第3章 新たな出会い

第46話 オキナの防具

 翌日。朝から買い出しに行って帰ってきた僕は昼前にドラクルへとログインする。


 ルヴィアと共に聖竜神殿の前に降り立った際、周りを見てみると初期装備のままのプレイヤーの数は少なくなっていた。


 まぁ、それ以前にプレイヤーの数も少なかったが。夜時間直前だからというのもあるし、リアルで昼前だという事もある。一応、僕らは春休み期間中だけども普通に平日だからな。


 それで、初期装備のプレイヤーが少ないのはリアルではまだ1日しか経過していないものの、ゲーム内では既にサービスを開始してから約5日程が経過していることになるからだろう。


 流石にこのくらい経過すると、周りのプレイヤーの大半はレベル5を越えており、装備も店売りの物を購入したりして整え始めているだろう。まぁ、無理やり揃えたであろうというのがよく分かる、かなりツギハギな様相のプレイヤーが多いのだが。


 未だにプレイヤーレベルがレベル1なのはチュートリアルを終わらせたばかりのプレイヤーくらいなものである。


 ……いや、そのチュートリアルを終わらせたプレイヤーでもレベル1のままなのはかなり珍しいのかもしれない。


 あり得るとしたら、僕みたいにほとんど何もせずに勝利したか、生産ギルドで登録したかのどちらかだろう。生産活動でレベル上げするには質よりも量が大事みたいだからな。


 まぁ、後者の場合はそのまま普通に生産活動へと入るプレイヤーがほとんどなので、その後はある程度レベルが上がっていくことになるだろう。


 そういえば昨日【後方支援】のアビリティレベルが上がったときに新しいスキルを覚えていたが、よく確認してなかったので確認しておこう。


 レベル3で覚えた『メンタルケア』というスキルは、精神系の状態異常を回復し、一定時間RESの数値を引き上げる効果を持つスキルだ。


 どちらかといえば回復スキルに似ているのだが、一応RESの数値を上げるので支援スキル扱いらしい。初期倍率はアシスト系スキルより低く1.1倍のようだ。


 なお、状態異常には環境や行動で陥る特殊な状態異常を除けば、『肉体系』と『精神系』の2種類が存在し、前者は火傷や麻痺、猛毒などが当てはまり、後者には熱中や混乱、病魔などが当てはまる。咆哮などで発生することがおる『気絶スタン』状態は精神系の状態異常だった筈なので、思ったよりは使い所はありそうだ。


 また、このスキルの面白いところは、夜目や睡眠不足、空腹や疲労、魔力欠乏に息切れなどの特殊な状態異常に関しても、一時的にだが解消することができるという点にある。


 ただし、それらはあくまで一時的な回復なので、根本的な解決にはならないし、そもそもそれらの解消自体はそこまで難しいものではないので、わざわざこのスキルを使う意味はほとんどない。


 戦闘中にその手の特殊な状態異常に陥ることがあれば、また話は変わってくるだろうが今のところはなんとも言えない。


 いずれにせよ、精神系に限るが状態異常回復スキルとしてはかなり消費MPが少ない部類になるので、それだけでも使いどころはあるというものだろう。


 こうして『メンタルケア』の効果を確認した後、ちょうどメールの受信を知らせるアラートが鳴る。ランスからだった。


「えーっと、何々? ……あぁ、ランスとミリィは既に生産ルームの方に向かっているのか」


 僕がログインしたことをフレンドのメニューで知ったのか、ランスたちは先に生産ルームの方に向かっている事をメールで教えてくれた。


 彼らは午前中からプレイしてたみたいだな。レベルは昨日から1つ上がってレベル6になっている。


 ランスは既にオキナにも連絡していて、防具は問題なく完成しているとのことらしいので、それならば僕も早速向かうことにしよう。


「よし、ルヴィア。装備を受け取りに行くよ」


「うむ、行くぞ!」


 ルヴィアはこちらの世界で約2日ぶりに召喚したことになるのだが、特に不平不満があるわけではないようで、前回までと特に変わらない様子であった。


 聞けば、ルヴィアの居る異界はどうやらリアルと同じ時間の流れになっているようで、要するに召喚されていない場合は僕らがログアウトしているのと同じ感じなのだそうだ。


 どうりであの時、送還して再度召喚しても特に何とも思ってなさこうだった筈だ。リアルと同じ時間なら、送還されて1分も経たないうちにまた呼び戻されたのだから、不満に思う時間も無かったのだろう。


