第20話 地図と依頼

 そういえば、確かイーリアが言っていたが、ファスタには南門と北門とが存在する。マップによると西と東には門ではなく街から拡張された施設があるようだが、まだプレイヤーは近付けないらしく情報は皆無だ。


 ここから近いのは南門の方だし、なおかつ北門は初心者には向いてないって話だったから取り敢えず南門に向かうつもりだが、その先に何があるのかよく分からない。


 こういう時、外の地図とかあればいいんだけどどうやって手に入れればいいんだろうか?


「……取り敢えず、困ったときはギルドに行くのが早いよな」


 さっき出たばかりなので少し気が引けるものの、その外の様子などが分かりそうなのは冒険者ギルドくらいかと思い、僕らは再び冒険者ギルドの中へと入っていく。


 どうせならどのような依頼があるのか見てみるのもいいだろう。引き受けるにしろ引き受けないにしろ、どういう類のものがあるのか分かっていればギルド以外で頼まれても判断しやすいだろう。


 まずは誰かに聞いてみるのが一番だが、受付の方は依頼を引き受けようとしているプレイヤーたちが多くて時間が掛かりそうなので、それ以外のNPCに聞いてみることにしよう。


 NPCとプレイヤーの見比べ方だが、一旦立ち止まった状態になるとアイコンが表示されるようになるのだが、その際にNPCは頭上に緑色のアイコン、プレイヤーは頭上に青色のアイコンが表示される。因みに依頼などのイベントを発生させるNPCは黄色のアイコンが表示されるらしい。


 なので立ち止まってから見回してみると、どうやら冒険者の中にもNPCが多数存在しているようで、食事処で楽しそうに騒いでいる集団や、掲示板の前に立って依頼を見つめていたりしている男などがNPCだった。


 まぁ、それらのNPCの装備は元から僕らプレイヤーの初期装備とは違うため、わざわざアイコンを見なくても分かるだろう。


 取り敢えず、僕は掲示板の前で依頼を見つめていたNPCの男性冒険者に話しかけることにした。


「あの……」


「ん? どうしたんだい? 見たところ新人のようだが、何か分からない事でもあったのかい?」


「実は街の外の様子を知りたくて、地図とか周辺のモンスターの情報とかを知れたらと思ったのですが、どうやって調べればいいのか分からなくて……」


「ふむ……。一応、そこのギルドショップで周辺の地図や簡単なモンスター情報が記載された冊子などは売ってはいるが、少し値が張るんだよな……」


 そこまで言って男性冒険者は考え込むように唸りだす。


 ギルドショップに売られているようだが、その値段は初心者が買おうとすると他を色々削らないといけない価格らしい。


 僕らの場合、チュートリアル特典でそれなりのお金を貰ってはいるから問題ないのだが、本来の新人冒険者は何人かでお金を出し合ってから、回し読みする形で使うというのが普通のようだ。


「……うん。ここで話しかけてくれたのも、なにかの縁だろう。使い古しでよければ私のものをあげよう」


「えっ、良いんですか?」


「ハハハ。私も長いこと冒険者をやっているからね。流石にこの辺りの地形やモンスターは記憶済みさ」


 そう言って男性冒険者は自慢げに笑みを浮かべる。確かに彼が身に着けている防具は所々に細かい傷がついており、その活動の長さを感じさせるものであった。


「……それに、近いうちに活動拠点を遠くの街に変える予定でね。そうなれば、これらの使い道は無くなるのさ。それなら、わざわざ話しかけてくれた新人に託してみるのも悪くないと思ってね」


