第30話 裏切り?

 公爵邸でも興奮は止まなかった。

 こそこそと小さい鳥がアリスのポケットに入っていくのには誰も気が付かなった。 アリスはポケットの中で踏ん反りかえっているケルンを感謝とともにほめたたえた。


『やるときはやるのよ、僕は』

「できる子だったのね!高級お菓子たくさん用意するわ」

『やったあ!でもまだ気を抜いてはいけないよ。あの女はまだ行方不明なんだからね。それに屋内にいたものはまだ催眠状態の者もいる。』

「そうね、お父様に伝えるわ。」


 倒れている敵兵を捕縛したり、正気に戻ったものも念のため拘束したりと屋敷内もまだまだ騒がしい状況だ。

 公爵は騎士団長とともに指揮を執っており、アリスはエルネストにそれを伝え、王宮にも伝令が走った。


 ざわめきが収まらない公爵邸に、兄のクリストフが走り込んできた。

 研究所で解毒作用のある成分を抽出したり、解毒剤入りの酒や菓子を作るなど重要な任務についていたが、公爵邸襲撃の知らせを聞いて飛んできた。

「良かった、みんなご無事で。」

「ああ、ひとまず安心だ。お前も含めこれから王宮へ行く。まだ狙われる可能性もある、警備体制の整った王宮へ行くぞ。」

「わかりました。今回の救出劇はアリスが?」

「ああ、アリスのおかげでマルティーヌとルイスの命が守られたのだ。」

「アリスがそれほど魔法が使えるとは知らなかった。巷でうわさの女神さまもアリスのことじゃないのですか?」

 笑顔で尋ねるクリストフに思わずエルネストはうなづいた。

「あ、いや違う。別人だ。」

 慌てて否定した。

「家族なんですから隠さなくてもいいじゃないですか」

 キンッと鋭い金属音がした。


 アリスが小剣を構え、アリスに近づこうとするクリストフが持つ物をはじいた。

 クリストフの手には魔道具が握られていた。

「クリストフ?!」

「兄上?!」

 アリスにはじかれたクリストフは、驚き固まっているルイスに近寄るとナイフを喉元に突きつけた。


「ねえ、アリス。さっきの竜を呼んでくれないかな」

「・・・」

「兄上!どうしたの?!」

 クリストフはもがくルイスを容赦なく拘束する。

 エルネストも周りにいる騎士も動けなかった。クリストフの腕から精神干渉を跳ね返すための腕輪が消えていた。


「なんのことですか。私と竜が関係あるとでも?」

「これでもとぼけられるのかな」

 ためらいなくナイフがルイスの太ももに振り下ろされた。

 ルイスのこらえるようなうめき声とエルネスト、マルティーヌの叫び声が屋敷に響いた。

 にやにや笑うクリストフはもう一度ナイフを振り上げた。

 その時、アリスのポケットの中からケルンが飛び出した。


「ケルン!」

 叫び声むなしくケルンは小鳥から優美な光の鳥に変化し、外に飛び出すとさらに雄大な竜の姿に変身した。夜空に竜の咆哮が響き渡った。


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