第12話 日常

「あれ?伊坂、お前今日も教室で食わねーのか?」

「ここんとこ毎日だな」

「あ~、悪いな。部室でやりたいことあってさ」


 ある日の昼休み。

 今日は弁当の日だが、オレがオカ研の部室に行こうとすると、クラスメイトに呼び止められた。

 

「ふ~ん・・・まさかお前がそんなに部活にハマるとは思わなかったぜ。なんか、寂しいな」

「ああ。最初は1人で飯食ってたけど、俺らとも食うようになってたのにな・・・妬けちゃうな」

「うるせー。お前らにそんなこと言われてもキモいだけなんだよ!!無理してまで女声出してんじゃねーよ!!」

「だよな。自分で言っててキモくなったわ」

「あ~、喉痛ぇ」

「おいおい大丈夫かよ・・・まあ、お前らと食えないのは悪いと思ってるよ。別に、お前らと飯食うのが嫌になったわけじゃないから」

「そうやって言うとこ、伊坂は本当まじめというか、きっちりしてんな」

「オレらも本気で悪く思ってるわけじゃねーから気にすんな。部活楽しんでこいよ」

「おう」


 つい最近まで1人離れた場所で飯を食うのが当たり前だったオレにとって、白上さんは勿論、バカなことをいいながら一緒に飯を食ってくれたクラスメイトだって恩人だ。

 だから、そんな連中と付き合う時間が減ってしまったのは、地味にオレも寂しいし、悪いとも思う。

 だが、だからと言って黒葉さんを放っておくのも、どうにもモヤモヤする。


「あ、伊坂君。確かオカ研に入ったんだっけ?昼休みも行くなんて、そんなに面白いの?」

「し、白上さん!?」


 教室から出ようとしたら、まさかの白上さんに声を掛けられてしまった。

 こ、これは対応せざるを得ない。

 

