ポイ捨てする輩に代わってゴミ拾いしたら、地球の精霊を自称する美少女が恩返しにやってきた。
そらどり
地球の精霊の恩返し
学校からの帰り道。何やら騒がしいと思ってその先を視線を向けると、道端でたむろする悪ガキが三人いた。制服を見るに、同じ学校の生徒だろうか。
それはまあいいとして……輩の周囲にはお菓子のゴミ、ゴミ、ゴミ。どれも近くのコンビニで購入したものみたいだが、子供部屋かよと言ってやりたいくらいに包装だけがポイ捨てされていた。
「先週のア○パンマン観た? 三週間ぶり一二回目の神回だったわ」
「おー観た観た。戦闘シーンが神すぎて思わずバ○キンマンを応援しちゃったぜ」
「てかア○パンマンって正義の味方のくせして毎回顔交換したら全快するのセコイよな。バ〇キンマンは回復手段ない中でベスト尽くしてるってのによ」
……会話の内容はちょっと幼稚だが、それなりに盛り上がっているようで。通行人から嫌悪に満ちた目で見られているにもかかわらず、全く意に介していない様子だった。
「あ、てか今日って『hu〇u』でラインナップ更新される日じゃん。帰って過去エピ視聴しねえと」
「確かバ〇キンマンの過去編やるっつってたよな?」
「マジかよ。神回確定じゃねえか」
だが、そのうちの一人が思い出したように話を遮ると、他の二人も続いて話題を切り上げる。慌てた様子で立ち上がると、そのままゴミを残してその場を去って行った。
(マジかアイツら。何の躊躇いもなくポイ捨てして行きやがった)
少しくらい罪悪感を覚えてもいいだろうに。ここまで自分勝手すぎる輩を見たのは生まれて初めてなんじゃないかと、しばし呆気に取られてしまった。
しかしすぐに我に返ると、今度は苛立ちを覚えてしまう。別に正義感に駆られているつもりはないが、まあ、普段通る道を悪ガキに荒らされるというのは良い気がしない。
「……まあ、たまには良いことでもしてみますかね」
他人の仕事を押し付けられた気分だが、ボランティア活動だと思えばなんだか悪い気はしない。
前向きにそう捉えながら、俺はポイ捨てした輩に代わって仕方なくゴミを拾ってあげた。
◇◇◇
善因善果というのはどうやら本当らしい。
翌日、いつも通り下校しようとした俺に話しかけてきたのは、なんと、学校一の聖母と噂される美少女―――
「キミが
「まりあ先輩!? お、俺はいいっすけど……」
「よかった。じゃあここで話すのもアレだから、人気のない場所にでも行こっか」
「う、うす」
緊張のあまり体育会系みたいな返事をしてしまうが、それでも先輩は小さく微笑んで流してくれた。
この世の全てを包み込んでくれそうな、まさしく聖母のように麗しい美少女。男子からの人気も凄まじく引く手数多だろうに、まさか平凡な俺が興味を持ってもらえてるなんて……
(も、もしかして告白されるとか? って流石にそれはないだろ。……いやでもワンチャンあるんじゃ……?)
浮かれながらも先輩の後を付いていく俺だったが、気づけば校舎裏に到着していたようで。足を止めると、先輩はクルッとこちらに振り返る。
「ここなら……誰もいないよね?」
「そ、うですね」
余裕な笑みを見せる反面、どことなく頬が赤い先輩を前にして、思わず心臓が強く高鳴る。心なしか、いつもより体が熱くなっていく気がした。
しばしの静寂。だが、ついに意を決したらしく、先輩は真っ直ぐな目で俺を見た。
「優斗くん。よかったら……わたしと付き合ってもらえないかな?」
「え!?」
こうなることを期待していなかったわけじゃない、が、まさか本当に告白されるとは……あまりに衝撃的過ぎて開いた口が塞がらない。
「その、めちゃくちゃ嬉しいんすけど……本当に俺でいいんですか? 今まで話したことないですし、ぶっちゃけ好意を持たれてるなんて思ってもみなかったので」
「そんなことない。わたしはちゃんと優斗くんのこと知ってるよ。だって昨日の放課後、道端にポイ捨てされたゴミを拾ってたのはキミでしょう?」
「見てたんですかアレ……」
「うん、ちゃんと見てた。他の通行人は見て見ぬふりして立ち去っていくのに、キミだけが立ち止まってゴミ拾いをしてくれてた。……キミが優しい人だから惹かれたんだよ」
「せ、先輩……」
ゴミ拾いをしたのは、自分が日常的に使っている道を汚されるのが嫌だったからであって、誰かのために献身的に取り組んだわけではない。気分次第では自分も他の通行人と同じように見て見ぬフリをしていたかもしれない。
