第64話 死に戻り

 『死に戻り』――それはプレイヤーのHPが0になった後、蘇生可能な時間に蘇生されずに死亡した場合に発生する状態となる。


 死に戻りとなった場合、レベル5に到達していない場合は、単純に最後に到達したログインスポットへと戻ってからの再開リスタートということになるのだが、レベル5を越えた段階で『デスペナルティ』というものが発生するようになる。


 ユートピアのパーティーは全員レベル5以上となっているらしく、どうやらそのデスペナルティの対象となってしまったらしい。


 そのペナルティの内容だが、まず死に戻りしても再度復帰可能なイベントなどを除き、死に戻りとなった時点で強制的にゲームからログアウトすることとなる点が1つある。


 ただし、その際はという仕様となっている。通常のログアウトなら休憩で15分なので、ざっと4倍になる。


 つまり、死に戻ってしまったユートピアは、ゲーム内の時間で4時間は帰ってくることができないということとなる。


 更にゲーム内で死亡する1時間前までに獲得した経験値やアイテム、お金等を喪失ロストしてしまうというペナルティも存在する。


 こちらもログアウトと同様、復帰可能な特定のイベントでは発生しないらしいが、基本的には発生するものと考えたほうがいいだろう。


 この2つを合わせたものがこのゲームにおける『デスペナルティ』となる。他のゲームでは一定時間のステータス下降だったり、アイテムの全損、ログイン不可時間がほぼ一日だったりするらしいのだが、このゲームでは一応このような形になっているようだ。


 まさに名前の通り、死んで諸々が巻き戻った形となる。『死に戻り』の名の所以は、この部分にあるのだとかそうでもないとか。真偽は不明。全ては開発者のみぞ知る、という事なのだろう。


 勿論、ゲーム内で一度しか手に入れられないような大切なものは消えないし、購入したアイテムもそのままとなる。また、依頼やクエストを受注したことやその他イベントの発生状況や進行状況などはそのままとなるらしい。


 どうやら、基本的にNPCが関与する事柄に関しては巻き戻しの対象外となるようだ。


 ただし、その依頼やクエストにおける個人的な達成状況――例えばモンスターの討伐数や採集したアイテムの数などについては、1時間前での達成状況まで巻き戻ってしまうということになる。


 また、依頼をギルド等に報告してから1時間以内に死に戻りすると、依頼をクリアしたという実績は残るものの、依頼達成で得られた報酬については大切なものを除いて失われてしまう。


 それこそ、死に戻りする1時間よりも前に達成して報告していれば依頼関係は何も問題ないが、直前に達成して報告していると全て水の泡と化してしまうのが痛い。


 また、当然ながらデスペナルティ後に再開する場合はレベル5になる前までと同様、最後に到達したログインスポットに戻ってからのリスタートとなる。


 ユートピアたちの場合、再ログイン後はファスタの街か、既に開放していれば次の街からのリスタートとなるだろう。


 しかし、そこからこちらに戻ってくるには更に時間が必要となる。ペナルティ明けでログインできるようになる頃には夜時間近くになることもあって、もしかすると今日中の再会は絶望的かもしれない。


「そういえば、他のメンバーは……?」


 フレンド欄でユートピアのパーティーの状況を確認すると、ユートピアの他に死に戻っていたのは、ナインスとガンツの2人となっている。


 つまり、さっきユートピアが言っていた連れ去られたプレイヤーというのはメイヴィということになる。


 何故彼女が選ばれたのかは不明だが、1人だけ倒さずに連れ去ったということは、 おそらく彼らが何らかのイベントを発生させてしまった可能性が高いのだろう。


 救助を頼まれたからには、出来ることなら助けには行きたいところだが、どうやら彼らが遭遇したモンスターが問題だったようで、ウルカとコトノハが「うーん……」と首を傾げていた。


「ホブゴブリンか……。ベータテストでも屈指の強敵だったね。強い・硬い・速いで多くのテスターたちを屠ってきた強モンスターだ。かくいう私も何度倒されたことか……」


 コトノハが先程のユートピアの発言に出てきたホブゴブリンについて、苦々しく思い出を語る。


 ゴブリンについては群れで連携行動を取ることを注意すれば、グレーウルフよりも素早くなく攻撃も弱いため対処自体は楽らしいのだが、その上位種であるホブゴブリンは単体でかなり強い上にゴブリンを従えて行動するため非常に戦いにくい敵となるようだ。


 ベータテストの時点で出現した際は一番弱い個体であっても、推奨レベルが28以上だったとウルカが説明する。


「流石にベータテストでもプレイヤーレベルが28になったプレイヤーは居なかったね」


「でも、ベータではジョブをクラス2にしたプレイヤーは居たんですよね? そのプレイヤーはかなりレベルが上がってたんじゃないんですか?」


 ふと疑問を抱いた為にコトノハに質問を振る。ただ、敬語で話しかけた事で「プッ」と笑われてしまい、「もっとフランクに話しかけてくれていいよ!」と笑われながら告げられたので、次からは普通に話すことにしよう。


「……いや、すまない。えっと、ジョブの話だったっけ? スミレの斥候とかは、比較的プレイ中の役割が多いからジョブレベルは上がりやすいんだよ。ただ、その殆どがプレイヤーレベルには関係ない点だったりするから、プレイヤーレベルはそんなに上がらないってわけさ」


 他にも生産職なんかはプレイヤーレベルもジョブレベルも上がりやすい仕様となっているのだが、プレイヤーレベルに関しては特定のレベルに達するとある程度難易度の高い生産を行わなければ、経験値そのものが得られなくなってしまうらしい。理由としては、簡単なものを作り続けることで無理やりレベリングするのを防ぐ為なのだとか。