 そう告げてから左手で頭を掻く男性冒険者であったが、その時、僕の目にはその左手の薬指にキラリと光るものが見えた。


 成る程。結婚か婚約かは分からないが、この街には居ない伴侶の元に向かうのだろう。納得だ。


 その後、男性冒険者は手元のバッグから『ファスタ近郊の地図』と『初級モンスター解説』と『植物植生図鑑』を取り出し、僕に手渡してくれた。


 地図とモンスターの情報だけかと思ったら、植物系アイテムの群生地などの情報まで貰ってしまった。これらは手に取った瞬間に、マップや図鑑に情報として登録された。


「ありがとうございます。大切に使います」


「ハハハ。むしろ使い潰す勢いで使ってくれよ? まぁ、この辺りの環境は私が新人の頃から全く変わらないから問題はないだろう。頑張りたまえよ」


 そう言い残して、男性冒険者はその場から立ち去っていく。依頼を見ていたようだったが、特に依頼を受けることなく冒険者ギルトを後にした。


 その後、話の腰を折らないよう気を使って黙っていたルヴィアが前に出てきて、依頼掲示板を見つめる。


「のう主殿。ここに書いてあるのが依頼……なのか?」


「うん、その筈だけど。何か気になるのかい?」


「いやなに、妾の全力を出せるだけのモンスターの討伐依頼が見当たらないものかと思ってな」


 キョロキョロ見回しているが、お目当てのものは見当たらないようだ。


 まぁ、SSSSランクドラゴンの全力全開をぶつけるだけの相手がこんな最初の街に居たらそれはそれで恐ろしい気はする。


 取り敢えず、僕もどんな依頼が掲示されているのかを確認しておくか。


「えーっと、僕が受けられるレベルの依頼は『薬草の採集』と『スライムの討伐』……くらいかな?」


 一応、僕もルヴィアもまだレベル1なので、あまり危険そうなものは分不相応だ。取り敢えず、レベル1でも問題なくこなせそうな雰囲気の依頼は多分これくらいだろう。


 難易度とかは特に記載されている訳では無いので、その点は自分で判断する必要がある。まぁ、極端に高いものはプレイヤーレベルやギルドランクで制限されるようだが。


 採集はまずもって見つけられるかどうかが問題だが、さっきもらった植生図鑑の情報で大体の場所は分かるので問題はないだろう。期限も3日と長めなのも安心だ。どうやら、薬草は南門の方から出たエリアならだいたい生えてるようだ。


 スライムの方は、レベル1でも簡単に倒せるモンスターがそれだったという話だ。ただ、ゴーレムとはいえグレーウルフを一撃で倒したルヴィアの実力を考慮すれば、ウルフ系統の討伐でも良かったのかもしれない。でも、基本報酬を見た限りだと結構難易度は高そうなんだよなぁ。


 どうも、ウルフ系統は群れで行動するらしいので、そうなるとドラゴンブレスだけで対処できるかどうか怪しいので、また面倒な話になる。


「なんだそれは。つまらなさそうだな! もっと強そうなやつに挑ませよ!」


「そういうのはレベルが上がってから言うものだよ。取り敢えず、コツコツやっていくしかないんだから。……まぁでも、グレーウルフの討伐くらいならルヴィアならできるか」


「うむ、問題ないぞ!」


 返事がよく分かってなさそうだったが、取り敢えず今回は『薬草の収集』と『スライムの討伐』、そして『3体のグレーウルフの討伐』の依頼を引き受けることにした。


 依頼はギルドで受注したものは5個まで引き受けることができるが、今回は様子見ということで簡単なものを中心に3つ引き受けた。


 NPCから引き受けたものは、期限があるものの場合は依頼扱いとなり、10個まで引き受けることができるが、達成期間が無期限となっているものは依頼ではなく『クエスト』扱いとなるので幾つでも引き受けることが可能となっている。


 クエストは何度でも受けられる訳ではないが、各種機能のチュートリアルになっていたり、アイテムの入手やアビリティの習得などのトリガーとなっていることが多いようだ。


 それらの依頼やクエストは達成条件を満たしていても、ギルドや依頼主に報告するまでは未達成扱いとなるため、ちゃんと報告しないと失敗扱いになるため注意が必要だ。


 これらはメニューの『依頼・クエスト』の項目から詳細や期限などを確認することができる。


 僕は依頼が記載された紙を剥ぎ取ると、そのままギルドの受付の方に歩いていく。相変わらず混んだままなのでしばらく並ぶことになった。


 自分の番になってから受付の女性にクラスカードと依頼書を提出する。今回はイーリアではない別の受付で、おさげがよく似合う若い女性だった。


「いらっしゃい。依頼の受注ですね。確認しますので少しお待ちくださぁい」


 そう言って、目の前の女性は僕が提出したクラスカードと依頼書を確認し、カウンターの向こう側に置いてある分厚い本が幾つか置かれている本棚から3冊ほど取り出す。どうやらそこに依頼の詳細な情報が記載されているらしい。


 その本の中身を読んでから、彼女は僕の方を向き直す。


「確認しましたが、リュートさんは初めての依頼ですね。『薬草の収集』と『スライムの討伐』は全く問題ないと思いますが、流石に『グレーウルフ3体の討伐』は少し荷が重いかと……」


「あら、それなら問題ないわよ」


 受付の女性が案の定『グレーウルフ3体の討伐』に難色を示していると、奥の方から声がする。その声の方向を向けば、イーリアが立っていた。


「あっ、イーリアさん。問題ないとは?」


「その子たち、あのゴーレムの試験でS判定なのよ。だからグレーウルフなら問題ないわ。だから、受理しても大丈夫よセリス」


 ゴーレムの試験とはあのグレーウルフを模したゴーレムを倒したやつか。というかS判定て……結構グダグダだった気がするのだが。


 イーリア曰く、最初は確かに結構もたついていたが最終的にドラゴンとの見事な連携で、あのゴーレムを跡形もなく焼き尽くしたのがその判定になった理由なのだとか。


 それを聞いたセリスと呼ばれた受付の女性は、僕の顔とイーリアの姿を見比べてプルプル震えている。いや、倒したのは僕じゃないんだけどなぁ……。


 取り敢えず、イーリアの助言もあって僕らは無事にこの3つの依頼を引き受けることができた。


 ただ、さっきのイーリアの『S判定』という言葉が周りに聞こえていたようで、近くのプレイヤーも興味がある様子でこちらの方を見ていた。


 うーん、あんまり目立ちたくは無かったんだけどなぁ……。

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