だからその始終を先輩に見られ、あまつさえ好意を抱かれたというのは思ってもみなかった幸運だ。正直、めちゃくちゃ嬉しい。
(良いことして本当に良かったぁ)
余韻に浸り一人浮かれていた俺に、先輩は釘を刺すように口を挟む。
「あ、でも一つだけ伝えておきたいことがあるの」
「なんですか? まさか告白ドッキリだったってオチ? まあそうですよね……俺と先輩じゃあまりに不釣り合いですし……」
「違うよ! 優斗くん卑屈すぎ!」
「え、じゃあ結婚詐欺みたいに交際費をひたすら貢がせて儲けようって魂胆ですか?」
「そうじゃなくって! ……わたし、付き合う相手に嘘はつきたくないの。だからわたしの秘密を知っておいてほしいんだ」
「秘密、ですか」
「うん。誰にも言ったことないわたしだけの秘密。でも優斗くんなら守ってくれるって信じてるから」
先輩は真剣な眼差しで俺を捉えてくる。恐らく、いや確実に大事な話なのだと直感した。
学校中の男女問わず人気を博し、聖母と称されるまりあ先輩だが、そんな彼女にも秘密があるらしい。
誰にも言ったことのない秘密とは何だろうか? まさか本当は男で、ある事情で女装してるとか? いやでも、目の前にいる先輩の容姿がまがい物とは到底思えないし、近くにいるとフェミニンな匂いにあてられて頭がクラクラするし。……まあ仮に女装してたとしても俺はどんな先輩でも愛してやる所存だが。
あの先輩と付き合えるのだから、どんな秘密だろうと受け入れる覚悟はできている―――
「実はね、わたし……地球の精霊なの」
「……は?」
おもむろに告げられた正体に目が点になる俺。
あ、あれ? 今、学校一の聖母であるまりあ先輩の口から、先輩らしからぬ台詞が出てきたような……もしや先輩なりのジョーク?
「わたし、地球の精霊的存在なの」
「あ、はい」
結構ガチめなトーンで再び告げられた。どうやら大マジらしい。
(じゃあ信じるか―――とはならないんだよなぁ。え、もしかして先輩って中二病だったの? 実はかなり残念な人だったってこと? うわぁマジかよ……)
ずっと先輩に抱いてきた聖母としての偶像が崩れていく。まさか、まりあ先輩が高校生にもなって中二病を拗らせている残念美少女だったなんて……
「ね、ねえ優斗くん? 心なしかドン引きされているような気がするんだけど……」
「あ、ああいや、ドン引きだなんて全然。俺ぁそういう方面にもちゃんと理解ある方なんで。そっかそっか、先輩はスピリチュアルな存在だったんすね~」
「キミさっきと態度違くない!?」
なんだかすごく驚かれてしまった。いや、確かにどんな秘密でも受け入れてやろうという所存でしたよ? でもこれは流石に……今まで通りに敬えなんて無理ですよ先輩……
後輩のそんな態度を見て先輩はあからさまに落ち込んでしまうが、こちらとて限度というものがある。場を和ますためのちょっとした冗談程度なら気軽に乗っかってやれるが、割とガチめなやつだとどう反応してやればいいか困ってしまう。今回の場合、それが後者に当たるというだけの話だ。
先輩には悪いが、少しは自分が痛い奴だということを自覚してもらった方が今後のためになるだろう。
「そう、信じてくれないのね……」
「いやまあ俺だって信じてあげたいんですよ? でもあまりに発想がぶっ飛んでるというか、高校生にもなってそういう思考は卒業した方がいいというか」
「そう……だったらもういい。もう泣くから」
「え?」
だが予想に反して、先輩は訳の分からないことを言いだした。
困惑する俺を差し置き、先輩はその瞳を潤わせ……次の瞬間、俺は信じられない光景を目の当たりにした。
快晴だったはずの青空が雲に覆われたかと思うと、小粒の雫が肌に当たる。それを指で掬い取って水滴を確認すると同時、まるで滝のように大粒の雨が降り注ぎ始めた。
「な、なんで急に!? 今日って快晴の予報だったろ!?」
ゲリラ豪雨を疑うが、今は冬、どうあがいても季節にそぐわない。他に原因を探るも、それらしい理由は見当たらない。というか、こんな短期間でいきなり気候が変わるなんて異常も異常だ。
となれば……思い当たるのは一つしかなかった。
「先輩、この異常気象の原因ってもしかして……」
「だっで優斗ぐんが信じでぐれないがらぁぁぁ~~~!」
「うおっ!?」
先輩が号泣した瞬間、雨脚が一層強まった。いや絶対これが原因だぁぁ―――ッ!