 ジョブレベルの方は、難易度の簡単なものを作り続けても量は少なくなるが経験値はちゃんと入る仕様となっているようで、ジョブレベルは上がることが出来るのでプレイヤーレベルを超してしまうということのようだ。


 まぁ、要するにジョブレベルが高かったりジョブがクラス2だったとしても、プレイヤーレベルが高いとは限らないという事になるらしい。


 なお、現時点でクラス2のジョブになっているプレイヤーが居るかどうかだが、図鑑メニューにある『ワールドレコード』で各種レベルの最大値やジョブの傾向、召喚されたドラゴンのランクなどが確認できる為、そこに『クラス2ジョブの保有人数』みたいな項目がなければ存在しないことになる。


 因みに公式サイトにある『ドララン番付』なんかは、このワールドレコードの情報を外でも見れるようにしたものとなっている。


 形式は相撲の番付みたいになっているが、ランク毎に読めそうで読めない文字のようなデザインが記載されているだけで、そのランクのドラゴンの種族や名前が分かる仕様にはなっておらず、総数だけ分かる形になっているようだ。まぁ、Aランク以下は多すぎてよく分からない形になっているが。


「ホブゴブリンに関しては、倒せたことは倒せたけど……ね?」


「あのままの仕様なら今の私達だけじゃ無理でしょうね。仕様変更されてるのを祈るしかないわ」


 ベータテスト時点でホブゴブリンは一応討伐されているらしいのだが、その時はうまい具合にハメ技などを利用し、また途中で実装された複数パーティーで連携する機能を使って何とか倒せたレベルとのことらしい。


 流石に本サービスではそんな鬼畜みたいな仕様にはなっていないと思われるが、強い・硬い・速いと呼ばれていた以上、それなりに手強い敵になるのは違いないだろう。


 ウルカとコトノハの様子を見て相当ヤバイ相手なのだろうと理解したのか、同時にスミレとシルクが顔を青くしていく。


 僕も話には聞いていたので、そこまで顔には出てないとは思うが不安には思っていた。


「なんだ、ホブゴブリン程度に恐れておるのかお主ら」


 そんな全体が暗くなっている状況の中、ルヴィア1人だけがフンと鼻息を吹かせた後にそう言い捨てる。まぁ、ルヴィアからすればそこまでの相手になるのだろうが、それにしてもである。


「いやいや、ルヴィア。幾らSSSSランクだからって流石に勝てる相手かどうかはちゃんと判断したほうがいいよ?」


「たわけが! 妾が絶対に勝てぬ敵に対してそんなことを言うわけがなかろう! ホブゴブリン程度なぞ、今の状態でも倒せるわ! ……まぁ、主殿のサポートがあればの話だが」


 成る程、そういうことか。『ドラゴンエンハンス・マジック』と『マジックアシスト』をかけた状態で、『魔力供与』でMPを分け与えてからルヴィアの『ドラゴンエンハンス』で焼き尽くす――それを繰り返せばホブゴブリンでも倒せるだろう。


 ドラゴンの使う攻撃スキルは耐性属性だったり、余程MINが高くない限りは、ほとんどの敵に対して大ダメージを与えることができる。故に消費MPが高かったり、高レベルにならないと覚えなかったりする。


 そう考えると、レベル1の時点で消費MP30なのに高火力の『ドラゴンブレス』を覚えているルヴィアが異例なのである。まぁ、その分元のMPが少ないのだが。


「それに、その強かったホブゴブリンと対峙したお主らから見て、この森にいる相手がそうでもないことは肌で分かるのではないか?」


「いや、それは流石に……」


「……ねぇリュート。この子、私達を戦闘狂か何かと勘違いしてない?」


 ルヴィアに肌で分かるのではないかと問われたウルカとコトノハであったが、まぁそういう事はあるわけがなく、怪訝そうな目でルヴィアが見られる事になってしまった。


 ……まぁ、相手はドラゴンだからね?


「まぁ取り敢えず、ルヴィアが大丈夫っていうならきっと大丈夫だろうと思うよ。彼女はからね」


 そう僕が言って、ウルカは僕が言いたいことに気付いたのかハッとこちらを向く。


「ルヴィアはこのゲームの住人だから、彼女が大丈夫って言ってるって事は、そこまでレベルが乖離した相手じゃないって事よね?」


「そういうこと。そうじゃなくても、ルヴィアが居れば何とかなると思うよ。それに、今回はウルカも竜騎士になってるわけだしね」


 要するに全てがベータテストの時とは違うことになるので、ベータテストがどうこうという話はそもそも前提としておかしい話になる。


「そうね、それなら……うん、問題ないわね!」


 そうウルカが宣言したことで、当然彼女と一緒に行動してきたコトノハを始めとして、シルクとスミレも同行を決意したようだ。


 まぁ、これだけメンバーが居ればなんとかなるだろう。いざというときは村人の救出とホブゴブリンの討伐に分けて行動すればいいわけだし。


「……というわけで、皆でその連れ去られたプレイヤーと村人を助けに行って、ホブゴブリンを倒すわよ!!」


「「「おー!」」」


 ウルカの宣言に合わせて拳を上げるシルク、スミレ、コトノハの3人。


 僕はユートピアに対して、『今から救助に向かう』とメールを送る。返事は帰ってこないだろうが、一応連絡しておくことにした。ログアウト時でもメールの確認自体はできるからだ。


 すると、村の上空の雲行きが何やら怪しくなってきた。雷鳴も少しずつだが鳴り出している。


 ……まだメイヴィは生存しているが、これは急ぐ必要がありそうだな。

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