第1章 落第勇者の帰還
第1話 落第勇者、帰還する
―――意識が覚醒する。
俺は目をゆっくりと開き、ベッドから体を起こす。
そして直ぐに辺りを確認する。
どうやら此処は転移された時にいた教室でも、自分の部屋でもなく、病院の病室のようだ。
その証拠に俺の腕には点滴の針がささっており、よくドラマで見るような病衣を身に纏っていた。
「…………戻って、来たのか……?」
俺はふらつきながらもベッドから離れて窓に移動すると、外の景色を見る。
外には記憶に微かにある10年ぶりの懐かしい景色が広がっていた。
ああ……確かにこの景色は見覚えがある……懐かしいなぁ。
俺がしばしこの景色に釘付けになっていると、突然病室のドアが開き、俺が異世界で何度も会いたいと願ってやまなかった人達が入ってくる。
それは俺の両親と妹だ。
3人とも急いできたのか息も上がっていたし、薄っすらと汗もかいているようだった。
俺はそんな3人に涙が溢れるのを我慢しながら笑みを浮かべて手を軽く上げる。
「久し振り――皆」
「目が覚めたのね……本当に良かったわ……」
母さんが目に涙を浮かべて俺に抱きつきながらそう言ってくる。
俺はそんな母さんをゆっくりと抱きしめ返す。
そんな俺達を見て我慢できなかったのか、母さんと同じくぽろぽろと涙を流していた妹の
「おにぃ……心配したんだからね……」
「ごめんって。ただもう大丈夫だから」
「……ほんと?」
涙で濡れた顔を向けてくる遥に俺は大きく頷く。
「ああ。もう俺は大丈夫だ」
「……ならいい」
そう言った遥は俺の胸に顔を埋めた。
今日はどうやら甘えたい日らしい。
相変わらず可愛い妹だ。
俺は遥の頭を優しく撫でながら、未だ病室の扉の前に立っている父さんに目を向ける。
そこには一度も泣いたところを見たことのなかった父さんが、優しい顔して泣いていた。
「父さんも仕事忙しいはずなのに来てくれてありがとう」
「当たり……前だ……お前は俺達の大切な家族だからな」
ゆっくりと近付いていた父さんが俺の頭を優しく撫でてくれる。
まるで俺の10年の努力を褒めてくれるかの様に。
ああ……本当に俺は帰ってきたんだな……。
段々と視界が滲んでいく。
俺はとうとう涙を堪えることが出来なくなっていた。
俺は10年ぶりに会えた家族の温もりに触れて静かに涙を流した。
あれからどれくらい経っただろうか?
流石にこのまま話すのは少々恥ずかしかったからだ。
「……あのさ、そろそろ離してくれない?」
俺は手を離したのに一向に抱きしめる手の力を緩めない2人に言う。
しかし2人はまだ離れたくないのか更に力を入れてきた。
「ちょ、2人とも」
「嫌だ。後1時間はこうしてるの。だっておにぃは私達に散々心配かけたからね」
「そうね。だってこうしてお話できるのも1ヶ月ぶりなんだから」
「そうだな、1ヶ月ぶり―――え?」
………………1ヶ月?
「1ヶ月……だと……?」
「そうだよおにぃ。おにぃは1ヶ月もずっと寝たきりだったんだよ! だからまだ離さない!」
そんな可愛い事を言う妹の言葉に懐かしく思うとともに、激しく動揺する。
そんな馬鹿な……
俺は10年間も彼方の異世界に居たんだぞ……?
分からない……残りの9年11ヶ月はどこに行ったんだ?
頭が「何故」の言葉で埋め尽くされる。
確かに俺はあの地獄のような異世界で10年間過ごしていたはずだ。
しっかりと記憶もある。
「一体どうなっているんだ……?」
本当に訳の分からないことだらけで混乱するが、確かに3人とも俺の
本当に10年後なら、父さんも母さんも老けているだろうし、遥は立派な美人な大人になっているはずだ。
「……もしかして本当に1ヶ月しか経っていないのか?」
「まぁ隼人は寝てたし時間感覚はずれていると思うけど、ちゃんと1ヶ月よ?」
母さんが心配そうに言ってくる。
母さんは嘘はつかない人だ。
と言うより嘘を付いている時は顔と行動に出まくっているため皆にすぐにバレる。
しかしそんな母さんから嘘を付いている感じはしない。
どうやら俺は本当に転移して1ヶ月後に帰還した様だ。
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