「まぁ、送還したり召喚したりを繰り返せば流石の妾も怒るがな?」


「いや、流石にそんなことしてたらMPが幾らあっても足りないよ」


 ただでさえ【常在戦場】の影響で、召喚コストがバカみたいに高いんだから。


 そんなこんなで生産ルームに到着する。ランスたちは既に案内された後のようだ。僕は受付の方でオキナのルームへとつなげてもらう。


 そしてオキナに招待される形で、彼が借りている生産ルームへと転移する。


「いやー、待っとったでおふたりさん! 防具はバッチリ、完成しとるで!」


 出会い頭にオキナが妙に高いテンションで出迎えてくる。そんな様子を苦笑いを浮かべながら見つめるランスと、無表情のミリィ。


 2人は既に新たに作ってもらった防具を身に纏っていた。


 デザイン自体はあの時に決めたものに少し新たなデザインが込められたものとなっている。また、素材の質が違うのか、明らかに防具としての造りが良くなっていた。


 流石というかなんというか。どう考えても、一式1万で手に入るような代物ではないことは確かだ。


「お疲れ様です、リュートさん、ルヴィアさん」


「……こんにちは、リュートお兄さん、ルヴィアちゃん」


「やぁ、2人とも。よく似合ってるね」


 僕がそう褒めると2人とも「えへへ……」と笑みを浮かべる。年相応でよろしい。2人は専用の装備ができたことがとても嬉しかったようだ。


 防具に関してはオキナが説明していたが、全部で頭・胴・腕・腰・脚・靴の6部位が存在している。うち、防具を装備する際に必須となる部位は胴と脚の部位となる。


 胴部位の防具は基本的に上着とその下のトップスがセットになっており、腕の部位まで一纏めになっている場合も多いらしい。初期装備はデザイン的に腕まであったが、装備対象ではなかった。


 脚部位に関しても、下半身の装備が纏まっている場合があり、腰部位とセットになっているものもあるらしい。因みに初期装備に関しては胴と同じくデザイン上はあるものの、上と同じく装備対象ではない。


 なお、靴に関しては初期装備では用意されていたが、実は装備する必要はない。ただし、ゲーム中は舗装されてない道を歩くことがほとんどなので、足の裏の感触的に靴を履いたほうがいいだろうという流れで初期装備には入っていたらしい。なので、裸足で走り回るプレイヤーも少なからずいるようだ。


 前述の通り、複数の部位で構成される防具は基本的に『複合防具』と呼ばれている。その手の防具は複数の部位に該当することから普通の単体の防具よりも効果が高かったりするようだ。


 ただし、個別で強化できないので細かい調整などは難しいらしい。


 なので、今回オキナが用意してくれたのは各部位単体の防具となるようだ。


 今後、状況に応じて異なる装備補正を追加することとなった場合に部位ごとに変更できた方が利便性がいいから、なのだそうだ。


「ま、本来なら元から持ってる装備を参考にして作るつもりやったんやけど、まさか3人とも初期装備オンリーとは思わへんかったからなぁ」


 なお、ゲーム開始してからほとんど武器や防具を更新してないプレイヤーは居ないわけではないが、それなりに珍しいとはオキナから言われた。


 僕らは普通に外に出れるようになった後にそのまま外に出たのだけど、本当ならあの時点で1部位でも補正のつく装備か武器を買って、近場でレベリングと金集めをしてから追加で装備を手に入れて、全身の装備欄を埋めるというのが、ゲームの流れ的にはより楽に進められる流れだったのだとか。


 だから、アイギスからは色々不思議な目で見られてしまうことになってしまったのか。


 まぁ、それはあくまで1つの楽しみ方なので否定するわけではないとはオキナに言われたが、確かにチュートリアル直後でもツギハギながら防具を着ていたプレイヤーが何人も見られたから、きっとそういうものなんだろう。今更だが。


「ま、そんなんで買った装備なんて、たかが知れとるからどちらにせよ新調させとったけどな」


 そうあっけらかんと笑いながら告げるオキナ。「アクセならともかく、俺の装備とよく分からんやつ混ざるのなんか嫌やねん」とぼそっと呟いていたが、僕にははっきりと聞こえていた。


 おそらくは彼なりのプライドがあったのだろうな……。

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