第七話 発足!忍者営業部
「そんでさ、本題なんだけど、和田さんのとこの忍者に全国を渡り歩いてもらいたいんだ。行商としてね。今何人くらい動かせる?」
「今すぐであれば一人だけです。他の甲賀衆などに声をかければ相応の数は揃えられまする」
本題に入るまでに和田さんの待遇とか問題が多すぎて話が進んでなかったので、少し強引だけど本筋に戻した。
今動ける忍びの数は一人だけ。
他にもいないわけじゃないけど連絡要員として手元に一人、外に出しているのが二人、俺の護衛に二人だと言う。
女中として入っている妹の楓さんは別計算なんだって。
幕府でそれなりの地位にいる和田家ですら、子飼いの忍びは5人がせいぜいらしい。
そりゃあそうだよね。
和田さんの家族や子飼いの忍びにも家族はいるだろうし、和田さんの給与だけで二十人から三十人くらいを養っているはず。
他の一族を助ける余裕なんてあるわけないよ。
やっぱり和田さんにはしっかり報酬を払えるようにしてあげないとな。
俺の計画がうまくいけば、報酬を払えるどころか甲賀衆をどんどん雇っていけるはずなんだ。
イメージは富山の薬売りに近いのかな。
結果として全国津々浦々の情報が集められて、情報を伝達できる。
そして、その組織自体がしっかりと利益を上げることで自立できるようになれば、生活に困ることもないだろう。
最終的には全員が忍者でなくても良いんだ。
諜報と販売、それが全国規模でできるようになれば、資金面でも情報戦でも優位に立てる。俺の命も安泰だろう。
名付けて忍者営業部。
まだ人には言えないけど、凄い面白そう。
現代に、こんな会社あったら新卒が殺到しそうだ。
門前払いをかいくぐり、キーマンへ直接アプローチ。
……河内商事にも欲しい人材だな。
ともかく、最初は多くを雇えないから、質で勝負するしかない。そうなると優秀な忍者でないと厳しいかもしれない。
服部半蔵なら有名だし、腕も良いんじゃないか。
逃した魚は大きく感じる。
「それなら服部さんにも声をかけられないかな?」
「三河に人をやれば連絡はとれるはず。しかし既に仕官していれば協力を得るのは厳しいかと思いまする」
そうだよなぁ。
やっと見つけた安住の地から嫌な記憶がある前の職場に戻るなんてしないだろうな。
それならしょうがない。
でも他に優秀な忍者なんて知らないし。
「そうだよね。念のためお願いできる? それと計画の説明をするね。幕府の資金源を作るための計画なんだ。第一に停戦調停や官位を欲しがっている大名と連絡をつけること、第二にその対価の価格について交渉だよ。もちろん件数は多くないだろうから、行商として各地の特産や価格、需要なんかを調べて欲しいんだ」
「かしこまりました。仕事に応じた人数を集めておきましょう。それで何を売り歩けばよいのでしょうか?」
「そこはね、まだ決めかねているんだ。藤孝くん、京の特産何かな?」
「はて、京の特産と言えば松茸くらいでしょうか」
松茸! 食いたいね!
でも行商の商品として長期間持ち運ぶにはどうなんだろう。
それに食べ物は旬があるし。
「うーん、食べ物は売りやすいけど、松茸は季節ものだしな。他に京ならではと言えば?」
「他にと言われて思い浮かぶのは化粧品や西陣織などの雅な京文化ですかね」
「それだ! 織物なら行商でも扱いやすいね! 化粧品と合わせて奥様方に売り込めるし、そうなれば裕福な大名や商家に食い込む好機だよ。あとは男性向けに商材が欲しいところだね。和田さんは何かある?」
「さて。幕臣の方々を見ていると和歌やら漢詩やらがお好きなご様子」
「和歌でしたら私も研究しております。幕臣の多くは任官された貴族でもありますから京文化に詳しいですね」
ほうほう。戦うのが役割の武士が公家でもあると。
どうりで文官みたいな人たちが多いはずだよ。
あれ? もともと公家が武士になったんだっけ?
考えてもわからんな。
そうだ! 良いことを思いついた。
彼らにも仕事をしてもらおう。
幕府としての仕事はないし、朽木谷の人々の農作業を手伝う訳でもない。
朽木谷でのんびりしているだけなら、仕事をさせないと。
なんせ彼らは正式な幕臣。仕事をしていようとしていまいと固定給だからね。
「藤孝くん、書物もたくさんあるってことだよね?」
「はい。京の屋敷にあります。近いうちに人をやって取り寄せようと考えておりました」
「よし。他の人にもそうするように伝えて。そんでもってお仕事を割り振ります。彼らには写本をやってもらいます! それを行商の売り物にするから貴重な本や人気の本からお願い」
「承知しました。そのように手配しましょう」
写本にかかる費用は紙や筆記用具くらい。一番費用がかかる人件費は固定給だから埋没原価だ。
幕臣が写本したとなれば、書籍の信用も担保できる。
いや、写本していると言わなければ、困窮した幕臣が資産を切り売りしていると思ってもらえるかもしれない。
そうすれば、商品がダブつくと悟られずに長い期間売れるのではないか。
写本しまくれば、本の数が増えていき、いずれ希少性が下がるだろうし。
よし、その方向性だな。
幸い、幕府の使者なら大名や商家と面談の機会を作ることも容易だろう。
「ありがとう。じゃあ藤孝くんには、蔵書の取り寄せと幕臣たちの指示。それと六角と交渉して。生活費名目で引っ張れるだけ引っ張って欲しい」
「はっ」
奉行衆は人手も多いし交渉事には慣れているはず。
藤孝くんは優秀そうだから、上手く仕事を配分してやってくれるだろう。
「和田さん、そういう仕事でも良いって人を集めて欲しい。ある程度、支度金は渡せるかもしれないけど、基本的に生活費は行商で稼いでもらうことになると思う。それと服部さんへの連絡も」
「はっ」
これで金を稼ぐ第一段階の手配を終えたかな。
あとは武官として兵を動かせる武将探しか。
あれ? これも和田さんに頼めば、行商のついでに全国を捜し歩いてくれるんじゃないか?
「ねえ、行商ついでに有能そうな武将も一緒に探すのってできる?」
「可能です。何を以て有能とするのかをご指示いただければ」
「確かに。有能かどうかの尺度がなきゃ判断しようがないよね。実際に行商を始める前までに決めておくよ。それじゃ準備よろしく」
その言葉を以て、本日の打ち合わせを終えた。
藤孝くんたちは、そそくさと部屋を退室する。
指示はしたけど俺がやらなきゃならないことがないんだよな。
何するかな。
そうだ! 行商に出てもらう忍び衆の身分証みたいのを用意しよう。
正式な使者としての旅ではないから、身形で信じてもらえないかもしれないし。
とりあえず五人分くらい準備すれば充分かな。
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