君との距離は、ほど遠く。
咲翔
夢に見るほど君が好き。
そんな僕のまっすぐな気持ちを、君に伝えられたらどんなにいいだろう。
だけど、それこそ夢のような話。
現実は思ったより残酷なんだ。
*
高校生である僕は、当たり前だけど毎日のように学校へ行って、授業を受けて、部活をして、帰って寝る。そんな生活を繰り返している。
今は、朝のホームルーム前の時間。次々とクラスメイトが登校してくる。僕は教室では到着が早いほう。大体の人は、遅刻ギリギリに滑り込んでくる。
そんなギリギリ勢の中に、君はいるんだ。
「おはよう」
明るい君は、教室のドアを開けてから自分の席へ着くまでの間、近隣のクラスメイト全員に向けて挨拶してるよね。
「おはよう」
「あ、おはよー!」
「おはよ!」
多くは君の笑顔とその声に、また笑顔で応える。だけど、中にはイヤホンをしていて君の声が届いていない相手もいる。だけど、君は挨拶を無視されても、めげずに次の友達へと声を掛けているんだよね。
僕も、君の席の近くだから、当然のように挨拶をされる。
「おはよう、小城木くん」
君が、僕の名を呼ぶ。
「おはよう」
胸の中のドキドキを悟られないように、自然を装って挨拶を返す。
わあ、今日も挨拶だけだけど、言葉を交わすことができた。
君のその声で、僕の名前を呼んでくれた。
嬉しい。
……それだけで済めば、いいけど。
僕は、もう一つの事実にも気づいてしまう。
君は、僕のことをただのクラスメイトとしか、見ていない。
素直に君からの挨拶を、喜べない僕がいる。
*
たまに、夢を見る。
決まって、僕視点で展開されていくんだ。
君が、僕のことを好いてくれているという、至福の夢の世界。
「ねぇ、実は私、小城木くんのこと……」
白い頬を赤らめて、うつむきがちに言う君を、僕はボーっとしたような目で見ている。
「ずっと、好き、だったんだよね」
こんなにストレートな告白を、僕に。
「小城木くんは、私のこと、どう思って…・・ますか?」
たどたどしく恋情を言葉にしていく夢の中の君は、本当に愛おしくて。
本当に抱きしめたくなって、無意識に腕を動かしたら掴んだのは布団だったとか。
よくあることだ。
君からの告白、僕はすごくうれしくなっている。ここまでストーリーは綴られているのに、一向に僕は返事をできないで終わる。ちょうど目が覚めてしまうんだ。
幾たびも見る夢。
この夢を見るたびに、これが予知夢でありますようにと願うのだが、まだ現実になったためしはない。
*
「で、それでさー」
「きゃはははは」
女子友達と仲良く会話する君を、僕は教科書を読むふりしながら。
「知ってる?実は弓川先生って……」
「えー!そうなのー!?」
時折ちらちらと盗み見る。
制服のスカートから伸びた白い足。窓から差し込む陽の光を受けて煌めくロングの髪。授業の時だけ君がかけている、金縁の丸い眼鏡。
君に優しく触れたいと思ってしまう僕は、やっぱり育ちざかりの男子高校生なんだろう。
さっきから君を見すぎて、教科書の内容が全然入ってこないよ。
どうして君は、こんなに眩しいんだよ。
僕の成績が落ちたら、君のせいだからね。
こうやって、冗談でも言い合ってみたいけど。
そんなに君に近づくなんて、僕には無理だよ。
*
昨夜もまた、君の夢を見た。
同じような、君からの告白の夢。
妄想だってわかってる。僕が君を想いすぎるあまり、僕の脳みその中に君が焼き付いて離れなくて、それが睡眠中もフラッシュバックしてしまうんだ。
好きだ。
好きなんだよ。
たったこれだけの言葉を言う勇気がない。
もしも神様がいるのなら、僕に勇気をくれないかなぁなんて想像して、一人笑う。
いや、でも。
もしも神様がいるのなら、やっぱり僕はこう願うのかな。
「あの夢が、予知夢になりますように」
*
「おはよう」
近くで待ち焦がれた声が聞こえた。
目をむけると、君がいる。
「おはよう、小城木くん」
伝えられない、想い。
聞けない、君の気持ち。
クラスメイトとして僕を見ている、それがわかってしまう君の瞳。
それでも僕は、朝の輝きに応える。
「おはよう、舞鶴さん」
近いようで遠い、僕と君の距離は、きっと縮まることはないのだろう。
でも僕は、願ってしまう。
「あの夢が、予知夢になりますように」
それから、
「あと、もう一言だけ、君と多く話せたりしないかな」なんて。
また、新しい一日が始まる。
(了)
君との距離は、ほど遠く。 咲翔 @sakigake-m
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