「ねぇねぇ!!オカ研って、普段何してるの?私もちょっと興味あったけど、陸上やりたかったそっちにしちゃったんだよね」

「え、えっと・・・最近だと、占いの勉強とか、後はこの街のオカルトな噂の調査とか、かな」

「噂?へぇ~、今、この街で怖い噂とかあるんだ!!どんな噂?」

「え?あ~、そうだな、今だと、魔じょ・・・じゃなくて、なんか不気味な大きい怪物が出るって聞いてるよ」

「大きい怪物・・・?」

「?」


 オカ研の活動のことを聞かれ、先日に黒葉さんが言っていた噂のことを思い出した。

 タロットの勉強もオカ研らしいといえばそうだろうが、話題性があるのはそっちだろう。

 しかし、噂のことを話すと、白上さんは神妙な顔をした。


「伊坂君!!あんまりその噂には、深入りしないほうがいいかもよ?」

「え?」

「今、この街だと・・・あ~、うまく言えないんだけど、とにかく危ないことがあるんだから!!」

「危ないこと?・・・あ、そうか」

「伊坂君?」

「いや、なんでもないよ。でも、わかった。部長にもあんまり調べすぎないように言っておくよ」


 オレに対して、警告するようなことを言ってくる白上さん。

 『はて、どうしてだ?』と思ったが、そういえば、白上さんも『噂』の渦中にいるではないか。

 そして、オレも『噂』にがっつり関わっていると知らない。

 ならば、優しい白上さんならば注意の一つや二つしてくれるだろう。

 まあ、素直に聞いてあげるわけにはいかないのが心苦しいが。


「うん。そうした方がいいよ・・・あ、ごめん!!オカ研に行くとこだったんだよね?邪魔しちゃった」

「いや、大丈夫。気にしないで」

『ねぇ羽衣~!!お昼食べようよ!!』

「わかった!!すぐ行くよ!!・・・そういうわけだから、私は行くね」

「う、うん」


 友達に呼ばれ、去って行く白上さんの背中を見送る。

 黒葉さんには悪いが、白上さんともう少し話していたかったと思いながら、オレも教室を出るのだった。



-----



「あ、伊坂くん!!」

「こんにちは、黒葉さん」


 昼休みになって少し経ってからオカ研の部室に入ると、椅子に座って所在なさげにしていた黒葉さんが笑顔を浮かべる。

 黒葉さんには失礼だが、なんだか飼い主が帰ってきた時の、よく懐いた犬みたいな反応だ。


「今日はちょっと遅かったですね?何かあったんですか?」

「ちょっとクラスの友達に呼び止められちゃってさ」

「そうですか・・・クラスの」


 黒葉さんの笑顔が少し曇る。

 それを疑問に思うが、テーブルの上にある包みを見て、別に気になることができた。


「あれ?黒葉さん、まだお昼食べてなかったの?」

「え?はい。伊坂くんが来てないのに、先に食べてるのは申し訳ないかなって」

「いやいや!!そんなの気にしなくていいのに。遅れるなら先に連絡しとくんだったか」

「伊坂くんこそ気にしなくていいですよ。せっかく伊坂くんが来てくれるのなら、一緒に食べたいですから」

「う、うん・・・」


 特に気負うこともなく言い放たれた台詞に、思わずドキリとする。

 なんというか、色々勘違いしそうになるから。

 っていうか、、オレが好きなのは白上さんだし。


「伊坂くん、今日はお弁当なんですね」

「うん。今日は母さんが時間あったみたいだからさ。黒葉さんは、今日も手作りの弁当なの?毎日すごいね」

「ワタシは一人暮らしですから。夕ご飯や朝ご飯を作るときに一緒におかずを作っておけば、そこまで大変じゃないですよ」

「いや、料理できないオレからすると十分すぎるくらいすごいよ。見た目もきれいだし、女子力高すぎだって」

「そ、そうですか?な、なら、おかず、一つ食べてみますか・・・?」

「え?いいの?あ!!でも、タダでもらうのは悪いし、交換にしよう」

「わかりました。それじゃあ、そこの卵焼きをいただきますね」

「オレはそこの唐揚げをもらうよ・・・・・うん、おいしい」


 2人で持ってきた弁当を広げて食べ始める。

 オレは今日は母さんが作ってくれた弁当だが、黒葉さんは毎日自分で作ってきた弁当を食べている。

 しかも、見た目だってきれいだし、何より美味い。

 昼休みは、オカルト関係の話をすることもあるが、やはりお互いの昼飯の話になることが多いのだ。

 お互いにコミュ障だと思っていたが、オレも黒葉さんも、不思議と会話がスムーズに進んでいた。

 

(なんというか、黒葉さんってかなりハイスペックだよな)


 食べながら、オレはふとそんなことを思った。


(女子力高いし、頭いいし・・・それに)


 料理が上手なのは言わずもがな。

 普段オカ研でタロットのことを教えてもらっている時に思ったのだが、黒葉さんはかなり頭がいい。

 本に書いてある英語の原文を難なく翻訳し、タロットの歴史などもスラスラと説明してくれた。

 他にも、わざわざオレのためにタロットの問題を作ってくれたのだが、それがまたわかりやすい。

 モノを教えるには、教えることを本人がよく理解していなければならないのだから。

 それに、だ。


(・・・よく見ると可愛いし)


 目元まで伸びた前髪と、野暮ったい一つ結びで、ぱっと見は地味だが、よく見えていない目以外の顔のパーツは整っているように見える。

 まあ、オレの前では黒葉さんがなぜか眼鏡をかけていないから、顔を見やすいというのもあるのだろうが。


「い、伊坂くん?ど、どうしました?」

「え?あっ!?ご、ごめん!!えっと、黒葉さんってすごいよなって。料理うまいし、頭もいいし」

「へっ!?そ、そんなことないですよ!!ワタシなんて・・・」

「あ~、あんまりそうやって自分を悪く言わない方がいいよ?嫌みになっちゃうこともあるから」

「う・・・い、伊坂くんがそう言うなら」


 オレが黒葉さんを見ていることに気付いたのか、黒葉さんが恥ずかしそうに声を掛けてきた。

 いかんいかん。オレの見た目で女子をガン見とか犯罪と同義である。

 少し動揺して内心を口に出してしまったが、オレの本心でもあるので、まあいいだろう。

 黒葉さんは普段から気弱だが、これで少しでも自信を付けて欲しいものだ。

 それだけすごいのだから。


(っていうか・・・)


 というか、これだけのスペックがあるのなら、いじめられたりしなくなるのではないだろうか?

