった為であった。
「とりあえず、ここが私たちの寮。一応パンフレットにも載っていたけど、寮にしてはシャレにならない大きさだこと」
一通りの学内での準備を整えた後、礼安たちはエヴァの案内により英雄学園の寮へとたどり着いていた。
全五千部屋、そのすべてが3LDKはある二人部屋、かつそれぞれ一軒家となっており、卒業生によってはここで一生暮らすこともあるほどの豪華さを備えている。
電気ガス水道代はもちろん、衣食に関しても無償で最高級のものを扱える。これも人にはよるが、英雄として戦えるまでの勉学を履修したうえで、世界最高峰の料理界やファッション業界で生きていく、なんてこともあるほど。
衣食住全てにおいて日本の「最高峰」である。
「お、お二人私の家のお隣さんじゃあないですか! 出会った縁もありますし、あとでバーベキューでもパァッとやりましょうよ!」
「バーベキュー!? 勿論いいよ! お肉たくさん食べよう!」
子供のようにはしゃぐ礼安。そしてそんな礼安を諫めることを半分放棄し呆れる院。礼安の喜びを共に享受するエヴァ。三者三様の喜びの形がそこにあった。
一通り自分の荷物を片付け終えた院は、部屋の様相をごみ屋敷にしそうな礼安を手伝いつつ、丸三時間が経過したころ。
時刻は午後七時、日も落ち、静けさが辺りを包み始める夕食時であった。
エヴァはバーベキューセットを自身の家から引っ張り出し、早速火の準備をし始めていた。引っ張り出してきた納屋の中は……目も当てられなかった。それは家の中も同様で、仙台の家での惨状を、累乗したようなものであったのだ。
よくこんなところで生活できるものだ、と院が軽く引いた表情で目を細めていると、エヴァはそんな院の心情などくそくらえ、と言わんばかりに礼安顔負けの太陽のような笑顔で返してきたのだった。
院は、どこか既視感を覚えた。そう、ペットショップで自身が生涯ついていく、そんな主人を爛々と輝く目で誘惑する子犬のようであったのだ。
「……なんか、負けましたわ」
院は、犬派である。少々性格に難こそあれど、根が礼安同様良いため、どこかエヴァに子犬のような感覚を覚えてしまった瞬間である。
「え!? なぜでしょうか院さん!? 私何か変なことでもしましたか!?」
「……気にしないでくださいまし、エヴァ『先輩』」
そんな面食らったような院ではあったが、学年上敬うことを決めた瞬間であった。
しかし、そんな礼安などつゆ知らず、バーベキューパーティーがいざ始まると、礼安はエヴァが焼く肉や野菜を口いっぱいに頬張り、これまた満面の笑みで喜ぶのであった。
形容するなら、数日間の出張から帰ってきた主人を出迎える犬。
「――――礼安の笑顔は私が守りますわ」
こんなほほえましいタイミングで、院は重大な決心をしたのだった。
一通りのパーティーが終わった後、院は礼安と一緒に風呂に入るための準備を整えるため、一足先に自分たちの家に帰っていた。
エヴァの家の屋上。
ほかの寮……もとい一軒家の屋上はどこも風景はあまり変わりないものの、エヴァたちの家は、学園と本州を繋ぐ橋、観光客や生徒たちなど多くの人で栄える中心街などが何の邪魔もなくクリアに見えるため、多少の特別感がある。
午後九時に差し掛かろうか、というゴールデンタイム。空には雲一つなく、一つ一つの星々やら月やらが輝き、主張する。
「いやあ、今日は貴女方との運命的な出会いを果たせて、私感激しました! しかも、中々に明朗かつ可憐で……さながら二輪の白百合のようでした、ハイ!」
エヴァと礼安は、屋上に備え付けられている椅子に腰かけながら、エヴァ宅の冷蔵庫(という名のいろいろなものがパンパンに詰まった四次元ポケット)の中から発掘された、奇跡的に無事な缶ジュースを飲んでいた。
「今日はありがとう、エヴァちゃん! お肉や野菜もおいしかったし、これで明日も頑張れそうだよ!」
「いえいえ、それはこちらの台詞にございます……最高の供給をありがとうございました」
何のことだか分からない礼安は、ただただ首をかしげるだけであった。
ぐい、と一つ伸びをすると、エヴァはにこやかに語り掛ける。
「しかし、あの後院さんにある程度話を聞きはしましたが……事実上英雄に変身するのが初めてで、あれだけ動けるのは大したものですよ、礼安さん!」
「私、元々お父さんとかの影響こそあったけど、プリキュアとか大好きだったんだ! 戦う女の子の……輝きっていうのかな、それに憧れてた部分は、少なからずあったんだ」
礼安は、柔らかな笑みを絶やすことはしないままに、きらきらと輝く星空を眺めながらエヴァに語った。
「……私ね、自分の中に『英雄』の因子が眠ってるって聞いた時、内心嬉しかったんだ。私の目の前で、傷つく人をようやく本当の意味で助けてあげられる、って」
「礼安さん……」
礼安は椅子から立ち上がり、楽しそうな学生や見学に来た一般市民を眺めながら、続けて語る。しかし今度は、一人に語り掛けるのではなく、この場にいない第三者に矢印が向かっているようであった。
「今はもう、お空の上にいる私のママも、『人のために、自分のために生きなさい』って小さい頃よく言ってくれてね、人の笑顔を見ることがとにかく大好きだったから、『自分のために、友達も、赤の他人も助ける』。それを何よりに生きてきたんだ!」
エヴァは缶ジュースを静かに傾け、ふうと一息つく。
「――――礼安さんは、とってもいい人です。親御さんの言いつけをしっかりと、今も守り続ける、しばらくリアルで会ってこなかった『信念』と『覚悟』のある人です」
「……ふふっ、エヴァちゃんそんな言われてもなんも出ないよー!」
そういって礼安はエヴァの肩口をぽん、と押す。エヴァはふっ、と笑って見せた。
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