第48話 天暁装備のお披露目
どうやらオキナの説明によれば、この『フルセット効果』を始めとする追加効果については、服飾師などが覚えるジョブスキル『効果作成』で作ることができるらしい。
ただし、フルセット効果の場合はジョブアビリティ【服飾の心得】のアビリティレベルが5にならないと作成できない仕様になっているらしい。
確か、レベルがあるジョブアビリティはレベル2以降どちらかが必ずレベルアップする使用になっているので、少なくともレベル8か9は既に越えているという事になるだろう。それをこれだけの精度で付けられるのだから、実際は更に上なのは間違いなさそうだ。
因みに単体でアビリティ効果を持つ防具もそのスキルで作れるようだが、その為にはそのアビリティ効果を持つ防具などを素材に用いる必要があるらしい。要するに効果を移すということになるのだろう。
アクセサリーであれば『効果作成』でランダムにはなるもののアビリティを付けられるようだが、その場合、布製のアクセサリーは【装飾】、それ以外のアクセサリーだと【細工】や【彫金】の生産技能が必要のようだ。どうやら、アクセサリーはそれ専用の技能で作れるようになるらしい。
オキナは服飾メインなので【裁縫】とその派生アビリティである【服飾】を習得しているらしく、【装飾】はまだ習得していないらしい。
派生アビリティというのは、確か中間あたりのレベルと幾つかの習得条件を満たせば、その技能に類似あるいは関連するアビリティが習得可能になるという機能だった筈だ。一部は派生で習得するほうが条件が簡単だったり、その派生でしか習得できないアビリティなんてものも確か存在したはずだ。
なお、フルセット効果はその効果を付与するために全ての部位に同じ作業を行う必要があるらしく、効果を付ける為にオキナはかなりの宝石を消費したのだとか。
防具自体のランク自体はそこまで高いわけではないものの、それに注ぎ込まれている素材や技術に関しては、どうやらかなり高レベルなものとなっているようだ。
故にオキナが言うには、本来なら技術的にランクはもう少し上のものになる筈で、その場合はより高い装備補正やフルセット効果を与えることが可能だったということらしい。末恐ろしい限りである。
「まぁ、防具のランクがあんま高くなりすぎるとな、装備するときにステータス値とかレベルとかよる装備制限が発生すんねん。せやから、それを回避するために、敢えてこの程度のランクに抑えたっちゅう形になるんやで。言ったやろ? 初心者向けの装備を作るって」
「確かに言ったけど……」
まぁ、性能が良すぎて装備できないようでは本末転倒だ。故にオキナは初心者、低レベル帯でも装備できるギリギリのランクで、より良い性能のものをと作った結果として、こうなったという事になるようだ。
だとしても限度というものがあるだろう。まぁ、その縛りがあった上でこの性能なのだから、やはりオキナという男の実力の底知れなさを感じることができる。
因みにオキナはこれの生産成功によって、伸び悩んでいた各種アビリティやジョブのレベルが大きく上がったらしい。本来なら高ランクの防具になるはずだったので、その影響なのだろうか。
結果、たった5日程しか経っていないが【裁縫】はカンスト、【服飾】もかなり上がったらしく、ジョブレベルもレベル15を越えたのだとか。相変わらず、どれだけ生産活動をすればそうなるのか知りたい限りである。
よく見れば、睡眠不足状態なのだろう。凄く眠そうな雰囲気を出している。寝る間も惜しんでリアルでも一日がかりで作ってくれたのだろう。その生産にかける飽くなき努力については尊敬に値するだろう。
「ま。何はともあれ、はよ着替えてくれるか? 最終調整したいねん」
そう促されるので僕はメニューから装備を選択し、装備変更を選択する。
そしてアイテムボックスにある『天暁シリーズ』の防具を選択していく。この時、求めるステータス値の傾向から自動選択する方法もあったが、今はこれらしかないので普通に選択することにした。
そして、『装備変更・開始』の項目を選択すると、一瞬のうちに全身を光の渦が包み込んでいき、やがてその光が消えると、僕の全身の装備は新たなものへと一新されていた。
全体的にこの世界で広く使われているタイプの衣装を元としており、そこに冒険で役立つように各部に金属製のようなプロテクターのようなものが縫い付けてあった。
カラーはグレーを基調としながらも、その各所に黒と白のラインが入っている。まるでルヴィアを召喚した際に光の周りに走っていた稲妻のエフェクトのようだ。
頭の髪飾りは長い髪を後ろで結んでいるバンドに付けられており、白と黒の稲妻が後ろ髪に向かって走っているような形になっている。
一応装備として一体化している上着は袖が広がっていることもあって緩やかな感じだがインナーやパンツに関してはかなりジャストフィットしており、身体全体を守るように包み込んでくれている。
かといって、それにより動きが阻害されるような感じは一切ない。むしろより機敏に動けそうな気すらしてくる。
厚底靴も最初は違和感があったが、すぐに慣れた。靴底がちゃんとしているので、ある程度どんな地形の場所でも安全に行けそうだ。
「どう? 似合ってる?」
取り敢えず、この場にいる面々にお披露目し、似合ってるかどうかを聞いてみた。こういうのは、着せられてる感がするのは少し嫌なタイプだ。まぁ、ツギハギよりはマシなんだけど。
「うむ。完璧だぞ! 妾が見込んだ通りの出来になったな!」
「うん、リュートさんかっこいいっす!」
「……リュートお兄さん、とっても強そう」
「ま、実際めちゃ強いんやけどな。その装備自体は。我ながらようやったと思うで」
その後、オキナは関節部などの可動の調子を確認し、細かな調整を施してからその最終調整は終了した。