 オレがここに来ているのは黒葉さんの安全確保も兼ねているが、黒葉さんの立ち位置が向上して、クラスで友達とかができてくれれば、オレのような悪人面と絡む機会も減るだろう。

 そして、黒葉さんのことをよく知ってもらうなら、いい方法がある。


「ねぇ黒葉さん。せっかくだし、オレ以外にもオカ研に誰か誘ってみれば?」


 黒葉さんの頭の良さや優しいところは、オカ研で話してればわかるはずだ。

 女子力の高さだって、今みたいに昼休みに誰かを誘えば広まっていくだろう。

 白上さんを介してでなければクラスに馴染めなかったオレとは違い、黒葉さんには相応の才能があるのだから、そうすれば友達だってできるはずだ。

 そう、思ったのだが・・・


「・・・え?」

「黒葉さん?」


 黒葉さんが固まっていた。

 オレを見て、『信じられないことを聞いた』とでも言うような顔をしている。


「どうして、そんなことを言うんですか?」

「いや、またあの2人組みたいなヤツらが来たら困るでしょ?今日みたいに、オレがすぐ来れない時もあるだろうし。そんなとき、オレ以外にも部員がいれば・・・」

「・・・伊坂くん。今度から、昼休みに教室を出る時は連絡をくれませんか?」

「え?それはいいけど、なんで?」

「伊坂くんは、ワタシが前みたいな目に遭うようなことが不安なんですよね?なら、これからは確実に伊坂くんと合流できるタイミングでここに来ようと思います」


 なんだか、雲ゆきが怪しくなってきた。

 目元が見えないのに、黒葉さんの目が据わってるような気がする。

 っていうか、そんなことをわざわざしなくてもいいようにしようという話なのだが。


「いや、そんなことしなくてもいいように、他に信じられる人を部員に・・・」

「いません」


 黒葉さんが、身を乗り出してオレを至近距離から見つめる。


「え?」

「ワタシに、伊坂くん以外で信じられる人なんていませんから」

「・・・・・あ」


 オレは、その台詞に何も言えなかった。

 気付いたのだ。オレがどれだけ無神経なことを言ったのか。


(そ、そうだよな。あんな目に遭ったんだ。あの場で助けたオレはともかく、人間不信になってもしょうがないよな)


 考えてみれば当然である。

 オレがオカ研に入ってから、まだ一週間くらいしか経っていないのだ。

 あの事件がトラウマになっていたのなら、癒やすには時間が足りなすぎても不思議ではない。

 いずれは、オレ以外の人とも関わりを持たなければならないだろうが、まだ早すぎるのかもしれない。


「ごめん。オレ、無神経なこと言った」

「・・・いえ、気にしないでください。でも」


 謝るオレに、距離が近いままの黒葉さんは、依然として険しい雰囲気のままで告げる。


「もう二度と、そんなことは言わないでくださいね」

「・・・うん」


 オレは、生返事を返すことしかできなかった。


(なんか、最近似たようなことあったよな・・・ああ、魔女っ子か)


 ほんの一週間前、魔女っ子と同じようなことで一悶着あったのを、オレは思い出す。

 

「・・・・・」

「・・・・・」


 そのまま昼休みは、気まずい感じで過ぎていった。



-----


「あ~、黒葉さん、昼休みのことは・・・」

「あ、謝らないでください!!伊坂くんがワタシを心配して言ってくれたのはわかってますから・・・お昼のことはもう気にしないようにしませんか?」

「ありがとう。そう言ってもらえると助かるよ」


 放課後。

 オレは黒葉さんに連絡を入れてから、南校舎の入り口で合流し、オカ研に来た。

 道中はどうにも昼の気まずさが残って何も言えなかったが、部室に入ったオレは昼休みのことを謝った。

 なにせ、今からしばらくオカ研で部活動なのだ。

 この空気をどうにかするなら、後になるほど辛くなるだろう。

 幸い、黒葉さんも同じように考えてくれているようで、すぐに水に流してくれたのはありがたかった。

 

