第26話 2人のドラゴン
「……これが街の外か」
街道を歩いている他のNPCやプレイヤーの邪魔にならないよう少しだけ歩みを進めてから、改めて周りの風景を見て回る。
南門から街道が繋がっており、その両脇には豊かな緑溢れる草原が広がっている。草原の左側の奥には森のようなものが存在していた。
マップを確認すると、ここは『南ファスタの草原』という場所になっており、その先にある森は『ファスタの森』という場所になるようだ。
この街道を少し進んだ先に森の中を通じる旧街道があり、森を抜けてさらに旧街道がある林道を進むと、例の村となっている集落があるようで、そこで村の様子を確認したり、村人たちの依頼を聞いて回るのがイーリアからそれとなく頼まれた事となる。
因みに地図の縮尺的に森の先からその村まで行くには、ファスタの街から森まで行くよりも時間はかかりそうだ。
まぁ、まだこの周辺の探索も出来ていないし、今は他にパーティーメンバーがいる都合上、村の方まで進むのはまたの機会になりそうだ。
「ひゃー! スゲー広いや!」
「綺麗……」
ランスとミリィは目の前の広大な大自然に興味津々といった様子だ。
確かに、最近ではこのような自然豊かな光景は中々遠出をしないと見ることは出来ない時代になってきた。僕もたまに家族で旅行に行くときくらいにしか見ることはない。
風が
「さて。ランスとミリィは『スライムの討伐』と『クスリ茸の採集』を受けてたんだよね。クスリ茸は森が群生地だからそこで探すとして、取り敢えずスライムはこの草原に出るみたいだから探してみようか」
「あ、はい! ……でもリュートさん、クスリ茸の生えてる場所とか、よくモンスターの出る場所が分かりますね?」
「あぁ、それは……」
ランスから質問されたので、さっきの冒険者ギルドで男性冒険者から聞いたことを説明する。
説明ついでに地図もモンスター情報も無い2人のマップを見せてもらったが、ある程度の範囲の詳細な地形や場所の名前などが記載されている僕のものに対して、2人のものはその付近の簡単な地形しか表示されておらず、場所の名前も記載されていない。
モンスターの情報も、僕のマップにはそのエリアで出現するモンスターとして別枠で表示されているのだが、2人のものにはその枠すら存在しなかった。
そのマップを見比べた2人は、ほぼ同時に「戻ったら買います!」と宣言していた。
確かにこれだけの差があると、探索のやりやすさも全然違う。僕が逆の立場であっても、即断即決で購入しただろう。まぁ、次にはお金の問題が出てきそうだが、依頼料が入るから問題は無さそうだ。
「取り敢えず、スライムを探そう。今はパーティーを組んでるから全員で1体倒せば依頼は達成だけど、まずは戦闘になれるために目標は僕らとランスたちでそれぞれ1体ずつ討伐する感じかな」
基本的にパーティーを組んでいる時に、それぞれが受けている依頼の対象――ここではスライム――を倒した場合、全員に討伐数のカウントが付く。
故に依頼を受けたプレイヤーは似たような依頼を受けたプレイヤーをパーティーに勧誘する事が多いらしい。ソロよりも複数人の方がその依頼の成功率が上がるためだ。
基本的にはギルド内や街中などで募集したり、掲示板から『パーティー募集スレ』に記載したりするなど様々である。
今回のランスたちのように、たまたま話しかけたら同じような依頼を受けていたから誘うというパターンも、似たように門の前で話をしていたプレイヤーが見かけられたことからも、決して少なくはなさそうだ。
なお、スライムを僕とルヴィア、ランスとミリィでそれぞれ1体ずつ倒すことに関しては、2人からも特に異論は無かった。まぁ、2人が相手をするときは僕がサポートに回るので、問題はないだろうと思う。
「ただ、サイズが小さいらしいから、見落とさないようにしないといけないらしいけど……」
「めんどくさいのぉ。それなら妾が焼き尽くしてやろうか? そうすれば手っ取り早いだろう?」
待て待て。そんな事したらせっかく生えてる植物類まで燃えちゃうだろ。
それに他のプレイヤーの迷惑になる。あまり居ないけど。
これは気をつけないと、すぐに短絡的な行動をしかねないな。ルヴィアの手綱はしっかり握っておかないと……。
あまりにも調子に乗りすぎた時は送還するしかないと説明すると、本人はさっきのことを思い出したのか、冗談だと慌てて弁明しだしたので今回は大目に見ることにした。
「アハハ……っと、スライム探しなら俺に任せてください! 俺、【鷹の目】のアビリティを取ったから、遠くの小さなものも見えるんですよ!」
「おお、【鷹の目】か。僕も最初、取ろうと思ってたんだよね」
【鷹の目】は視力に作用する効果アビリティで、視認できる範囲が拡大するというものだ。
より遠く、そしてより小さなものも見やすくなるので、単純に索敵能力が上がるのだが、主に弓を使うプレイヤー向けのアビリティと言われている。因みに視野はランス曰くイメージすることで変更可能ということらしい。
しかし、槍使いのランスが何でそのアビリティを取ったのだろうと思ったが、どうやら本人的には槍を投げて戦いたいという思いがあったようで、その時に使えないかと思って習得したらしい。
……ただ僕が調べた限りでは、ベータテストの時点で【槍術】のアビリティには槍を投げるモーションのアーツは確か無かったような気がする。
まぁ、その時は本来獲得出来るものの半分くらいしか覚えられなかったので、この先に覚える可能性は勿論あるだろうが……。
