第59話 採集の落とし穴
その後、僕らは連れ立って南門からファスタの街の外へと向かう。その時の門番は昨日の人と似ていたがかなり陽気な性格で、傷が逆の方に付いていたので別人のようだった。
そして街道を歩いていき、やがて森の中へと入っていく。昨日ルヴィアが壊した門はそのまま壊れた状態で放置されていた。
そして少し踏み込んだ辺りでウルカが場所の確認をしてきたので、この辺りだと説明する。
「よし、到着ね。今がだいたい8時半くらいだから、残り2時間近くしかないけど、手分けして暁の花とアカルミ茸を探しましょう!」
「「おー!」」
再度ウルカに合わせて掛け声を上げるスミレとシルク。今回はルヴィアは乗らなかったようだ。
この2つの素材に関しては採取が早朝と朝の時間帯限定となっているので、遅くてもゲーム内時間で11時までに集めきる必要がある。依頼の期限自体は3日ほどあるが、集められるタイミングで集めないとリアルの深夜とかにログインしなければならなくなる。
「取り敢えず、村で僕はウルカたちと別れる予定だから、多めに集めないといけないな」
僕の目的地は途中にあるリーシャ村だが、ウルカたちの目的地はその先にある次の街となる。なので、最初からウルカたちとはそこまでの付き合いという形でパーティーを組む予定だった。
パーティーを組んでいた際に受けた依頼は、パーティーから抜けた後も自分の元に残る仕様となっている。元のパーティーの分と自分の分と分裂したような形だ。
その時、討伐系はパーティーにいた頃の討伐数がそのまま引き継がれるので特に問題はないのだが、採集系の依頼はそれぞれが規定の数を持ってくる必要があるため、別れる場合はその分多く回収する必要がある。
それこそ、フルパーティーで採取の依頼を受けてから現地解散する場合、依頼の規定数の5倍の数の素材を集める必要がある。
なので基本的にパーティーが途中で別れる際は素材採集系の依頼は引き受けないほうが良かったりする。今回はそれを忘れてて引き受けた形になる。
「えっ、リュートっち、途中で別れるの!?」
シルクは僕が途中で抜ける事を知らなかったようで驚きの声を上げ、寂しそうな顔をしていた。まぁ、確かに説明してなかったから仕方ないだろう。
スミレもシルクに倣ってか、同様に寂しそうな顔をしていた。
年下の女子2人にそんな顔をされると良心が痛むが、村を周るのは後回しにしたくないんだよなぁ……。
どうにかならないかとウルカに視線を送ると、ウルカは苦笑いを浮かべたあとに口を開いた。
「……そうね、もし村で面白そうなイベントが起きたら私達も付き合うわ。その後にリュートにも一緒に次の街に向かってもらいましょう」
「やったー! ウルカありがとー!」
「これでルヴィア殿ともう少し一緒に居れるでござる!」
純粋に喜んでいるシルクはともかく、スミレはルヴィア目当てか。まぁ、変に意識しなくていい分マシではあるか……。
「まぁ何もなければそれに越したことはないんだけどね……。さぁ、それよりまずは素材集めだよ。見つからなかったらそもそも先には進めないからね」
僕がそう言うと、シルクとスミレはブーブーと頬を膨らませて不満を顕にしていた。そんな顔してても先には進めないぞ?
「まぁ、取り敢えず僕は効率アップの為に【採取】を取ろうかな」
「まだレベル低めなのに、よくそういうの習得できるわね? 戦力アップしたほうが効率良さそうなのに……」
「僕の場合、こういう場面の効率を良くしたいのさ。それに戦闘はルヴィアがついてるからね」
そして僕はレベルアップで入手したアビリティポイントを使って【採取】のアビリティを習得する。
これを選んだ理由としては、やはり前回の薬草とクスリ茸集めの際に【採取】持ちのミリィが大活躍したことが大きいだろう。あの時はミリィが居なければもっと時間がかかっていてもおかしくなかったわけだし。
「そういえば採集系のアビリティってみんなは持ってるかい?」
さっきも触れたが、この手の素材採集系の依頼だと【採取】などの特殊技能アビリティや採集系の行動に対して補正を与える効果アビリティを持っているかどうかで効率が大きく変わってくる。
だからこそ僕はさっき習得したわけなんだが。
「私は当然持ってないわね! 新規アビリティも完全に戦闘向けのやつしか取ってないし」
ウルカは先程の反応からも分かってはいたが、基本的にステータス系のレベル上げか戦闘用のアビリティの習得に使ったと言い、それ以外は習得していないようだ。
「拙者は一応【採取】を取ってるでござる! まぁ、まだレベル2でござるが……」
「ウチは【採集数増加】のアビリティを持ってるよー! まだレベル2だけど!」
スミレとシルクの2人はちゃんとその系統のアビリティを持っているようだ。
シルクが持っているアビリティは、採集活動で手に入れられる素材の数が増えるというもので、拾い取るものも掘削して入手するものも総じて数を上げられるものとなっている。確か、【採取】か【採掘】のアビリティレベルがある程度上がったら覚えられるようになるんだったかな?
