第28話「どこまでも冷たい口づけを」

 「おやすみなさい」

 互いにそう言い合うと、ベッドに潜って目を閉じた。

 二段ベッドの上は、私。お姉ちゃんに上がいいって言って、譲ってもらった。

 もう一度目を開けて、近い天井を見つめる。部屋は寒くて、布団の中で自分の体温だけが感じる。

 「……」

 お姉ちゃんと寝たいな、って。ふと思ってしまった。

 下のベッドに潜り込んだら、優しいお姉ちゃんはきっと許してくれる。今まで何度かあったし、布団に潜ったら、お姉ちゃんの暖かさですぐ眠れてしまう。

 だけど、昔みたいに気軽にお願いできなくなってしまった。

 (……お姉ちゃん、もう寝たかな)

 慎重に、布団から出る。

 音を立てないように。立ち上がって、梯子を下りて。下で寝ているお姉ちゃんを確認する。

 目は暗闇に慣れてて、お姉ちゃんの寝顔がすぐに確認できた。

 (寝てる……)

 しっかりもののお姉ちゃん。でも、寝てる時だけは子供みたいに見えて、とっても可愛かった。綺麗な髪がほっぺにかかってて、指で触ってみる。

 そして顔を近づけるほどに、私は私の気持ちを我慢できなくなる。

 「お姉……ちゃん」

 言葉が零れた口を結びなおす。

 この気持ちは、誰にも話したことがない。もちろん、お姉ちゃんにも。

 私はお姉ちゃんが好きだ。それは多分、普通の好きとは違うと思う。その気持ちに触れるほど、これは誰にも話しちゃいけないことだって思ってしまう。

 姉妹なのに。私は、ちゃんとお姉ちゃんを……お姉ちゃんとして見てないのかもしれない。

 「……」

 ゆっくりと顔を近づける。

 友達が言ってた。キスをする時は、唇を少し尖らせるんだって。初キスはまだなのに、友達はそんな話題が大好きだった。

 私は代わりに積極的にしない。でも、本当のことを言えば、私はこういうのは初めてじゃない。

 だから、私はただ普通にお姉ちゃんにキスをした。

 柔らかい唇に触れて、私の心は言葉に出来ない何かで一杯になる。

 自分勝手なのは分かってる。でも、これは……紛れもなく私の気持ちなんだ。

 「ごめんね」

 キスをする時は、唇を少し尖らす。それで、お互いの唇を受け入れやすくするんだって。

 でも、これは私だけの勝手なキス。お姉ちゃんの唇は動かない。私がただ唇を寄せて、気持ちを押し付けているだけなのだから。

「……おやすみ。お姉ちゃん」

 さっきの言葉を、また言い直す。

 全部なかったことにするみたいに。自分自身を騙すためにも、そう言葉で打ち切った。

 ベッドに戻って、布団を被る。

 この気持ちが、どうなるか分からない。でも、きっとこの想いは届かないって__そう感じながら、目を閉じた。

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