ワルキューレ商会
武装艇から出て来た二人に背中をARで小突かれてから強化外骨格を剥ぎ取られ、野戦服姿に。そうしてから両手を頭の後ろで組まされ、膝立ちに。直ぐに動けない様な体勢を取らされる。「……」。呼吸。先ずは小さく。舌先に錆の味が乗るが、直ぐに死ぬことは無さそう。酸素もあるらしい。それを確認してからしっかりと呼吸をする。思ったよりも街が近かったのかもしれない。
「――」
そうなると自分の運の無さに笑いが零れると言うものだ。
「――どうした? 狂ったか?」
そんなジュウゾウの頭の上から声が落ちてくる。酒か、煙草か、それとも汚染区域の空気か、そのどれかで焼かれた低い声。それでも聞き間違え様のない女の声。「……」。視線を上げる。褐色の肌。銀色の髪。紅い目。耳が長い。エルフ。だが胸が大きい。肌と目と髪の色からも分かるが、ダークエルフだ。戦場には不釣り合いなパンツスタイルのダークスーツ。顔を斜めに奔る傷が印象に残る。その傷の進路上にある右目の色が違う。潰れてんな。そう判断する。
声から受ける印象よりも遥かに若い。二十代。行っても精々その前半。下手をすればこちらと同じ位の年齢だ。それも妙だが――
(……女)
そのダークエルフが、集団のリーダーが若い女だと言うこと――は左程問題無い。強化外骨格越しで分かり難くなってはいるが、周りにいる連中も女だと言うのが少し妙だった。
「――男か」
ジュウゾウとベイルを見ながら、ダークエルフ。
「……ヘーイ? 見た目で判断か? 良くねぇぜ、ソイツは。もし俺の心が女だったらその一言で傷ついちまうぜ? な、ベイル」
「そうわよ」
「……そうだな。失礼した」
言いながらダークエルフはジュウゾウに近づき――
「――――!」
股間を蹴り上げた。
「ふぅん? 少なくとも
呼吸が止まる。汗が噴き出す。手加減無しだ。本気でキツイ。銃口を突き付けられ、動けない状況でありながら、それでも苦痛が上回り、ジュウゾウは土下座する様に丸くなった。クスクス。笑い声が漏れる。周囲から。やはり女のモノ。予想通りに女の集団だ。それが分かった。……もう分かって居たことなのですが? 苦痛と情報が釣り合っていないのですが?
「ジュウ」
「――」
ベイルが名前を呼ぶのが聞こえる。だが反応が返せな――
「今度からジュウちゃんって呼んだ方が良い?」
「――――――――――――――――――――――――――――――くたばれ」
ジュウゾウは意地で中指を立てた。お前、マジで、死ね。まだ潰れてねぇよ。
「……お前も確認した方が良いか、トカゲ?」
「ベイルは良いよ。ちゃんと心も身体も男だから」
ノーノーと首を振りながらベイル。
「そうか。手間が無くて良い」
「うん。それにしても珍しいね。女の人だけの界賊って言うのは」
「賊? それは私達のことか?」
「違うの?」
「あぁ、全く違う。良いか? 私達は――」
――正義の味方だよ。
「……………………やられた」
「――」
船の積み荷スペースで拘束されたまま、自称正義の味方のお嬢様の説明を受けて出て来たジュウゾウの言葉がソレで、すー、と無表情に、リザードマン独特のあきれ顔を晒したのがベイルだった。
ジュウゾウ達が目指した街は、隊長から貰った界図に乗っていた。
それはつまり隊長たちが知っている区画だと言うことだ。
つまり、連絡が付く。
隊長殿はあの状況でも情とか恩に流されることなく冷静に利益を追える種類のイキモノだったらしい。つまり――
「分かったか? 私達は
ご丁寧にもリーダーであるダークエルフ自ら説明してくれたコレがジュウゾウ達の現状だった。
盗難対策の発信機。砂の海で彼女達がジュウゾウを見付けることが出来た理由がソレだと言うのだから、本当にあの隊長サンにはやられた。
「……ヘイヘイヘーイ、何回言えば良い? さっき説明した通り俺達は貨物船逃がす為に
「そうか。感動的だな。キス位ならしてやりたくなる男っぷりだし、嘘を言ってる様子もない。……だがお前たちの乗っていたBBアントの識別コードは盗難届が出ているモノと一致するし、お前たちを然るべき場所に連れて行けば金になる。それ以上に大切なことがあるか?」
「ヤァ。可愛いね? 初恋は未だかな
「愛か? 金で買えるだろ? 娼館で偶に私も買う」
ジュリエッタは初恋は未だでも男は知っているらしい。
「……」
それを愛とは言わない。そう言いたかったが、流れる様に言って来たのでジュウゾウは黙った。
擦れた女の子。可愛くない。素直にそう思った。