【採取】や【採掘】だけでも入手数は増えるものの、それらは対応する行動に対してのみ補正がかかる仕様になっている。それに対し、【採集数増加】はどんな採集活動にも補正がかかるため、汎用性は高い。
ただし、品質や状態に対する補正などは当然ながら【素材数増加】では働かないので、質を重視する依頼の場合には当てにならない事もある。
「十分心強いよ。僕もさっき【採取】を習得したから、頑張って探していこう」
「「おー!」」
返事するのが好きなのかなこの子達? まぁ、元気があっていいことだ。
「うーん。この流れだと私も覚えたほうが良かったのかしら?」
「因みに残ってるアビリティポイントは?」
「ない……わね」
それだとどのみち無理な話だったという事で、ウルカには自力で頑張ってもらう他ないな。
因みに【採取】をセットする際に控えに置いたのは【料理】となる。まぁ、生産技能は生産活動以外ではほぼ使い道がないから仕方ないだろう。
そして手分けして暁の花とアカルミ茸を探していく僕らだったが、採集スポットを見つけても違うものが手に入ったりするなどして中々集まらない。
「うーん、これも違うか……」
2時間程度あればかなり見つかるだろうとタカをくくっていたら、全然そんなことは無かった。
「見つからないねぇー」
「見つからぬでござるな……」
そもそも、その素材を使う調合がかなりのレベルを必要とする時点で、素材のランクの高さを考慮するべきだった。
基本的に拾える素材は、自分のレベルなどに応じたランクのものが手に入りやすいようになっている。でないと将来的には使うかもしれないが、今は不要なものがたくさん手に入ってしまっても、困ってしまうからだ。
なので、基本的に高ランクのアイテムは低確率で入手するようになっており、それの入手確率には流石に特殊技能のアビリティは関与しないようだ。
なので【採取 レベル1】の僕はLUKの高さかは分からないものの、なんとか【採取 レベル2】のスミレと同程度の量を入手することができ、ウルカとシルクの両名は1個も手に入れられないという結果に終わってしまった。
なんとか1パーティー分は集まったが、むしろ2時間でこれだけ集められたのが奇跡に近いだろう。
「……うむ、散々であるな」
採集に明け暮れた結果、僕らはある意味満身創痍となっていた。その間に拾い集めた薬草や魔力草、クスリ茸にハシリ茸の量はランスたちと探したときの比ではない。
これでまたポーション類が大量に作れるだろうが、そんなに作っても消費が追いつかなさそうだ。今度はしっかり納品しよう……。
しかし、これは僕の依頼選択がミスだったかもしれないな。
「済まない、僕がもうちょっと気にかけていればもうちょっと難易度の低い採集依頼を選んでいたのに……」
「イヤイヤ、リュートっちは悪くないって! ウチやウルカっちが全然集められなかったのが悪いんだし……」
「しれっと私を含めたわね……でも、確かに素材のランクは考慮すべきだったわね……。まさかここまで見つからないなんて」
これがもう少し僕らのレベルが高かったのならまた話は違ったのだろうが、果たしてどれだけ上げていたら普通に入手できるのか……。
討伐依頼なら戦力的に無理そうなら受付嬢に止められるだろうが、採集依頼の場合は手に入れにくいだけで手に入れられないわけではない時は基本的にそのまま受注されてしまうようだ。
まさに、採集依頼の落とし穴というところだろう。今後はちゃんと素材のランクを考慮して依頼は選ばないといけないだろう。
そもそも図鑑等で入手場所が確認できても、入手していないアイテムは選ぶべきではないのはこの手のゲームの鉄則らしい。不慣れなところが出てしまったな。
「取り敢えず、この辺りの採集ポイントはほぼ探し尽くしたし、これ以上探しても時間的に見つからないからもう先に進みましょう」
取り敢えず、これで依頼報告まではこのパーティーから抜けることはできなさそうだ。流石にここで抜けると、明日の用事的に僕がこの採集依頼を期限内に達成するのはほぼ不可能となる。
「そうだな……。取り敢えず、この先からはホーンラビットとかグレーウルフとかが出現するだろうから、気を引き締めないとな」
いよいよ僕が貰った地図の端の方にあるリーシャ村に向かう道に突入することになる。ここからは森の奥と同じくらいの敵が出現するようになるため、ある程度の実力が必要となるだろう。
まぁ、今回はウルカとルヴィアに盛大に暴れてもらおうとは思う。……僕? 巻き添えを喰らわないように離れて支援するよ。
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