「ちょっ、泣き止んでくださいよ。このままじゃ風邪ひきますって」
「信じでぐれなぎゃやだぁぁぁ~~~!」
「いや、おもちゃ買って貰えなくて駄々こねる子供じゃないんですから……」
「うわああぁあぁぁああぁんん~~~!」
「あぁもう……分かりました! 信じます! 信じてあげますから、もう泣き止んでください!」
「あ、ほんと?」
「おい」
観念した途端、一転して先輩の顔は花咲くように明るくなった。チクショウ、嘘泣きだったのか。思わずタメ口でツッコんじゃったよ。
轟々と降っていた雨はどこへやら。今や黒雲は地平線の彼方に追いやられ、青空には綺麗な虹がかかっていた。
「よかったぁ。これで信じてもらえなかったら、次は雷でも落としてやろうかと思ってたから」
「何サラッと恐ろしいこと言ってんすか。信じますから、そんな軽いノリで天罰下そうとしないでくださいよ」
「ごめんごめん。でも、これで万事解決だね。あ、もちろん秘密を誰かに話したら―――」
「いいい言いませんよ! 分かってますから! 絶対誰にも漏らしませんから!」
「よろしい。じゃ、今日からよろしくね?」
「……うす」
気軽にラグナロク起こせる相手と付き合うとか、絶対ヤバい結果にしかならないと思う。俺ゴミ拾いしただけだよ? なのになんで地球の命運を握ることになってんだよ? 責任が重すぎるだろ……
とにかく機嫌を損ねる真似をしないようにしなければ、と肝に銘じる俺なのであった。
◇◇◇
先輩と付き合うことになったわけだが、結論から言おう。命がいくつあっても足りない。
週末にデートに行く約束をしたので、俺達は遊園地を訪れて遊んでいたのだが、
「ちょっと先輩! 座ってるだけじゃ退屈だからって強風起こさないでくださいよ! 観覧車壊れるから!」
「アハハ! スリルがあって楽しいでしょ?」
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬッ!!」
ジェットコースターやら開催中の謎解き迷路やらに人気を取られて静まり返っていた観覧車に乗りたいと言い出した時は想像もできなかった。
まさか台風レベルの強風を起こされるとは。ブランコみたいに揺れるせいでさっきから至るところがミシミシ軋んでるし、このままじゃ乗ってるこのゴンドラごと墜落してしまう。
「せ、先輩! さっきから外のフレームが軋んでますし、そろそろやめた方がいいと思いますよ!」
「大丈夫だよ。壊れないようにちゃんと手加減してるし」
「いやだからそういう問題じゃ―――」
「あ、もう少しで観覧車終わっちゃうね。じゃあラストスパートも兼ねてもう少し強くしよっか!」
「先輩ちょっと待ぁああああああああ―――ッ!!?」
ジェットコースターからより観覧車からの方が遥かに大きい悲鳴が響き渡る遊園地。何も知らない来園客からしたら恐怖でしかないだろう。……まあ、当事者としても恐怖でしかないのだが。
もちろん遊園地だけではなかった。さらに一週間後、二人で他愛もない話を交えながら道を歩いていたところ、先輩がふと「海で泳ぎたいね~」と言い出した。
「急に何を言い出したかと思えば……今は冬ですよ? 寒中水泳なんてしたら凍え死んじゃうじゃあないですか」
「じゃあ夏にしちゃおっか」
「は?」
先輩の一言に呆気にとられるが一瞬、気づけば肌が焼けるような日差しに襲われる。この後は雪が降るとか予報で言ってたのに、季節外れの猛暑が到来してしまった。気象予報士さんもビックリだろう。
「これで寒中水泳せずに済むよね?」
「まぁ……はい。何となくこうなる予感はしてましたよ、やっぱすごいっすね先輩」
「じゃあ早速準備して行こっか」
「そうっすね」
ツッコむのを放棄して脳死で頷くと、そのまま先輩に流されるがままに海に向かうことに。準備諸々を終えて電車で片道一時間、俺達は真夏のビーチに到着すると、貸し切り状態の海を満喫する。
だがもちろん満喫するのは俺ではない。穏やかな波に揺られながら二人して海水浴を楽しんでいた俺達だったが、しばらくすると先輩が退屈そうに口を尖らせた。
