プロローグ③ 異世界との別れ
あれから俺や師匠のみならず、他の冒険者も参戦したことで、数万以上いた魔王軍も既に半分くらいまで減っていた。
俺もそこそこ頑張った。
まぁ本気ではないけど。
しかしそれは他の冒険者達も一緒だ。
と言うのも、魔王軍のモンスター達は、3分の2がパトリシアさんと元剣神さんに狩り尽くされた。
お陰であの2人がモンスターに近づいたら向こうが逃げ出すほどだ。
「相変わらず凄いですね、パトリシアさん」
「……そうだな。ま、まぁ俺は1対多数はあまり得意じゃないし、広範囲攻撃なんてないからそこまで倒せてないだけだ。決してパトリシアの方が強いわけじゃないからな」
俺が純粋にパトリシアさんを褒めると、師匠は言い訳を並べ出した。
こう言う所が子供っぽいんだよな。
実力は随一なのに……全く勿体無い。
「本当に勿体無い……」
「あ? なんか言ったか?」
「いえ、何も。あ、来てますよ。そりゃ」
師匠に近寄ってきたデュラハンを一瞬の内に剣をざっと10回ほど振って消し飛ばす。
俺は師匠を助けようとしたのだが、余計だったかもしれない。
「何余計なことをしてくれてんだ弟子。これくらいの奴に俺がやられるわけないだろうが!」
師匠はそう言って1度腕を振ると、その風圧だけで屈強なオーガたちが吹き飛ばされていく。
そして俺に守られたのが気に入らないのか、俺の周りにいるモンスターを優先して駆逐してゆくのだが、そのスピードが桁違いだ。
1秒の間に10体くらいは余裕で倒している。
流石に俺じゃ、8割くらい本気を出さないとああは行かない。
もう中年なのに頑張るよな。
「弟子、お前も手伝え! サボることは俺が許さないぞ!」
師匠が俺の周りのモンスターを駆逐した癖に理不尽なことを言うよな。
まぁ言った所で「なら俺より早く倒せば良い」なんて言われてしまうのが落ちだ。
しかし俺もお金の為に頑張らないといけない。
「【身体強化:Ⅴ】」
俺は自身のスキルの力を解放。
その瞬間に体がミシッと言う音を立て―――心臓のあたりの皮膚から赤い雷紋の様な亀裂が浮かび上がってくると首の辺りまで侵食していく。
更に髪が少し舞い、目も淡い銀色へと変化する。
どうやら俺の【身体強化】は――と言うよりも俺の身体能力が勇者スペックのため、普通の人よりも身体強化の度合いが異なるらしく、こうして普通の身体強化では見られない変化が体に現れる。
ただその分膨大な出力に体が耐えきれない。
そこで俺は身体強化を11段階に分けることにした。
そうすることで体の負担を抑えているのだ。
ふぅ……相変わらず痛い。
でもそろそろ俺もやらないとお金を貰え無くなってしまうし、師匠にどやされそうだからこの痛みは我慢しないとな。
俺は腹をくくって近くに―――と言っても1km以上も先だが―――いた15体程のトロールの小隊に突っ込む。
『な"、何者だ!?』
トロールの中で一際大きいトロールが俺の接近に気付いて声を上げるが―――ごめんな? それには応えている時間はないんだ。
後ろで師匠がキレてるからさ。
「―――ごめん」
俺は、相棒である魔剣―――破壊剣を振り下ろす。
その瞬間にトロールの再生能力などお構いなしとばかりに真っ二つになり、消し飛んだ。
「グルぁ!? ウガウガ!?」
いきなりリーダーを失ったトロールたちは混乱状態になるが、俺は好機とばかりに剣を振るっていく。
1体、2体とどんどん数が減っていき、僅か10数秒でトロールの小隊は全滅した。
俺は剣についた血を飛ばして鞘に剣を戻そうとするが、それよりも早く何体もの狼型のモンスターの上位種―――『グレーターウルフ』が牙を剥いて襲いかかってきた。
グレーターウルフは、群れで狩りをし、凄まじい統率力で格上相手にも互角で戦う恐ろしいモンスターだ。