「コホンッ!それじゃあ、今日の授業を始めますね?」

「うん。お願いするよ、『黒葉先生』」


 まだ少しぎこちない雰囲気が残っているが、普段通りに部活動が、正確にはオレへの授業が始まった。


「うう、その先生呼びは止めてくれませんか?なんか、恐れ多いというか、恥ずかしいです」

「いや、なんか黒葉さんのタロットの話を聞いてたら、『先生』がしっくりきて・・・本当に、どうしても嫌なら、オレも気をつけるけど」

「あ、別にそこまでは。恥ずかしいだけで、嫌ではないので」


 ほんの一週間の間だが、オレはすでに黒葉さんのことを『先生』と認識していた。

 昼休みにも思ったのだが、黒葉さんはモノを教えるのがうまい。

 それに、教えることそのものに熱心なのだ。


「まずは、昨日のおさらいですね。これを解いてみてください」

「わかった」


 黒葉さんから手渡されたのは、タロットに関する問題が書かれたプリントだ。

 手書きではないが、わざわざこんなものまで作ってもらえるとなると、儀式のことがなくてもやる気が出てくる。


(え~と、『問1。『塔』の正位置と逆位置の意味を2個ずつ述べよ』・・・『塔』は、確か大アルカナの中で一番不吉なカードで、正位置も逆位置も悪い意味だったよな)


 オレが答案用紙を埋めていくのを、黒葉さんはじっと見つめていた。

 そんなに見られると解きにくいのだが、まあ頑張るしかないか。

 そうして、オレは問題を解いていく。


「全問中、全問正解ですね!!伊坂くんは優秀な生徒です!!」

「先生の教えがいいからだよ。それに、これだってまだまだ初心者用の内容でしょ?」

「それでも、伊坂くんがタロットの知識をどんどん身につけてるのは事実ですよ。ワタシも嬉しいです!」


 小テストの結果は、全問正解。

 だが、これは本当に初心者向けの内容で、大アルカナの意味を問われただけだ。

 あの女帝の権能を見破って見せた魔女っ子にはほど遠いが、着実に知識が身についているのは確かだろう。

 黒葉さんにそのことを認めてもらうと、オレだって嬉しくなる。


「では、ここのところは大アルカナのことばかり教えてますから・・・そろそろ小アルカナについてお話しましょうか」

「小アルカナ・・・大アルカナに比べると、意味の小さいカードなんだっけ?」

「はい。けれど、小アルカナのカードだって大事なんですよ?大アルカナが物事の本質的な意味を表すのなら、小アルカナはその大アルカナの意味が『どういった感情か?』、『どういった行動になるのか?』といった風に具体的な肉付けをしてくれるんです」


 黒葉さんは、いつかのようにカードをテーブルに並べた。

 だが、あの時とは枚数が大きく違う。


「小アルカナは全部で56枚。四種類の『属性』を表す『スート』と、そのスートごとに1から10までの数札ヌーメラル・カードと、11から14を意味する絵札コート・カードがあります」

「ん?14までなの?10までじゃなくて?」

「はい。小アルカナは1から10までの数字を意味する数札と、トランプでいうジャックに相当する『ナイト』に『クイーン』、『キング』、後はジャックより格下のカードである『ペイジ』の四枚の絵札があるんです。数字で言うと、11がペイジで12がナイト。13がクイーンで、14がキングですね」

「へぇ・・・意外だ。てっきり1から10までしかないかと思ってた」


 オレや魔女っ子、怪異が使う魔法は十種類しかないらしい。

 儀式がタロットと似通っているというのなら、てっきり小アルカナがその十という数字に対応すると思っていたのだが。


「まあ、絵札は数札と別枠と考えられることが多いですから。数札は1から始まって10で完結するとされていて、主に事象を表すと言われています。それに対して絵札は、ペイジが子供、ナイトが若者、クイーンがナイトより年上の女性、キングが壮年の男性と年齢順になっていますが、それによって人間の年齢や立場の段階を表すという解釈があります。なので、実質的に小アルカナの数字は1から10と解釈してもいいかもしれませんよ」

