死に物狂いに死んでいた

 過去を鴉達が啄む夜


 痛みは日に日に忘れたいものから忘れたくないものへ、忘れたくないものから忘れられないものへと変わっていく


 僕は必死に銃の中に弾を詰め込んだ


 冬の森で寝たらきっと、虫達と一緒になれるだろう


 綺麗な月夜にあなたと一緒に海に出かけよう


 そうしたらきっと、魚たちと海の中を泳げるだろう


 ミミズクが鳴いている


 未来は光じゃない


 希望でもない


 道でもない


 ただの暗闇だ


 空で殻のうつろな心


 満たされない心は痛みで溢れそうだ


 道端で車に轢かれた猫


 蟻達に運ばれるバッタ


 カマキリに狩られる蝶


 今まで自分が歩んで来た道は間違っていた


 間違っていなかったと証明するための人生で


 名も無き過去に名を与える為の日々だった


 正しさを証明するための時間は自分の体をバラバラにしていった


 生きる意味という正義に囚われていた


 周りが全て敵に見えた


 正しさを証明すればするほど敵が増えていった


 いつの間にか正義が悪になっていた


 自分の周りには誰もいなくて、言葉を刈り取る狩人と化していた


 言葉の暴君と化していた


 僕を殺すのは僕の言葉だ


 人の間違い探しをする間違いだらけの人生


 人の粗探しをする粗だらけの自分の人生


 間違いを正しさに変える日々は、正しいと自分に言い聞かせる為の時間でもあった


 だから僕はこの肉体を、この精神を、この忌まわしき過去を鴉達に食わせようと思った


 銃口は自分に向けられ、引き金を引く


 過去を殺し続けた


 過去の自分を殺し続けた


 そして、また自分を殺す


 言葉の銃弾が僕を殺し続ける


 必死だった


 死に物狂いに日々を生きていた


 それでも僕は死んで、死に続けていた


 あぁ、まるで道端に転がっている腐った肉みたいな人生


 今生きているつもりで、僕は過去に生きていた


 過去にすがりついて、過去に生かされていた


 でも、活きた人生ではなかった


 今の自分は過去の自分を影として見続けた


 目を背け続けた


 それは消えてくれと懇願しても消えない刻印で


 痛みは消えない


 外に出る


 刻印の痛みが外の世界を拒否した


 暗闇の中でふと思った


 刻印は刻印ではない


 身に染みた自分の過去は今の自分を活かし、生かしている欠片達だ


 僕は正しさを捨てた


 正義を捨てた


 鎧を捨てた


 盾を捨てた


 外に出る為に鎧は必要無かった


 勇気は必要無かった


 過去は必要無かった


 必要なものなんて何も無かった


 何も必要無くなることが必要だった

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