更には鋭い牙は魔鉄すらも弾くほど固くて鎧も余裕で貫くし、何より森の中で狩りをする生き物なので立体的な機動力を持っている。
このモンスターは一体ではB級程度だが、群れとなると一気にA級、はたまたS級にまで届くことがある。
俺は咄嗟に破壊剣で防御し、腹を思いっ切り蹴飛ばす。
「キャン!?」
「声だけは可愛いんだよな―――コイツ!」
吹き飛ぶグレーターウルフに向かって斬撃を飛ばし、胴体を真っ二つにする。
しかしまだ何体も居るため休むことなど出来ない。
俺は【感知】で相手の動きを感知して避けながら反撃していく。
しかし一向に減る気配がない。
「―――チッ……いきなり押し寄せてくるなよな」
今まで統率の取れていた魔王軍のモンスターたちが、突然意思を失ったかの様に半狂乱になりながら特攻して来ていた。
その証拠にグレーターウルフは他の個体に見向きもせずに好き勝手攻撃してくる。
そしてそれはここだけではない様で、師匠の所は勿論、パトリシアさんや剣神さん、他の冒険者の元にも押し寄せている。
どうやら魔王がそろそろヤバいみたいだな……じゃないとこんな状態になるのはおかしいし。
このモンスター達は魔王がコントロールしているので、そのコントロールから外れたのだろう。
俺は剣で攻撃を受け流し、時には反撃をして対応する。
「早く倒してくんねぇかな、光輝っ!」
俺は魔王と対峙している光輝に届くことのない注文をする。
正直言ってこの状態はヤバい。
俺は範囲攻撃なんて持ってないからどうしても取り零しが出てくるので、そいつらが外壁を攻撃してしまうのだ。
俺は必死に剣を振るって敵を薙ぎ倒していく。
それでもまだ終わりが見えない。
俺がもう1段階奥の手を使おうかと思っていた時、突然モンスターの動きが止まり、何もしていないのに光となって消えていくではないか。
一見不思議な現象だが、俺はすぐに原因に気がついた。
「…………やっとやりやがったか……光輝……。遅かったな……」
光輝たち勇者が遂に魔王を倒したのだ。
その証拠にモンスターが消えている他に俺の足元に1度だけ見たことのある魔法陣が出現した。
―――そう、何を隠そう俺たちをこの世界へと連れて来た異世界転移陣だ。
「おーい弟子! 大丈夫―――って何だそれは!?」
俺の元に駆け寄って来た師匠が転移陣をみて驚くが、俺のことは予め言っていたので、直ぐに落ち着きを取り戻した。
「……遂にお前もお役御免ってか?」
「そうみたいですね。まぁ元々帰りたかったので異論はないんですけど、もう少し事前に言って欲しかったのは有りますね」
俺は肩をすくませてそう言う。
「まぁそれは俺も最初に聞いていたから何も言わんが……元気でいろよ」
師匠が恥ずかしそうに頭をガシガシ掻きながら言ってくる。
流石ツンデレおじさん。デレもちゃんと入っていて完璧です。
「師匠こそ、早くパトリシアさんに告白して下さいよ。俺は帰る前に見たかったです。2人が腕組んでるのとか」
「それはお前が俺をおちょくりたいだけだろ!」
「そんなことはありませんよ」
まぁ半分は。
そうそう、師匠はパトリシアさんに惚れているくせに、何やかんや言って告白をしていなかったのだ。
振られるのが怖いと言う意外とヘタレな理由で。
そんな何でもないことを師匠と話していると、そろそろ時間がやって来た。
「俺がいなくなったら絶対に告白して下さいよ。師匠はそろそろ幸せにならないと」
「…………わぁったよ。覚悟を決める」
その言葉通り、キリッとした表情になる師匠。
「ならよしです。―――では少し軽いですが、さよなら! そして、俺を弟子にしてくれてありがとうございました!」
俺は師匠に深くお辞儀をしてから眩い光に包まれて意識を失った。
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