大繁盛!おっぱいベーカリー

ドン・ブレイザー

前編

 高校生の頃、オレにはパン屋になるという夢があった。その理由は「女の子のおっぱいを揉みたいから」だ。


 これだけ聞くと「一体何を言ってるのだ」と不思議に思う人がほとんどだろう。おっぱいとパン屋にどういう関係があるのかさっぱりわからないはずだ。おっぱい揉みとパン屋の因果関係についてこれから話そうと思う。


 オレが通っていた高校では、昼休みになるとパン屋がやってきて、生徒相手にパンを売っていた。「金田ベーカリー」という地元のパン屋で、20年以上高校に出入りしている業者だった。


 学校に来るのは店長である金田さんという50代くらいの無愛想なおじさんただ1人で、毎日昼前になるとトラックにパンを積んでやってきて、普段はシャッターでしまっている購買スペースを開けて商売を開始する。


 パンのラインナップはアンパンやカレーパンやサンドイッチに焼きそばパンといったごく普通のもの。しかし、オレの通っている高校には学生食堂のようなものはなく、他に出入りしている業者もなかったので、パン屋はいつも盛況だった。







 ここまで話を聞いて「一体いつになったらおっぱいが出てくるんだ?」と思っている人もいるだろう。一応言っておくともうすぐなので、もう少しだけ待ってほしい。







 パン屋の店長金田さん。この人はある一点を除けばごく普通のおじさんだった。もちろんある一点というのが問題だったのだか。


 金田さんはオレのような男子生徒がパンを買いに来ると、普通に接客する。生徒が選んだパンをビニール袋に入れ、お金を受け取りパンを渡し、必要に応じてお釣りを渡す、というごく普通の接客だ。


 そしてそれは女子生徒に対しても基本的に同じだ。しかし、女子生徒が客である場合のみ「生徒が選んだパンをビニール袋に入れる」「お金を受け取りパンを渡す」という二つの作業の間に「その生徒のおっぱいを揉む」という工程が挟まる。


 ごく自然に行われるセクハラ行為はまさに神業であり、まるでお釣りでも渡すようおっぱいを揉むものだから、周りの人はぱっと見では気がつかない。


 現に入学以来昼飯を買うために毎日並んでいたオレが5月の下旬になって初めて気が付いたほどだ。男女入り乱れる列を捌きながら的確に女子のおっぱいを揉んでいく様は「お見事」の一言である。






 ここまで話を聞いて、普通の人なら一つ疑問が思い浮かんだことだろう。「なぜこのパン屋はおっぱいを揉むことを容認されているのか?」ということだ。

 

 客である女子生徒のおっぱいを揉むなど、普通なら許されない行為だ。


 このことを誰かに告発されれば学校に出入りできなくなるどころか、逮捕されかねない。だが、生徒の中で親や先生に金田さんのセクハラ行為について告発するものは1人もいなかった。


 なぜ金田さんのおっぱい揉みが容認されているのか、それには実は色々理由がある。


 1番の理由は「おっぱいを揉まれた女子生徒はパンの代金が半額になる」という特別ルールが存在しているからである。

 

 この「半額」というのが高校生にとっては大きい。金田ベーカリーのパンは一個の値段ば100円から200円くらいだが、食べ盛りの高校生なら一食に4個か5個くらいは普通に食べる。

 

 仮に毎日500円分のパンを買う女子生徒がいたとする。その場合半額になることで浮く金額は1日で250円。


 1日だと大した金額ではないが、学食の無い本校では毎日パンで昼食を済ます女子生徒も大多数おり、毎日パンを買うと半額の効果はかなり大きくなる。平日の5日間分で1250円。1ヶ月で5000円。1年間だと60000円にもなる。


 金のない女子高校生には、パンが半額になるなら別におっぱいを揉まれたっていいと考える人が結構いたのだ。


 だが、女子生徒の中には「たかがパンの半額サービスくらいでおっぱいを揉むなんて許せない」と考える人だっていたかもしれない。


 しかし、そんなことを考える女子がいたとしても絶対に金田さんを告発したりはしない。なぜなら、さっきも言ったようにこの半額サービスに納得して、積極的に金田ベーカリー利用している層がかなりいたからだ。