「なんかアレだね。波が弱いと、こう……スリルがないよね」
「……せ、先輩? まさか冗談ですよね? 俺浮き輪ないと泳げないんですよ? ねえ嘘でしょう?」
「強くしちゃおっか!」
「やっぱりぃ!」
身構えるよりも早く、ジョーズの如きビッグウェーブに襲われる二人。海を愛するサーファーなら嬉々として立ち向かうのだろうが、平凡な俺にとっては恐怖でしかない。
隣でケラケラと愉快そうに笑う先輩を恨めしく思いながら、俺は声にならない悲鳴とともに波にのまれた。
先輩の水着姿が見られて嬉しいだとか、二人だけの思い出を作れて幸せだとか、そんな悠長に現を抜かす余裕すらくれない。
本当に命がもたない。先輩に振り回される日々を過ごすのは、常に死と隣り合わせだ。
どうしてこんなことに……些細な動機からした善行によってこんな結果になるとは思いもしていなかったのに。学校一の聖母? いやいや小悪魔の間違いだろ。
(気分で良いことなんてするんじゃなかった……)
大波によって砂浜に打ち上げられながら、俺はそんな後悔に打ちひしがれるのだった。
◇◇◇
「マジで死ぬかと思った……」
海から奇跡の生還を遂げ、地元に帰ってきた俺の第一声はとても弱々しかった。
結局、あの後も生命を脅かされるレベルの災害に巻き込まれてしまった。ビーチバレーでは圧倒的追い風を利用しての殺人スマッシュを決められ、砂浜に顔以外を埋められたと思ったら高密度の熱射で炙られ、ようやく終わったかと思ったら再び高波にさらわれ……の繰り返し。殺す気かと何度も思った。
「いやぁ楽しかったね」
「そりゃやってる側は楽しいでしょうね。こっちはとんだ災難でしたよ。いや本当に」
「だって優斗くん、からかい甲斐があるから。つい」
「ついってなんですか。完全にサイコパスですよ先輩」
「えへっ、ごめんごめん~」
「かわい子ぶるんじゃないですよ。まったく……」
軽いノリで謝る先輩に辟易しつつも、俺は隣を歩くその彼女を何気なく見やる。
長いまつ毛、ぱっちりとした目、柔和な微笑み等々。どれも女性として魅力的で、改めてこんな可愛い人が俺の彼女なのだと思い知らされる。
(これで実は悪戯好きっつうんだからビックリだよな……いや悪戯にしては度が過ぎてるけど。実際、命が危ぶまれるレベルだし)
学校での聖母のような先輩しか知らない生徒からすれば、こんな悪戯っ子な姿は想像もできないだろう。それを俺だけが堪能できるのだと喜ぶつもりはないし、というか現実問題として命が危ぶまれているのだから素直に喜べない。
だけどもしかしたら、先輩がこうして悪戯してくるのには、そういった周囲からの偶像の押し付けに対する一種のストレス発散という一面があるのかもしれないと思った。
……いや、それだけではないか。先輩は地球の精霊だから、普通人である俺には理解できないような抑圧に日々耐えながら生きているのかもしれない。
まあ、そこら辺に関しては深く問い詰めようと思わないし、先輩が自分から口を開いてくれるまでは待つつもりだけど。ただ……先輩を悲しませることだけはしたくないと思った。
「よっしゃぁあああ! 四十二秒ぴったり! アン〇ンマングミ開封RTA自己新記録達成ぃぃl!」
「すげぇえええ! オブラートもグミも傷一つ付いてない、まさに職人の手捌きだ!」
「なんでそんな素早く剥がせるんだよ! やはり天才か!?」
ふと聞き慣れた騒がしい声が耳に入り、俺はそのもとへと視線を向ける。すると、これまた見慣れた悪ガキ三人衆が道端でたむろっていた。
「またアイツらか……」
どうやら盛り上がっているみたいだが、その周囲には相変わらず包装がポイ捨てされている。以前のこともあり、見ていてあまり気持ちの良いものではなかった。
「最近ああいう人達が多いんだよね。休日にボランティアの人と協力して清掃してるんだけど、それ以上にポイ捨てする人が後を絶たなくて……」
「……やっぱり嫌ですよね、ああいうのは」
「うん。なんだか自分が汚されていく感じがして……ちょっと嫌かな」
「先輩……」
悲しそうに目を薄める先輩の横顔を見て、心臓にチクりと痛みが走った。
