第15話 風計とストリートの選手
第2クォーターも残り4分を切っている。
94点差という絶望の中で神崎と上杉の二人が速攻を仕掛けた。
「消えた~~~!! 二人の速さは人間の目では負えません!! しかし、毛利選手は落ち着いております。それもそのはず、風は志木城高校に味方しているからです!! おお~~~っと、神崎選手の動きが止まったぁ~~~!!」
ボールを持っていた神崎の動きが突風で動けなくなる。
それどころか、ボールも後ろに飛んで行ってしまうため、後ろに移動してボールを迎えに行かなければならない。
屋内スポーツの公式選手は必ず屋外では痛い目を見る。
屋内環境はスポーツするに適した環境だ。
屋外は最悪の環境なのだ。
そんな屋内という恵まれた環境内で反則行為をする公式選手を有能と言えるだろうか、否、環境が整えられているというのに反則行為をする。
それはまさに無能の象徴だ。
「クッ!!?」
そして、神崎が3pシュートを打つ、しかし、ボールがゴールに届かない。
次はムキになって敵陣に突っ込むが、ボールが上手くコントロールできない。
毛利が笑って言う。
「おやおや、神崎さん忘れたのですか? 『あなたごとき』がどうにかできるなどと、夢物語なんですよ。人間は自然に勝てない。分かりますか? 選手としてここ(頭)が違うんですよ。ここ(頭)がね。」
考えが甘かった。
神崎が毛利に勝てなかったのはバッシュが滑るからだけではない。
風が志木城高校の味方をしているからだ。
なぜ、バッシュが万全の氷川や神崎が動けなくなったのか、その理由は窓の改築工事だ。
体育館の一部分だけ窓ガラスが全て剥がされている。
毛利が作業員の工事をうまく誘導したのだろう。
基本日本の作業員は賄賂でなければ動かない。
上杉はそう思っている。
しかし、毛利は賄賂などしていない。
単純に作業を妨害しただけだ。
妨害方法はいくらでもある。
例えば、道路にカラーコーンを置く。
などで十分だろう。
なので毛利はそんな無能な作業員共にこういったのだ。
「こっち側の窓はまだしなくてもいいですよ」
その言葉に作業員共は嬉しそうに手抜きする。
工事の人間なんてこんなもんだ。
そして、この突風である。
これが斎賀高校にとっては向かい風、志木城高校にとっては追い風となる。
志木城高校の攻めは速く、斎賀高校の攻めは遅い。
突風に逆らって走っていれば、いくらレジェンズのスタミナでも長くは持たない。
「これが私の『第一』の計略、『風計』です!!」
第一の計略、シューズクリーナーは計略とも思っていない。
斎賀高校の選手も読者の方も風計は第二の策略と思うだろう。
シューズクリーナーとかいう小細工は策というには低俗すぎる。
それでは策に失礼な話だ。
「さぁ、リバウンドを取って反撃、斎賀高校にとどめを刺してやりましょう!!」
毛利が選手にトドメの号令を掛ける。
リバウンドは簡単だ。
ゴール下に斎賀高校の選手はいない。
志木城高校が簡単にリバウンドを取る。
そして、カウンターしてトドメ、そのはずだった。
―――ダーーン!!!―――
リングにぶら下がっている選手は斎賀高校の選手、『上杉 芯』である。
「き、決まったあああ!! 上杉選手のアリウープ!!」
そう、神崎のボールはリングに届かない。
それを予測して、上杉が空中でボールを取り、そのままダンクシュートしたのだ。
「やっぱり、俺にはこのバッシュが一番いいぜ!!」
上杉が履いているバッシュは全てに置いて最高の水準で作られている。
しかし、『重量』だけが欠点だ。
他のバッシュは軽く作られている。
だが、上杉に取ってリストバンドをしていたためか、バッシュの重量はどうでもよく、それ以外が完璧なら、上杉にとって理想のバッシュといえる。
「く、クソ………よし、取り返すぞ!!」
志木城高校の選手がエンドスローすれば上杉がボールをカットし3pラインの外からシュートを打とうとする。
その行為に毛利と斎賀高校の神崎が叫ぶ。
「馬鹿め!! この強風の中で3pシュートが打てるものか!!」
「血迷ったか上杉!! 3pシュートは俺でも届かなかったんだぞ!!」
だが、上杉がシュートをやめることもなかった。
選手が最も醜態を晒すとき、それは無謀と思われるような行為だ。
試合を録画していたなら、本人に後から見せてやりたい。
『お前はこんなバカなことをするプレイヤーだったのだぞ!!』と、多くのスポーツマン選手は自分の試合を見たくないだろう。
リプレイを見たくない人間はこういう理由がほとんどだ。
自分に酔っているところ、うきうきとして自分のスーパープレイを見ようとする。
しかし、その夢は儚く散る。
だが、上杉は違う。
上杉は元々公式選手ではない。
「な、馬鹿な!!?」
3pシュートを決める上杉の姿に神崎が驚く、だが、一番驚いているのは神崎ではない。
毛利の方だ。
驚いたのはシュートが入ったことではない。
シュートのうち方だった。
「あのシュートの打ち方は………」
シュートフォームはちゃんと頭の上からだ。
日本人では男性でも胸からいつものが多い。
上杉は違う。
3pシュートでもちゃんと頭の上からボールを打てる選手だ。
そのシュートはまるで弾道、普通のシュートは円弧を描く、ボールが高ければ高いほど入りやすくなる。
しかし、上杉のシュートは一直線でリングに向かう。
故に、風の抵抗をほとんど受けていないのだ。
「言っただろ?」
驚いている毛利に上杉が言う。
「お前は俺を本気にさせた。そして、俺と桜井の情報を調べなかった。」
そう、ストリートの選手と公式の選手、表舞台と裏舞台、ストリートの選手は外でバスケをする。
外の環境では、プレイをしながら自然と風を読むようになる。
風が吹けば、それを利用して相手のディフェンスを抜き去ったり、風を考慮しながら目まぐるしい思考の中で性格なシュートを打つ、公式選手には無いものがストリートの選手にある。
上杉が切り込めば、風は斎賀高校を阻むはず、しかし、風を利用してフェイントを入れる。
そのフェイントに釣られた志木城高校選手は風に大きく流される。
無論、訓練を積んでいない人間なら追い風というアドバンテージが有るだけで、何も考えなくても恩恵を受けられるだろう。
だが、『風』になれた『上杉』や『桜井』は『向かい風』をも『利用』する。
風があるだけで有利、それは公式選手相手の話だ。
ストリートの猛者達には通用しない。
上杉が毛利の方を向いて言う。
「これが………『ストリートの選手』だ!!」
ストリートの経験が浅い毛利にはわからない世界だった。
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