第16話 落第勇者、身近に異能者を見つける②

「…………」

「…………」

『何で黙っている?』


 俺と宮園が何て話せば良いか分からず黙っていると、俺の頭の中で破壊剣が痺れを切らしたのかそんな事を宣う。

 勿論俺も話さないといけないのだが、買い出しで一度遊んだだけで大して仲良くも無く、よりにもよって最悪な所を見られてしまったわけで……。


「…………」

「…………」

「「な、なぁ(ね、ねぇ)! ―――あっ」」

「「さ、先にどうぞ!」」


 ダメだ……どちらもテンパりすぎてタイミングがバッチリ合ってしまう。

 

『はぁ……これが異世界を救った勇者たちか……情けない……』


 それとこれとは違うんだよ。

 それと俺は勇者じゃ無いんでね。

 

 ただ破壊剣の言う通りこのままでは埒が開かないので、ここは歳上である俺が話しかける。


「……それで、一体どう言う事だ? もう見られたから言うけど、どうやって俺の感知から逃れたんだ?」


 宮園の顔が曇り、口をモゴモゴとして言いにくそうにしている。

 いつもクールなら姿しか見ていなかったので、少しその姿は新鮮だ。

 いや一度だけ壊れた宮園を見たな。

 

 俺がそんな結構どうでも良い事を考えていると、宮園がやっと口を開いた。


「わ、私は―――貴方から急に異能の力を感じたから……組織に監視を頼まれて……」

「組織? 監視……?」


 俺は聞き慣れない単語に首を傾げる。

 え、俺って何かの組織に監視されてたの?

 と言うかマジでこの世界にファンタジーな組織があったのか?


『……弛んでいるんじゃないのか我が主』


 そうだな、今その事を切実に感じている所だよ。

 異世界では見られていただけで相手の位置まで気付けたのに、まさか今まで監視されていたことに気付けなかったとは。

 これはそのうち本格的に鍛え直さないといけないかもしれない。


 俺が自分が弛んでいることに愕然としていると、宮園が弁明をしようと口を開いた――

 

「そ、組織って言うのはっ!」

「い、一旦落ち着け……」

「うっ……分かったわ……」


 ―――のだが、あまりにもいつもと違う様子の宮園に少し可哀想になって来たので話をストップさせる。

 とは言え此方も大分頭の整理が出来てなく、時間が欲しかったので丁度いい。


『破壊剣、どう思う?』

『……その破壊剣って言うのやめて欲しいんだが……』

『じゃあ何と言えば?』


 異世界でもずっと破壊剣か相棒としか言っていなかったので、何を言えば良いのか分からない。

 自慢じゃないが、俺にネーミングセンスはカケラもないので、出来ればそのままがいいんだが。


『……カーラで宜しく頼む』

『どこから取ってきたんだ?』

『我の名前はカラドボルグだっ!』


 カラドボルグって……コイツそんな名前だったんだな。

 確か神話では聖剣エクスカリバーの原型だった気が……。

 そう言えば光輝が使っていた聖剣ってエクスカリバーだったよな。


『お前、エクスカリバーの原型なのか?』

『エクスカリバー? ―――ああ、我の下位互換か。あれは我の力を真似した神が危険性を無くして純粋な聖剣にした物だ。あれよりも我の方が強いぞ?』


 俺は帰還してからとんでもない事を知ってしまった。

 俺の使っていた剣が、聖剣よりスペック高かったとは。

 確かに一度光輝に聖剣を見せてもらったことがあるが、正直破壊剣――カーラよりもいい剣だとは思わなかった。

 だが俺的には同等くらいだと思っていたんだが。


 俺が衝撃を受けていると、宮園がやっと平静を取り戻した様で話しかけてきた。


「……まず藍坂君は異能力が何なのか知らなそうだから、それから話すわね」


 そう言って宮園は異能力について話し始めた。


「異能力と言っても、遺伝系と突発系の2つがあるの」


 宮園が指を2本立てる。


「遺伝系は、先祖代々同じ異能力を引き継いでいる者の事ね。そして遺伝系には十数種類程しかない代わりに、とても強力な異能を持っているわ。そして結構な確率で2つ持っている人が多いわね」


 成程……ならあのサイトの奴もこの遺伝系に入るのか。

 だがその人のスキル……この世界では異能だったな。

 その異能―――【探知】はサイトにも書いてあったが【感知】の下位互換だ。

 

 何故かと言うと、感知は解釈によって何でも感知・・出来るが、探知は探す事に特化しているため、感知よりも使い所が少ないためだ。

 感知でも、ものを探したりは全然出来るからな。


 そんな俺の物と同等並の雑魚スキルがこの世界では強いか……何て平和な世界だ。

 それに異能を2つと言うのは、多分異世界転移をした人々は2つスキルが貰えるからじゃないのか?

 俺たちも月野さんは分からないが、それ以外の全員は2つ持っていたし。 

 

「どうしたの? いきなりぼうっとして」

「あ? あ、いや何でもない」


 俺は考えていた事を悟られない様に誤魔化し、話の続きを促す。


「……それでは次に突発系の異能についてね。突発系は今のはや―――藍坂君の様な突然発現する異能のことよ。基本的には、物を持ち上げたり、物を少し軽くしたりするくらいの弱い異能しかないんだけれどね。それと、貴方は幾つか持っていそうだけれど、遺伝系と違って普通は1つしか覚醒しないわ」

「じゃあ俺のこの状態は稀って事か?」


 俺は異世界転移の事は言えないので、取り敢えず異能力という事で話を合わせておく。

 宮園はそんな俺の言葉に頷き、


「ええ。突発系の異能力者が日本には20、30万人くらい居るらしいけれど、その中でも両手で数えるほどね」

「え、30万? そんなに異能力者は多いのか?」

「そうね。近年頻繁に現れる様になっている事もあるのだけれど」


 俺はその数に驚きを隠せず、思わず聴いてしまう。

 しかし宮園の答えは案外あっさりとした物だった。

 

 もしかして驚く俺がおかしいのか?

 

 なんて一瞬思ってしまったが、転移されるまでの17年間で1度も聞いたことがなかったのでそんな事ないだろう。

 

「それで、その沢山いる異能力者を取り締まるのが組織って事か?」

「その通りよ。組織は異能力者がその力を使って犯罪を起こさない様にするのと、偶に次元を超えてやってくる生き物を退治する2つの役割があるわ」


 …………めちゃくちゃ関わりたく無かったな……。


『もう遅い。諦めるのだな我が主』


 俺は頭の中でそう言われてガックリと肩を落とすのであった。

 勿論宮園には何も聞こえていないので不思議そうな顔をしていたが。 

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