「あ。知っとるやろうけど、一応説明しとくな。それらの防具は、初期装備と違って『装備耐久値』が設定されとんねん」
その説明に全員が頷く。初期装備は補正効果がない代わりにその装備耐久値が存在しないという仕様になっていた。
「基本的に防具のは武器とはちごうて、戦闘ではそこまで減らんのやけど、普通にプレイしてるだけで減少していくんや。……んで、使い続けたらいずれ壊れてまう。せやから、耐久値が大きく減少した時は俺に連絡してな? そん時は、作り直して回復したるわ」
その時はお得意様サービスで安くする、とにこやかにオキナは追加で告げる。
オキナの説明した装備耐久値だが、防具の場合は普通に活動すると1時間でだいたい1から2程度か自然と減少し、更に一回の戦闘では1〜5くらい減少するらしい。
この装備耐久値が完全に無くなってしまうと、一部の装備を除いてその時点でそれらの装備は壊れてしまい、消滅してしまう。
その時はアイテムボックスからも消えてしまうので、そうなるとオキナでもどうしようもないらしい。完全に新しいものを作り直すか、また新たに手に入れるしかない。
なので、装備耐久値が大きく減ったタイミングで、オキナの元にもってきて作り直してもらうことで装備耐久値は回復する必要があるらしい。おそらくは生産職のジョブスキルかジョブアーツにその手の効果のものがあるのだろう。
基本的に装備耐久値が大きく減少すると、大体どこかしらの部位が破けたり壊れたりする『破損状態』になるらしいので、そうなればすぐに修理に持ってくるようにとの事だった。
その『破損状態』だと装備補正が減少したり、フルセット効果が発動しなかったりする他、放置すると装備耐久値が減りやすくなるというデメリットしかないらしい。
どうやらこのゲームの防具は、破けたとしても自動で修復とかはしないらしい。汚れとかはある程度したら落ちるらしいのだが。
なお、武器に関しても当然ながら装備耐久値は存在する。武器の方は常時減少するわけではないが、戦闘で使うことで防具よりも減少するらしい。
こちらも生産職に素材を使って作り直してもらうことで回復可能となっているが、それよりも携帯砥石や修復キットなどの耐久値回復アイテムを使って、こまめにケアする方がコスパ的には良いらしい。
防具にも似たような耐久値回復アイテムはあるらしく、オキナ的にもなるべくならその手のアイテムを使ったほうが長持ちはするという話だった。
日頃から十分にケアすることで長持ちさせられるというのはこの世界でも同じようだ。
その上でどうしようもない損傷などが発生した場合に生産職に直してもらうというのが理想なのかもしれないな。
オキナから安く売っているNPCの店を教えてもらったので、後で探してみても良さそうだ。
「それじゃあ、これが料金だよ。確認してほしい」
「んー、まいど! しっかり受け取ったで」
そして防具の最終調整等が終わり、しっかりと装備を確認し終わった僕らは、3人で1万ずつ支払うということで、オキナに防具代を支払う。
もう少し出したほうが良いかと支払う前に何度か聞いたが、本人的にはもうこれから変えるつもりはないらしい。
「いやー。それにしても、今回はええ仕事させてもらったわ! リュートはんも、ランスはんも、ミリィはんも、防具のこと聞かれたら、オキナのやつやって紹介してな! まぁ、聞かれるまでもなく俺のやつやって分かるやろうけどな!」
ガハハと笑いながら、3人並んだ僕らの様子を見つめるオキナ。
因みにこの後は商人ギルドに、店の件でまた相談に行く予定だったらしいのだが、カンストしたことで新しく習得した生産技能のスキルやアーツを試すため、またしばらく生産ルームに籠もってレベル上げを行うつもりらしい。
尤も、それよりもまずはこれからログアウトして6時間ほど寝るようだ。それも睡眠不足状態を解消する為である。
しかし、そのうちオキナなら本当にルヴィアでも着れるような装備を作り出すかもしれないな。
その後、僕らはオキナの生産ルームを後にする。今日もランスたちは昼からリアルの用事があるとの事なのでこれで解散となる。
「……ごめんなさい、あまり一緒にプレイできなくて」
「いやいや、気にしなくていいよ。僕も今日の昼と明日の日中は用事があって、結局夜にしかプレイできないからね」
その用事だが、今日は引っ越しの日に届かなかった家電が届くのでその受け取りをしなくてはいけなくて、明日は大学の新入生歓迎集会がある。高校時代の先輩が絶対に来いと言っていたから行かなくてはならないのだ。まぁ、友達作りという点もある。
「そうなんですね……。あ、明後日は一応1日中プレイできるんで、もしリュートさんの都合がよかったらその日に一緒にプレイしましょう!」
「そうだね、その時はよろしく頼むよ」
取り敢えず、ランスたちとは明後日また一緒にプレイするということで約束をし、そして彼らのログアウトを見送った。
さて。もうお昼だし、少ししかログインできなかったが僕もログアウトすることにしよう。
「じゃあルヴィア。次にログインできるのは夜時間になるよ」
「うむ。夜の時間だな。待っておるぞ!」
そしてログアウトした後に、僕は昼食の準備をし始める。今回は特に電話がかかってくる様子はなかった。
取り敢えず、足りなかった家電系の荷物は15時には届くから、それを受け取って整理するとなると、ログインするとしても18時かそれ以降になってしまう。
確かその時間はまだ夜時間なんだよな……。まぁルヴィアにはその時間にログインするって伝えたし、取り敢えずその時間のうちに僕もオキナに倣って、生産技能と自分自身のレベリングに挑戦してみようかな?
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