そんな顔をしないでほしい。先輩には笑顔が一番似合う。だから、あんな輩のせいで先輩が傷ついてほしくない。
気づけば自分の足は動き出していて。驚きの声を上げる先輩をその場に残し、俺はその輩に話し掛けていた。
「あ? なんだテメェ? こっちは自己新記録更新狙って集中力高めてんだから、お前に構ってるヒマは―――」
「十三秒だ」
「……は?」
「十三秒。俺が保持しているアン〇ンマングミ開封RTA自己最高記録だ」
「…何……だと…?」
「こんな奴が十秒台を?」
「嘘、だろ……?」
「証拠もある。ほら、これがその動画だ」
狼狽える三人衆にスマホを見せると、更なるどよめきが響き渡る。
「す、すげえ、なんて繊細かつ俊敏な技術なんだ……!」
「ああ、こんな清流な指捌き、絶対に真似できねえ……」
「なあ教えてくれ! どうやったらここまでの境地に辿り着けるんだ!?」
「単純なことだ。俺にはあってお前らに欠けているもの、それは感謝だ。俺は常日頃からこれまでに出会ってきた全てのモノに対して感謝を欠かしたことがない。アン〇ンマンにもバイ〇ンマンにも……そしてゴミに対してもな」
「そ、そうか。これまで俺達は私利私欲のために罪悪感すら抱かずにゴミを捨ててきた。だから何も成し得ることが出来なかったのか……」
「なるほど、全ては日頃の行いの賜物ということか」
「こうしちゃいられねえ! すぐに俺達もゴミ拾いだ!」
先程までの血気盛んな悪ガキはどこへやら、純粋無垢に目を輝かせる三人衆は周囲に離散したゴミを一斉に拾いに行く。
その姿を見届けると、遅ればせながらやって来た先輩から呆れ交じりの笑みを溢されてしまった。
「やり方が子供っぽいというか男の子らしいというか……別に助けてくれなんて一言も言ってないのに」
「いやでも、先輩が困ってたんで。見過ごせなかったというか……」
「穏便に済んだからよかったけど、一歩間違えたら喧嘩沙汰になってるところだったよ?」
「す、すみません……」
「……でもありがと。嬉しかった」
「! は、はい!」
正直、怒られても反論はできなかったと思う。自分がしたことは相手の反感を誘いかねない行動だったし、事なきを得たのも彼らが年不相応に純粋だったから。年相応のヤンキー相手だったら、間違いなく暴力という手段を持って打ちのめされていただろう。
それをよく理解しているからこそ先輩は俺を叱ってくれて、そんな前置きをしてからお礼の言葉をかけてくれた。屈託のない、まさに聖母のような微笑みで。
こういう大人な一面が彼女の魅力であり、二人の時だけ見せてくれる悪戯な一面もまた魅力的であるからこそ、俺はこの人に惹かれているのだと思った。
(憧れからじゃない。本心からまりあ先輩のことが好きなんだと、今なら胸を張って言える)
この笑顔を守りたい。地球の精霊だとかそういうのは関係なく、ただ一人の女性として幸せにしてあげたい。この気持ちに嘘をつけるほど、俺は大人ではないから。
「今度からは無茶しないでよ? 相手が相手なら大変なことになってたかもしれないんだから」
「分かってます。次からちゃんと気を付けますし、それにまあ……ヤバくなったとしても先輩に助けてもらえればいいかなって。ほら、先輩は地球の精霊ですし、どんな悪い奴らでも楽勝でしょ?」
「ダーメ。相手を傷つけちゃうかもしれない力をホイホイ使うわけないじゃない」
「え、俺にはホイホイ使ってるのに?」
「キミは良いの。だって彼氏だしね」
「ヒドイ!」
ぞんざいな扱いに文句を言いつつも、ケラケラと笑う先輩を見ていれば自然と口元は緩んでしまう。
良いことなんてするんじゃなかったと悔いていたけれど、これはこれで案外悪くはないかもしれない。そんな照れ隠しに近しい感情を抱きながら、俺は先輩と並んで帰り道を歩み出すのだった。
ポイ捨てする輩に代わってゴミ拾いしたら、地球の精霊を自称する美少女が恩返しにやってきた。 そらどり @soradori
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