「……義理と人情を商売に持ち込むのは嫌いだけど、借りを踏み倒すと最終的にもっと高くつく。依頼人のことを思うなら見逃すべきだとベイルは思うよ?」
「ほぉ? お前は商人かトカゲ? 勉強になるな。ありがとう。だが、生憎と私達は傭兵でな。依頼主が最終的にどうなろうが、金さえ払ってくれればどうでも良いんだ」
「……」
あまり交渉に強くないのだろう。正論で反論したベイルもあっさり黙らされる。「……」。良い傭兵団だ。素直にジュウゾウもそう思った。仕事の途中で情を挟まない。言葉は聞くし、その正当性も認める。それでも最初から最後まで『金を稼ぐ』と言う目的のもとで一貫しているので方針がブレることがない。使う方としては信用が置きやすい良い傭兵団だ。
ワルキューレ商会。それが彼女達のクランの名前だと言う。
「……」
良い傭兵団過ぎて捕まった方としてはキツイ。ブレないから隙が無い。隙が無いから交渉が出来ない。
「……どうする、ベイルー?」
「どうしようもないのでは?」
「実は隊長サンが俺達にお礼を言う為に賞金かけて探してるっー線は――」
「ないね」
「ないかー」
だよなー、とジュウゾウ。それでもどうにか……と周りを見渡すと、ちょうど後部ハッチが開いた。「……」。砂の海に飛び込んで逃げる。そんな現実的ではないプランが思いつくが、自分で否定するよりも早く、ソレが不可能だと言う様に一台の多脚戦車が入って来た。
アレが別のポイントからジュウゾウ達を仕留めたスナイパーだろう。「は?」。その機体を見て、ジュウゾウが本気で呆気に取られた様な声を出した。
菱形に近い薄いボディにライフルを背負った四脚の多脚戦車。その漆黒のボディと特徴的な脚には見覚えがあった。足の先端が四角い。そしてその先端が沈み込むようになっている。それは歩く際の振動を殺す為の機構だ。ボールレッグでの滑走すらも静穏性に重きを置き、その居住性を無視した薄いボディはレーダーから隠れる為のモノだ。
シャッテン・ルクス。
影の山猫、或いは山猫の影。そのコードを与えられた型落ちですらない現行の帝国の軍用機がソコにあった。
「……テメェら、
「知っているのか?」
「やり合ったことがあンだよ」
「生き残ったのか? 帝国軍を相手にして? それは……ふむ。貴様が男なのが惜しいよ、発情猿。女ならウチにスカウトしていた」
脚の関節が多い。アレも音を殺す為の工夫だろう。その脚を丁寧に折り畳み、体高を下げ、パイロットが降りて来た。
癖の無い金髪。青い目。尖った耳。エルフだ。若いと言うよりは幼い。都市が外見に出難いエルフならでは――と言いたい所だが、純粋に幼いのだろう。十二にもなっていないかもしれない。
――それでも、眼。
その眼に温度は無く、典型的な殺しに慣れたモノの匂いがした。
少年兵。それだろう。
「おかえり、ルクス」
そんな彼女をダークエルフが迎える。そこで初めて彼女の表情に感情が乗るのをジュウゾウは見た。口角が柔らかい。笑顔で、歓迎する様に……。機体と同じ名前の少女は彼女にとって特別らしい。
「ただいま、ヒルド。……それ、今回のヤツ?」
「あぁ、そうだ。金だ」
「金じゃねぇですが? ジュウゾウくんですが?」
「ベイルはベイルだ。よろしくお願いをする、スナイパー」
「ジュゾーにベイル? うん。よろしくね」
「……よろしくしなくていい。ルクス。疲れただろ、休め」
「……うん。ごめん。そうする。ジュゾーとベイルも、ばいばい」
小さく手を振るルクス。
強化外骨格がある。多脚戦車は肉体の強さをカバーしてくれる。それでも戦車乗りに鍛えられた肉体は必須だ。凄腕。間違いなく一流の狙撃手である彼女だが、身体は出来上がっていない。消耗が激しいのだろう。小さな口を可愛らしく、くあ、開けて欠伸を一つするとダークエルフ――ヒルドの言葉に従い、船の奥に向かって歩いて行った。
「マジで何だ、テメェ等? 明らかに正規兵じゃねぇ癖に何で装備……っーか、シャッテン・ルクスなんつー帝国最新機持ってんだよ?」
「そうだな。貴様らがどう使われるにしても教えておいた方が良いか……ここに正規軍は無いよ、ジュウゾウ。だから帝国最新機も金があれば手に入る」
「あ? どういうこった?」
「ようこそ。ゲベート砂界へ。ゴブリン、オークなどの
あとがき
隠しヒロイン(ジュウちゃん)ルート分岐点。
月火水木金金金、大日本帝国に休日なんてありゃせんわ。
そんな訳で今日は金曜日でっす。
次は……火……いや、水で。
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