「そ、そういえば、2人はどんなドラゴンと契約したの?」
ふと僕が話題を逸らすためにそう尋ねると、2人はニヤリと笑みを浮かべる。
「知りたいですか? じゃあ見せてあげますよ!」
「……うん。見せます」
「えっ、あっ、いや! 別に召喚してくれって頼んでるわけじゃないんだよ? ほら、召喚にも少なからずコストはかかるから――」
しかし、僕がそう言い切る前に2人はドラゴンを召喚する。遅かったかぁ……。
ランスの方は青銀色の金属のような装甲で身を包んだ巨大なドラゴンだ。形はトカゲのそれとよく似ている。顔まで全て金属に覆われており、その背中にはバイクのマフラーを模したような装飾が連なって伸びており、そこから排気ガスのようなものが出ているが、どうやら水蒸気らしい。
ミリィの方は光り輝くオーラを放つ人型に似た体型をしているドラゴンだ。ミリィよりも二回りほど大きな体躯で、その頭部には仮面が付けられている。人型というよりも、石像とか彫刻の方をモチーフにしているのかもしれない。
「紹介しますね、こいつが俺の契約ドラゴンの『メタルオー』です。Aランクのメタルテックドラゴンですね」
「キュィィン!」
「……私のは、『ファム』です。Aランクのエンジェドラン、です」
「――――!」
ランスのメタルテックドラゴンは土属性のドラゴンで、土属性の召喚石で呼び出したドラゴンと説明してくれた。メタルオーは金属音のような鳴き声で挨拶をしてくれる。
また、ミリィの場合はAランクではあるが、属性の召喚石では召喚できない光属性のドラゴンとなっている。どうやら、僕と同じように未知の召喚石を使ったみたいだ。ファムは聞こえはしないものの、どうやら声にならないような声で挨拶をしてくれているようだ。
まぁ、ランクは属性の召喚石と変わらないが光属性自体が属性の召喚石では出ないので、当たりの部類ではあるだろう。
2人はおそらくギルドの登録試験ぶりに呼び出した自分のパートナーとなるドラゴンと触れ合う。ランスはメタルオーの体を撫で、ファムはミリィの周りをぷかぷか浮かんでいる。2人とも、ドラゴンとの仲はそれなりに良さそうだ。
メタルテックドラゴンは装甲がかなり硬く、耐久向きのドラゴンとなっており、ATKとAGIは低めらしい。加速しそうなデザインなのに残念だ。
エンシェドランは回復系スキルをメインに覚えるらしいのだが、ファムのアビリティはどうやら戦闘には不向きな構成となっているようだ。なのでミリィはホントに危ない時にのみ召喚しようと考えているらしい。この子がいるから、ミリィは【回復術】とか覚えてなかったのかな?
「まぁ、しばらくはコイツの力は借りずにやるつもりですけどね。戦闘で使っちゃうと、だいぶ経験値が取られちゃうみたいですし」
メタルオーの頭を撫でながらランスはそう答える。
ランスの言う通り、ドラゴンを召喚してしまうとドラゴンの戦闘での寄与具合関係なく、獲得経験値の多くをドラゴンに奪われてしまう使用になっている。それはドラゴンの出現により貢献度の計算が変更され、その結果として出現するだけでドラゴンに貢献度が偏るようになってしまう為に起こるようだ。
一応運営としては、従竜RPGとしてドラゴンを使ってもらいたいという意図はあるのだが、そうなるとドラゴンを召喚し続ければ大抵の敵は楽して勝てるようなヌルゲーになってしまうと判断したのだろう。召喚コストも含めて、ドラゴン関係にはそのようなデメリットを設けた形となっている。
結果として、僕はそのデメリットをモロに受けてしまっている形になってしまった。
かくいう2人もギルド登録試験の際に、よく分からずに最初からドラゴンを召喚し、特にドラゴンの力を借りずにゴーレムを倒したのだが、思ったよりも経験値が入ってこなかったらしい。まぁ、それでもレベル2には上がったらしいのだが。
因みに、ドラゴン自体は育成メニューの方でレベル上げができるため、まずはプレイヤーのレベル上げをしてからドラゴンの育成、という流れが一番マシな育成方針になる。その場合は育成アイテムを集めるのが大変そうではあるのだが。
それに、僕らプレイヤーのレベルを上げると、よりドラゴンを召喚しやすくなるような機能が開放されるらしいので、まずは自分たちのレベルを上げていくのも大事ということになるらしい。
「まぁ、今後長く付き合っていくことになるであろうパートナーなんだ。大事にしないといけないね」
特に最初からAランクドラゴンである2人は、下手すると最後の最後までこの子たちと共に戦っていくことになるかもしれない。そう考えると、しっかり仲良くなっておけばきっと何があっても大丈夫だろう。
「そうですね。まぁ、たまには呼び出して戦わせないと、拗ねちゃうかもしれないですね!」
「キュゥゥゥ!」
「……ファム、拗ねないでね?」
「――――!!」
その後、しっかり交流をし終わった2人はドラゴンを送還する。時間切れでもドラゴンは異界へと送還されるのだが、その前に送還すると残り時間に応じて消費した召喚コストが返ってくる仕組みになっている。
再び彼らを見るときはおそらく2人がピンチになったときなのだろうが、果たして僕らと組んでるときにそんな機会が来るかどうかは……まぁ、ルヴィアと彼らの実力次第といったところか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます