第二章 Boston_Tea_Party -6
(――って、そうじゃない!)
はっとしたルークは心の中でぶんぶんと首を振る。
見蕩れている場合ではない。
助けて貰った以上、きちんとお礼を言わなくてはならない。と、クレーターからこちらに歩いて来る少女の姿を改めて観察したところでルークははたと気づいた。
着ている服にどうも見覚えがある。というか良く知った服装だ。パーカーを着てはいるものの上に羽織ったブレザーといい履いているスカートといい、彼女が身に着けているのは確かに、
「……君、第一高校の生徒、か?」
「――、そうだ」
尋ねると、黒髪の少女はぴくりと眉を動かした後、少し不服そうな態度で頷いた。そんな彼女にルークは一歩歩み寄り、期待と感謝に満ちた眼差しを向けた。
「加勢に来たと言ったね! もしかして、3年の治安維持候補生かい!?」
「……、……ぉ、おう」
「名前は!?」
「み、御影、カオリ……」
謎の勢いに気圧されたカオリが曖昧に頷きながら答えると、ルークはぱっと顔を輝かせた。
「そうか!! 凄い能力だったな!!」
「……ぇあ、……あ、アンタほどじゃ、」
カオリはなぜか目をやたらとキラキラさせてくる最強の超能力者、ルークエイカーに顔を引きつらせながら応じる。辛うじて笑顔をキープしつつ、少女は内心で困惑していた。
(やべぇ……なんか思ってたのとちげぇぞオイ……)
と、ルークは不意に訝し気な顔で首を軽く傾けた。
「ところで、君はどうしてここに?」
「……!」
来た、とカオリは思った。
同じ生徒の恰好をしているとはいえ、やはりいきなり現れた自分をここでそのまま受け入れるほどルーク・エイカーは迂闊な人間ではない。カオリは頭の中で第一高校の情報と現在の状況を確認しつつ返答する。
「俺は治安維持隊の支部で研修をしていた治安維持候補生だ。都内に武装勢力が出たと通信が入り、支部局長からの命令を受けて周辺住民が残ってないかの確認のために巡回していた」
「なるほど! それで通りかかった所に加勢に来てくれたのか!」
「…………」
用意した言い訳の一割も出す前に納得されてしまった。
ルーク・エイカーとはここまで他人を無条件に信じるような人間なのか。あるいは、最強の超能力者であるがゆえに警戒など端からしていないのか。
まあ良い、とカオリは結論付けた。
どちらにせよ都合が良いことには変わりないし、話が早いに越したことはない。
「君はまだ任務中かい? 仕事がまだ残っているようならいいけど、もしも手が空いているなら私に協力してくれないだろうか? 君が必要なんだ」
「あ、ああ、俺で良ければ是非とも協力しよう」
「ありがとう! 助かるよ! いやホント! 女神か君は!?」
「……。それで、これからどうするんだ」
何となく話を進めたくなったカオリがルークに尋ねると、ルークは「あぁ」と頷いてカオリの起こした破壊に巻き込まれなかった治安維持隊の自動操縦車へと近づいていく。
「本来は治安維持隊の本部に向かう予定だったんだよ、この人と一緒にね」
こんこん、と窓ガラスを指の背で叩くルーク。
カオリが覗くと、中には治安維持隊の恰好をした壮年の男がぐったりと倒れている。
「で、その道中に襲われたってことか」
「うん。彼は第一高校の入学式の護衛に当たっていた警備隊だった。高校に隕石が落下しただろう? そのタイミングで入れ替わったんだと思う」
警備隊の控室は隕石落下の影響を殆ど受けないはずの場所だった。にも拘わらず警備隊と連絡が付かなかったのは、騒動の隙を突くように魔術師たちが彼らを襲ったからだろう。
説明を聞いたカオリは合点がいたように顎に手を当てて窓ガラスに顔を寄せる。
「ハ、なるほどな。恐らく、顔を奪ったんだろう」
「顔を、奪う?」
「そういう魔術があんだよ。特殊メイクみたいなモンだ。化けたいヤツの顔をコピーして、そんで自分の顔に張り付けるみたいなイメージだ」
「へえ。便利なんだな、魔術って」
「便利……いやまあ、そうだな」
アンタが言うと皮肉にしか聞こえないな、と言いたくなるのを堪える。カオリは話を逸らすために車を親指で指す。
「――こいつは車に閉じ込めちまおう。治安維持隊の車両なら多少暴れても出られねえだろ」
「車は内側から開けられないか?」
「俺の能力でドアロックを歪ませて閉じ込める。脱出用ハンマーさえ奪っちまえば窓を割って出ることも出来ねえだろ」
「すごいな! そんなことも出来るのか、君の能力は!! 便利すぎる!」
「まあ、な。うん。まあ多分アンタの方が凄いと思うが……」
納得の行かない反応にぶつぶつと呟きながら車内を物色するカオリ。二つあった脱出用ハンマーは近くの倉庫に投げておいた。そして車の扉を四つ、能力で開かないようにする。
「手際良いね。もしかして治安維持候補生ってそういうことも習うの?」
「……機密情報だ」
「なるほど――流石、教育が徹底してるね」
「…………」
めんどくさくなって返した雑な言い訳にも納得されてしまった。
もはや八方塞がり。逃げる道はなかった。いや、逃げてるとかそんなではないはずなのだが。
異様な疲労を感じつつ、御影カオリは少し離れた車両を指さす。
「――移動にはあっちを使おう。奴ら、ご丁寧にドアの鍵なんて閉めてねえだろ」
「OK、そうしよう!」
無邪気に返事をする最強の超能力者。
カオリは自分の中で『ルーク・エイカー』に対する違和感が大きくなっているのを自覚しながら弾痕だらけの車両に歩いていった。
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