第25話 魔術の傾向

「……そういえば、リュートお兄さんは【魔術】の傾向のアビリティは何を取りましたか?」


「えっ、傾向? ……あ」


 ふとミリィから問われて何のことだろうと思ったが、そういえば【魔術】は【黒魔術】や【白魔術】などといった、習得する魔術スキルの傾向を決める効果アビリティを習得しないと、中途半端な性能の魔術スキルしか覚えないということを今の今まで完全に忘れていた。


 これらのアビリティは【魔術】で覚える魔術スキルの傾向を変化させる。例えば【黒魔術】なら攻撃傾向、【白魔術】なら回復傾向といった感じだ。


 それに対し、僕は【魔術】しか習得していないので覚える魔術スキルは中途半端。更にステータス値の低さも相まって、より使い物にならないレベルとなっている。それはギルド登録試験で散々な結果になるわけだ。


「……えっ、もしかして覚えてないんですか?」


 信じられないと言わんばかりにミリィから怪訝そうな眼差しを向けられてしまうが、確かどちらもINTの数値が習得する条件のはずだ。


 僕の場合、記憶にないということはおそらくアビリティ選択の途中で面倒くさくなって条件外のものを除外したときに見落としてた感じなのだろう。


「お、おいミリィ……。きっとリュートさんも考えがあって、習得してないんだよ」


「……確かに、敢えて習得しないで、回復と攻撃のどちらのスキルも使えるのも……魅力」


 なんだかよく分からないうちにミリィは未習得な事に納得しているようだ。良かった、自分はそもそも戦うつもりはない、なんてこのタイミングで言ったら、どんな目で見られていたことか……。


 因みにこの傾向を決める効果アビリティを含めて、ゲーム開始時に習得可能なアビリティに関しては一部を除いて、ステータス値以外の条件でも習得可能となる。


 なので、【黒魔術】や【白魔術】もステータス値以外の条件を満たせば習得可能とはなるのだが、今獲得するのも色々と勿体ない気がする。


 この傾向を決める効果アビリティはいずれか1つしか習得できず、別の傾向にしたい場合は元の傾向を決めるアビリティに新しいものを上書きする形となるので、どっちつかずならばいっそのこと習得しないほうが良さそうな気もする。


 因みにミリィは【黒魔術】を選択したようで、僕が使える『ヒール』は覚えていないようだ。その代わり、『ファイヤーボール』や『アイシクルランス』などの属性魔術を習得している。


 うーむ。バランスが良さそうと思っていたが、後衛で回復手段がないのは、少し気になる所だ。


 他に回復スキルを覚える戦闘技能である【回復術】を覚えていれば問題ないのだろうが、話を聞いている限りだと、残りは魔術の火力補正のアビリティや採集用のアビリティだったりして、どうやら覚えてはなさそうだ。


 その後も色々と話をしていると、実は2人も僕と似たような依頼を受けていたこと――当然、グレーウルフの討伐は僕らだけだ――を知り、そのままの勢いで2人から一緒にパーティーを組んでくれないかと頼まれる。


 おお、パーティーの誘いって、こういう感じで誘われる感じなのか? ……いや、なんか違う気がするな。


「別にいいけど、僕はあんまり戦力にはならないよ?」


「いやっ、支援してくれるだけでも助かりますよ! それにルヴィアさんもかなり強そうですし」


「そ、そうかの?」


「うん。……それに、ブラッドサポーターのスキルを使ってるところ……見てみたい」


 そう煽てられるとルヴィア程ではないが気を良くしてしまうな。確かにこの2人となら別に相性とかは問題は無さそうだし、しばらく一緒に組んでも良さそうだな。


 それにこういうゲームはパーティーを組んで複数人で遊ぶのも醍醐味だって潤花が言ってたし、折角ならその醍醐味を楽しませてもらうことにしよう。


「それじゃあ、しばらくの間パーティーにお邪魔させてもらうよ。よろしくね」


「……! ありがとうございます!」


「ありがとう……ございます」


 こうして僕は初めての街の外を、パーティーを組んで進んでいくことになった。その際に、2人にはルヴィアの事についてちゃんと説明する。ランクなどはパーティーを組むと流石にメニューからバレてしまうからだ。