 仮にある生徒が金田さんのセクハラを告発した場合、おそらく金田ベーカリーは二度と校内でパンを販売することは無くなるだろう。


 もちろんパンの半額サービスも無くなるわけで、そうなると告発者は金田ベーカリーを今まで利用していた女子生徒から相当恨まれることになる。下手したらいじめに遭うかもしれない。いつだって大人に告げ口をする者は仲間はずれにされるものなのだ。


 そういうわけで金田さんのおっぱい揉みを告発する女子は一人もいなかった。金田さんにおっぱいを揉まれるのが嫌なら、パンを買わなければいいだけだ。


 更に言っておくと、金田さんのおっぱい揉みは全ての女子生徒に対して平等に行われた。すなわち、可愛い女子生徒のおっぱいを長時間揉んだり、割引率を上げたりすることはなかった。また、どんなに見た目が良くない女子生徒であってもおっぱいを揉んだ。どんな女子のおっぱいでもおっぱいはおっぱい。割引は一律50パーセント。


 こういう公平さも金田さんが長年おっぱいを揉んでいける理由の一つだったのではないだろうか。可愛い女の子ばかり贔屓したら、すぐに他の女子に反発され、この制度は崩壊しててしまうことだろう。


 そして、オレたち男子生徒の立場はどうかといえば、金田ベーカリーのおっぱい揉みパン半額サービスに関してまるで関わりは無かった。金田ベーカリーはただのパン屋であり、金田さんもただのパン屋のおっさんにすぎなかった。


 ただ、オレ個人として金田さんに妬みが無かったと言ったら嘘になる。人一倍スケベな高校生だった自分は「女子生徒のおっぱいを揉んでみたい」という願望は持っており、それを可能にしている金田さんに対しての羨ましさと妬ましさは常に抱いていた。もちろん女子に恨まれたくもなかったのでセクハラ行為を告発することもなかったが。


 ただ、このように20年にも渡り、誰にも恨まれずにセクハラを続けるシステムを構築したことは素直にすごいことだと次第に思い始め、オレは密かに金田さんを尊敬するようになった。




 そんな中で、オレは1つの夢を持った。


「オレもパン屋になりたい」


 ここで、話は最初に戻るわけだ。


 最初に言ったように、パン屋になりたいと思った理由は「女子のおっぱいを揉むため」であり「自分の作ったパンで人々を笑顔にしたい」とかそんな高尚な動機ではない。


 オレがなりたいパン屋とは「金田ベーカリー」のことだ。つまり将来この高校でパンを売りつつ、女子生徒のおっぱいを揉むことがオレの夢だった。


 我ながら最低な夢だったと思う。でも当時は割と本気でそんなことを考えていた。


 噂で聞いた話だと金田さんには子どもはおらず独身らしい、ということは後継ぎがいないということだ。


 さらに金田ベーカリーには他に店員がいない。金田ベーカリーは店舗でのパンの販売を行なわず、何件かのスーパーと契約して毎朝パンを卸し、昼になると高校にパンを売りにくる。そういう業務形態なのだ。パンの調理から運搬と販売まで、全て店長の金田さん1人でやっている。


 そして、金田さんの年齢は50代の半ば。今のうちに弟子入りしておけば、近いうちに仕事を引き継ぐことができるかもしれない。


「オレを弟子にしてください」


 その一言をオレはいつも言えないでいた。金田さんは毎日やってくる。言うチャンスは毎日あるはずなのに言えなかった。


「金田さんの弟子になりたい」とオレが言うところを他の生徒に聞かれたらどう思われるだろうか?


「ああ、こいつはパン屋さんになりたいのだな」と素直に思う人なんていない。「ああ、こいつは将来的に金田さんの後を継いでおっぱいを揉みたいと考えているドスケベだ」と思われるに決まっている。


 そもそも「弟子にしてくれ」と言って金田さんが「いいよ」と言ってくれるとも限らないし、そうなれば無駄に恥をかくだけだ。


 まあ、そういう事を考えてモタモタしているうちに時は過ぎていった。







 そして、その事件は起こってしまったのだ。

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