君との距離は、ほど遠く。

咲翔

 

 夢に見るほど君が好き。


 そんな僕のまっすぐな気持ちを、君に伝えられたらどんなにいいだろう。


 だけど、それこそ夢のような話。


 現実は思ったより残酷なんだ。



 高校生である僕は、当たり前だけど毎日のように学校へ行って、授業を受けて、部活をして、帰って寝る。そんな生活を繰り返している。

 

 今は、朝のホームルーム前の時間。次々とクラスメイトが登校してくる。僕は教室では到着が早いほう。大体の人は、遅刻ギリギリに滑り込んでくる。


 そんなギリギリ勢の中に、君はいるんだ。


「おはよう」


 明るい君は、教室のドアを開けてから自分の席へ着くまでの間、近隣のクラスメイト全員に向けて挨拶してるよね。


「おはよう」

「あ、おはよー!」

「おはよ!」


 多くは君の笑顔とその声に、また笑顔で応える。だけど、中にはイヤホンをしていて君の声が届いていない相手もいる。だけど、君は挨拶を無視されても、めげずに次の友達へと声を掛けているんだよね。


 僕も、君の席の近くだから、当然のように挨拶をされる。


「おはよう、小城木くん」


 君が、僕の名を呼ぶ。


「おはよう」


 胸の中のドキドキを悟られないように、自然を装って挨拶を返す。


 わあ、今日も挨拶だけだけど、言葉を交わすことができた。

 君のその声で、僕の名前を呼んでくれた。

 

 嬉しい。


 ……それだけで済めば、いいけど。

 僕は、もう一つの事実にも気づいてしまう。

 君は、僕のことをただのクラスメイトとしか、見ていない。


 素直に君からの挨拶を、喜べない僕がいる。



 たまに、夢を見る。


 決まって、僕視点で展開されていくんだ。


 君が、僕のことを好いてくれているという、至福の夢の世界。


「ねぇ、実は私、小城木くんのこと……」


 白い頬を赤らめて、うつむきがちに言う君を、僕はボーっとしたような目で見ている。


「ずっと、好き、だったんだよね」


 こんなにストレートな告白を、僕に。


「小城木くんは、私のこと、どう思って…・・ますか?」


 たどたどしく恋情を言葉にしていく夢の中の君は、本当に愛おしくて。

 本当に抱きしめたくなって、無意識に腕を動かしたら掴んだのは布団だったとか。


 よくあることだ。


 君からの告白、僕はすごくうれしくなっている。ここまでストーリーは綴られているのに、一向に僕は返事をできないで終わる。ちょうど目が覚めてしまうんだ。


 幾たびも見る夢。


 この夢を見るたびに、これが予知夢でありますようにと願うのだが、まだ現実になったためしはない。



「で、それでさー」

「きゃはははは」


 女子友達と仲良く会話する君を、僕は教科書を読むふりしながら。


「知ってる?実は弓川先生って……」

「えー!そうなのー!?」


 時折ちらちらと盗み見る。


 制服のスカートから伸びた白い足。窓から差し込む陽の光を受けて煌めくロングの髪。授業の時だけ君がかけている、金縁の丸い眼鏡。


 君に優しく触れたいと思ってしまう僕は、やっぱり育ちざかりの男子高校生なんだろう。


 さっきから君を見すぎて、教科書の内容が全然入ってこないよ。

 どうして君は、こんなに眩しいんだよ。

 僕の成績が落ちたら、君のせいだからね。


 こうやって、冗談でも言い合ってみたいけど。

 そんなに君に近づくなんて、僕には無理だよ。



 昨夜もまた、君の夢を見た。


 同じような、君からの告白の夢。


 妄想だってわかってる。僕が君を想いすぎるあまり、僕の脳みその中に君が焼き付いて離れなくて、それが睡眠中もフラッシュバックしてしまうんだ。


 好きだ。


 好きなんだよ。


 たったこれだけの言葉を言う勇気がない。


 もしも神様がいるのなら、僕に勇気をくれないかなぁなんて想像して、一人笑う。


 いや、でも。


 もしも神様がいるのなら、やっぱり僕はこう願うのかな。

「あの夢が、予知夢になりますように」



 「おはよう」


 近くで待ち焦がれた声が聞こえた。


 目をむけると、君がいる。


「おはよう、小城木くん」


 伝えられない、想い。


 聞けない、君の気持ち。


 クラスメイトとして僕を見ている、それがわかってしまう君の瞳。


 それでも僕は、朝の輝きに応える。


「おはよう、舞鶴さん」


 近いようで遠い、僕と君の距離は、きっと縮まることはないのだろう。



 でも僕は、願ってしまう。


「あの夢が、予知夢になりますように」


 それから、


「あと、もう一言だけ、君と多く話せたりしないかな」なんて。



 また、新しい一日が始まる。


(了)

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君との距離は、ほど遠く。 咲翔 @sakigake-m

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