 ルヴィアがSSSSランクであるということを知った時は流石に驚いている様子の2人だったが、ルヴィア本人が「その通りだ」と肯定するので、一先ずは納得している様子だった。というか、元から人型なので高ランクなのだろうとは思ってはいたらしい。それもそうか。


 その後、ランスとミリィの2人がどんな感じで戦うのか等を聞こうとした際に、外に出る検問が僕らの順番となり、僕らは門番にクラスカードを提示するようにと言われたので、アイテムボックスからクラスカードを選択し、見せてから渡す。


 アイテムボックスに関しては消費アイテムや生産キットなどの使用するタイプのアイテム全般が入る『アイテム』、モンスターや採集で手に入れた素材が入る『素材』、武器や防具にアクセサリーが入る『装備品』、クラスカードや所持金が入る『大切なもの・お金』、それ以外の用途不明アイテムや換金アイテムなどが入るらしい『その他』というふうに別れている。


 最初の3つに関しては現時点でそれぞれ90個の格納欄があり、その1つの枠で1種類のアイテムを保管することができる。


 『大切なもの・お金』に関しては、今は所持金とクラスカードしか無いが、それ以外の枠が表示されておらず、最大量飲表示もないので特に所持数の制限とかは無さそうだ。


 『その他』に関しては何も入ってないが、枠や最大量が表示されているので、おそらく大切なもの以外のボックスと同じ量入るのだろう。


 1種類のアイテムで最大数はアイテムの種類によって異なるようだが、素材アイテムに関してはその1つの枠で最大99個まで格納可能となっているので、特定のモンスターを狩り続けた結果、すぐにボックスがそのモンスターの素材でいっぱいになる、なんてことはなさそうだ。逆に個数は少なくても種類の違うモンスターばかり倒したり採集し続けたりしていると枠がすぐ埋まってしまいそうではある。


 なお、装備品は同じ名前の武器や防具であっても、 個別の物として認識する仕様になっているらしい。なので装備品は項目の最大量まで持てるようになるらしい。


 アイテムボックスの格納する枠自体は、エクステンドサービスに加入することでそれぞれ10個ずつ増やすことができる。これでキリよく枠は100個になる。


 他には【ボックス拡張】というアビリティによって5個ずつ増やすことができる。確かレベル10で最大だったので、エクステンドサービスのものも含めれば150個の格納欄を持てることになる。


 このアビリティも、ステータスアップ系と同様にレベルアップにアビリティポイントを必要とし、レベル上限まで上げることで非セット時でもボックスが拡張されたままになるようだ。


 余裕があればこのアビリティも取ってみたいが、ベータ時代は商人ギルドへの登録が必要だったらしい。生産アイテムなどを作って売ることがあれば、習得しに行くかもしれないな。


 なお、所持アイテム自体はそれぞれの項目から選択することで、使用したり実体化させることができる。今回は『大切なもの』に入っているクラスカードを選択して実体化したというわけだ。


 仮にここで返してもらうのを忘れても、『大切なもの』の場合は自動でアイテムボックスに戻ってくる仕様となっているようで、ジョブ案内所で言われた再発行の心配は実は無かったりする。


「…………」


 僕らのクラスカードを受け取ったその門番は無言でその中身を確認する。彼は全身を鉄のような鎧で纏っており、2メートル近くあるハルバードを片手に持ちながら器用に僕らのカードを確認していた。


 顔が少ししか見えないが、その右頬には大きな傷跡があることから、歴戦の戦士であることは間違いなさそうである。


「……確認した。道中気をつけて」


「分かりました。ありがとうございます」


 僕はその門番に礼を言ってその場を後にする。ランスとミリィも僕にならってか、ペコリとお辞儀をしてからその場を後にした。


 振り返ると、門番は少しだけ笑みを浮かべて僕らに手を振っていた。

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