第百十話 追放ものって流行ってる?

「服部殿は、大層嬉しそうでしたよ」

「そうか。服部くんには我慢させることが多かったからね。清家の里に行くようになってから随分と楽しそうだったからさ、気になってたんだよ」

「元々、槍で身を立てると考えていたようですからな。もう少し名残惜しそうにしても良いとは思いますが」


 若さというより幼さの残る顔が、嬉しそうな笑みに溢れている様を思い浮かべると、自然とこっちまで嬉しくなってくる。

 日頃から槍の修行を頑張っていたもんな。なのに護衛役だからって側にいさせて戦にも出られずにいた。彼からすると、もどかしかっただろうに。

 近くにいたおかげで直に頑張りを見てあげられたけど、若い頃って分かりやすい手柄を欲するもんだよね。


「彼には念願の槍働きで頑張ってもらおう。政務の話に移る前に、御座所の守りについて確認しておきたい。今、動ける人は香西元成こうざい もとなりさんと三好宗渭みよしそうい三好為三みよしいさの兄弟だね」

「はい。後は和田殿と先の戦で手元に残しておいた足軽衆の武将が数名です」


「能力的には直轄軍を任せたいところだけど、清家の里のことを明かすにはまだ早い。そうなると京で御座所の警護をお願いするしかないか」

「そうですな。手元に置いていた方が目も届いて良いかと」


「手元に残した足軽衆は藤孝くんが選別したんだよね? 良い人いたの?」

「はい。名家支族の出身ですが、優秀な者たちです」


「直轄軍で指揮できそうな人いた?」

「二人はいずれ。残る一人は現場指揮官より、高度な仕事を任せられそうな逸材です。雑用仕事で手を抜かないようなら、私と同じように上様の側仕えにしようと考えております」


「へぇ。何でも出来る藤孝くんにそこまで言わせるなんて凄いね。なんて人?」

「美濃国守護の土岐氏に連なる者で、名は明智光秀。年嵩ではありますが、落ち着きと思慮深さを兼ね備え、書や詩歌にも明るい男です」


 えっ???? 今なんて言いました? 明智光秀?

 

 こう言っちゃあ何ですが、なんでウチにいるの?

 明智さんクラスってさ、大抵スカウトしに行っては断られてを繰り返して、何とか口説き落とせましたってレベルの人だよね?

 さくっと味方になったどころか、三好家との合戦のために集めた足軽衆にいたってことは、何か月も前から幕府軍にいたってことでしょ。まったく気が付かなかったよ……。


 たしか明智光秀って藤孝くんと俺の弟である義昭くんに仕えていたような……。

 そうなるとタイミングが早いよな。やっぱりなんでいるんだ? 分からん。折を見て本人に聞いてみよう。


「明智光秀さんか。興味あるなぁ。藤孝くんの許可が出たら会わせてよ」

「承知いたしました。おそらく人柄に問題ありませんので、そう遠い話ではないでしょう」

「残る足軽衆の二人が使い物になるようなら、将の問題は何とかなりそうですな」


「現状ならね。直轄軍の規模を拡大するなら、やっぱり足らなくなると思う。前にもお願いしていたけど、忍者営業部の人たちに情報集めと勧誘お願いできるかな?」

「承知。実は、信用できるかは別にして経験豊富で勇猛果敢な武将が京におります。武将と言いますか、元大名とも言えるお方なのですが」


 珍しく歯切れの悪い言い方をする和田さん。

 なんだろう。もう既にお腹いっぱいの感があるんだけど。明智さんだけで十分だよ?

 だって無料ガチャでレジェンド引いたようなもんだからね。これ以上凄いの来たら、その後でとんでもない不幸に見舞われそうで怖いんだけど……。


 なのに、さらに新しい人の情報。勇猛果敢な武将で、そのうえ元大名って……。もうちょっとお腹に優しい属性軽めな人はいないもんかね。


「ちょっと聞くのが怖い気がするけど……、なんて人かな?」

武田信虎たけだのぶとら殿です。当代の当主に追放されたお方で、京に滞在しているようです」


「追放された武田家の先代当主っていうと、義弟殿の武田義統さんのお父さん?」

「いえ。甲斐武田家の方です」


 信玄さんの方か。同じ時代の若狭武田家でも、嫡男がお父さんを追放して、甲斐武田家でもお父さんを追放って……。


 この時代の武田家では、追放ものが流行っているのだろうか。


 ――――はっ。もしや、この時代にもラノベが流行って……いるのか? となれば、次のブームは『ざまぁ』か『もふもふ』あたりだろうか。

 もしやもしや、ブームを知っている俺って、この時代で売れっ子ラノベ作家になれるのではなかろうか!


 ……うん、馬鹿な考えは終わりにしよう。最近ちょっとシリアスが多かったもんでね。すんません。


「甲斐武田家でも若狭武田家のようなことが起きていたんだね。そんで追放された信虎さんが京にいると」

「はい。京で政情の動きを探って情報を送っているようなのです。それは支援を受けている縁戚筋の今川家のためなのか、甲斐武田家のためなのかはハッキリしておりませぬ」


「それは何とも言えないね。引き込んだところで、心から味方になってくれるのか間諜なのか判断つかないし。でも能力は申し分ないってことなんだよね?」

「戦に明け暮れた人生といっても過言でない御方でして、武田家の統一や甲斐国統一と戦績も素晴らしい。能力と実績だけ見れば、うってつけの人物かと」


「能力と実績だけ見れば……か。気が重いが会ってみるしかないな。想像だけじゃ人となりは分かんないからね」

「では接触して、面談の機会を用意いたします」


「うん、よろしく。結構長くなっちゃったけど、軍事はこれくらいかな」


 やっぱり戦国時代というのもあって、軍事面での話し合わねばならないことは多い。

 あとは政務と外交か。残る二つは、さほど出来ることも多くないし、そこまで時間はかからないかな。

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