「そうなんだ。事象と人物で実質別カテゴリなのか・・・」


 なるほど、数字そのものは10までしかないという解釈もあって、儀式はそちらを採用しているということか。

 それにしても、黒葉さんはオレが疑問に思っていることへのフォローが的確だ。

 黒葉さんの授業を受けている時にはよくあることなのだが、やっぱり黒葉さんは教師向けだろう。


「先に数札と絵札のことを解説しましたが、属性についても説明しますね」

「うん。属性か・・・」


 なんだかゲームっぽい単語だ。

 いや、オレなんかがよく遊ぶゲームの方がそれらをモチーフにしたのだろうか。


「『スート』は四種類。『ワンド』、『カップ』、『ソード』、『硬貨コイン』ですね。それぞれ、『火』、『水』、『風』、『土』を表します」

「四大元素ってやつ?」

「はい。四大元素はよく漫画やゲームとかのモチーフになってますね」


 やはりゲームでよく目にする要素だからか、これについてはわかりやすい。

 それに、オレは実例だって見たことがある。


(魔女っ子が杖から炎を出すのって、これが理由だったのか)


 魔女っ子は炎の魔法を使うが、それはメインウェポンが杖だからだろう。

 いや、待てよ?


「ねぇ、このスートって小アルカナの話だよね?大アルカナには属性ってないの?」

「大アルカナの属性ですか?一応、そういった要素はありますが・・・う~ん、大アルカナの属性は結構複雑で、解釈次第で色々あるので、『このカードはこの属性だ』って決めるのは少し難しいですね」


 そう言って、困ったような顔をする黒葉さん。

 だが、少し考え込むと、机の上にカードを一枚引っ張り出した。

 それは、オレにとってよく見慣れた一枚。

 

「これは・・・死神のカード?」

「はい。死神なんですが、属性は『水』だって言われてるんですよ?」

「マジで?すごい意外なんだけど!?」


 え?じゃあオレが普段撃ってる黒いヤツは何なんだ?


「死神のカードには、馬に乗った髑髏の騎士と、死んだ王様、これから死ぬ女性と子供。そして、太陽と川と船が描かれていますよね?」

「言われてみれば・・・」


 自分が変身するカードなのに、言われて初めて気がついた。

 大アルカナの意味は一通り習ったが、背景の絵の持つ意味まではまだだったのだ。

 っていうか、そんなところにまで意味があるのが驚きである。


「この中で、太陽と川は物事の始まりや再生を意味します。そして、ここに描かれる川の流れから、死神は水属性だって言われているんです。ワタシとしては、太陽から火属性でもありかなとは思うんですが」

「う~ん、火と水ねぇ」


 そう言われても、しっくりこない。

 オレが使っている魔法は、火や水ではないからだ。

 っていうか、四大元素の土と風にも当てはまっていないように思える。


「ねぇ、黒葉さん。タロットの属性にさ、その、『闇』とか暗黒ってない?」

「闇、ですか?う~ん、聞いたことはないですね」

「だよね・・・」

「ですが・・・」


 そこで、黒葉さんは死神のカードを優しく撫でながら言った。


「タロットには、いろんな解釈があります。だから、闇って属性を使える死神さんがいたって、ワタシはいいと思いますよ?既存の概念を覆すなんて、カッコいいじゃないですか」

「黒葉さん・・・」


 オレはなぜだか、そう言って微笑む黒葉さんの顔をまっすぐ見れなかった。

 気恥ずかしいからというか、こそばゆいからというか。

 けれど、嬉しいのは確かだった。

 なんだか、オレのことをすごいと褒めてくれたような気がしたから。

 黒葉さんがオレが死神だということを知っているはずもないから、気のせいでしかないのだけれど。


「黒葉さん、ありがとう」

「いえいえ」


 オレが目を合わせられないながらもお礼を言うと、黒葉さんは気を悪くした様子もなく、ニッコリと笑いながらそう答えるのだった。


「それでは、他の小アルカナの細かい意味についても説明しますね」

「あ、うん。そうか、小アルカナの話だったもんね」

「はい。小アルカナは大アルカナと違って正位置と逆位置の概念がそこまで厳密じゃなくて・・・」


 そのまま、黒葉さんの講義が続く。

 朝はクラスメイトと下らないことを話し、昼と放課後は黒葉さんと過ごす。

 そんな、オレにとっての最近の日常が、今日も過ぎていくのだった。


-----

あとがき


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