第27話 ごちゃまぜヒロイン?

 カナが俺の好きなヒロインを演じているのかは不明だ。でも、メガネをかけて凛々しく立っているその姿は、どう見ても俺の為にしてくれている気がしてならない。


「おほほほ……そこにいる愚民二人! すでに戦意喪失かしら? そうだとしたらがっかりにも程があるというものだわ!」


 へ? 


 おほほほって、あのヒロインはそんなことは言わなかったはず。色んな人格をインプットしてごちゃまぜになってる?


「えっ……お、お姉ちゃん? 愚民……って、私のことも?」

「二人って言ってるし、キイさんも含んでるんじゃないかな……それにしたって言いすぎなんじゃないかなぁ」

「う、うん……」


 キイの態度が俺の時に見せる態度とまるで違う。みのりはどっちとも言えない態度を見せてはいるけど。


「そう! 小桜キイもあたしにかかれば愚民なのさ! さぁ、あたしの前で跪きなさい!」


 カナのこの態度といいセリフの数々は、俺がコレクションとして揃えているアニメのヒロインのセリフそのものだ。


 しかし、部屋に入り浸らせて料理もしなくていいと放置した結果が錯綜ヒロイン化。だとしたら完全に俺のせいだ。素質のあるカナに変な知識を蓄えさせてしまったことになる。


「で、でも、ここは改札前で……みんな見てるし、そんなこと出来ない……」

「……これってやっぱりちかくん――じゃなくて、天近くんにちょっかい出したのが原因なのかな。そうだとしたらわたしもだけど、キイさんも誠心誠意の謝罪を見せないとおさまらないかも」

「うぅ、やっぱりあいつむかつく。でももう折れるしかないのかな……お姉ちゃんに嫌われたくないし」


 キイとみのりが何やら相談しているが、当のカナは悪のお代官のごとく仁王立ちしたまま動こうとしない。


 胸を相当に張っているせいか、いつもよりもボリューム感たっぷりのたわわ感がある。それはともかく、人前にもかかわらず二人はゆっくりとその場に跪いた。


 とはいえ人前であることに変わりがないせいか、完全に膝をついたわけじゃないようだ。


「ご、ごめんなさい!! もう本当に、本当にあいつにとって不都合なことをしないので、あの……いつものお姉ちゃんに戻って欲しいです」

「わ、わたしも十分に反省してます。どうか普通に戻って下さい~」


 周りにちょっとした人だかりが出来つつあるし、この場をおさめたいってことか。それに対してカナは――


「――あ~あ、つまらない子。それでも優秀と呼ばれる女子かしら? あなたはそうやってあたしと見ればすぐに態度を変えるけれど、あたしの大事な子には辛辣な態度を見せる。そんな調子のいい子とは上手くやっていけるはずがないわっっ!!」


 まだ見下しキャラは継続なのか。それにしても公衆の面前でもヒロインキャラは継続中でお構いなしなんだな。


 その辺がカナのいい所でもあるし悪いところでもあるが。


「……私はそんな……すぐ、すぐにはいい子になんてなれない。ちょっとだけ、ちょっとずつなら直していきます。だからお姉ちゃんっ!」


 誰から見てもキイは顔面蒼白状態。絶大な姉の前では、逆らうこともしなければ反抗することも出来ないらしい。


 ん?


 カナに何を言っても無駄と判断したのか、キイとみのりが体の向きを変えて俺に跪いている。


「あ、天近すばる。私が木ノ本さんを利用してけしかけました。ごめんなさい。これから少しずつ直していくから、だからお姉ちゃんを元に戻してください」

「そういうことなのでごめんなさいですっ! 天近くん」


 改札前を含め、駅を出入りする野次馬の視線が痛い。はたから見れば仁王立ちのカナはともかく、美少女二人を跪かせて謝らせている光景は絶対におかしい状況だ。


「い、いや、俺は普通にしてくれればそれで……」


 姉から嫌われたくないし見放されたくないからって、キイの態度がすぐに改善されるわけじゃない。しかし俺から強く言うつもりも無いし、こんなもんだろ。


「お、お言葉というか天近くんに甘えてわたしはこれで~」

「あ……」


 この場にキイだけ残して、みのりだけそそくさといなくなってしまった。元々彼女の目的は俺をたぶらかすことだった。しかもキイに頼まれての行動。これ以上関わらせても意味がない。


「……はぁ。天近すばる」

「何だ?」

「お姉ちゃんが大変なことになってるから助けてあげてよ! 早く!!」

「へ? ああぁぁ!? 囲まれてる?」

「私はよく知らないけど、お姉ちゃんの格好って何かのキャラとかじゃないの? 夏場原の駅前でああいう格好をしてればどうなるかくらい分かると思うけど?」


 キイが言ったとおり、仁王立ち状態のカナの周りには撮影する男たちが集まって囲んでいる。俺の好きなアニメヒロインに近い格好と態度を堂々と見せていただけあって、無関係な男たちが密かに注目をしていたらしい。


「ええい、愚民ども!! 誰に向かってカメラなんか使おうとしているんだい!! そこをおどき!」


 もはやよく分からないキャラになってるな。あの人だかりを割って行くのは勇気がいるが仕方ない。


 強引にでもそのまま改札を抜けていくしかなさそうだな。


「カナ! こっちへ!!」

「――! おおぅ、良きかなよきかな。とうとうあたしを迎えにきてくれたのかえ?」

「まだカナに戻ってないのか……まぁいい。このまま帰るから手を離さずについて来て!」

「おほっ」


 スーツ姿のメガネ女子の手を強引に掴み、キイをあの場に放置して俺たちは何とか駅から脱出。

 

 後は俺のアパートに戻るまでに正常なカナに戻すだけだな。

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