第16話 鈍感男子に鉄槌を

「ハフゥゥ……あったか甘ぁい~」

「……カナさん、落ち着いた?」 

「んむぅ」


 あられもない格好で俺に不意打ち攻撃をしてきたカナは、シャワーを浴びてすっきりしたと同時に何をしでかしたのかも忘れている。


 今は自分がしたことをすっかり忘れたかのように、ホットラテを飲んでご機嫌だ。この状態のカナにさっきのことを聞くべきかどうか迷う。


 そう思っていると、


「すばるくんって――」

「ん?」

「非モテの陰キャ少年ってことで合ってる?」

「モテないのは認めるけど、陰キャ要素はないでしょ……」


 妙な鋭さを出してくるな。とはいえ、アニメや漫画に囲まれた生活空間にしてるからそう見られても仕方が無いけど。


「キイちゃんに聞いたけど、すばるくんには友達がいないんだろ~? 教室では大体ぼっちらしいじゃないか!」


 あいつ、俺とほとんど話してないくせに裏でそんなことを言っていたのかよ。俺のことを気にして無いようで実は監視されてた系か。


「……友達くらいいますよ。多くは無いけど」

「それだけじゃないぞ! 君は運動神経が無い! 商店街をちょっと走っただけで息を切らして、お姉さんはがっかりだよ。それから~それから~」


 何が言いたいのかは何となく分かる。年上だとか下とかはあまり気にしたことは無いが、カナは俺と比べても求めている理想が高い。


 部屋に入り浸るようになってから行動がエスカレートしているのもそのせいだろうな。カナ自身のスペックが高いからこそ、俺に色んなことを求めている。


 そっちがそうなら、俺も少しは反撃しないと。


「そういうカナさんは彼氏とかどうなんですか?」

「か、かかかか……?」

「彼氏くらいいるんでしょ?」

「すばるくんのおバカ!!」

「おバッ……!?」


 なぜにそんなことくらいで怒るんだ。


 カナさんは変わり者ではあるが、美少女としてレベルが高いししていればすごくモテるはず。


 それにそんなに気にしてるなら俺に構わなくてもいいのに。


「はぁ……。あたしが何で君の部屋に来てるのかも分かってないようだね? それに仮に彼氏がいたら、君の部屋に入り浸るわけがないじゃないか! このすっとこどっこい!!」


 確かにそうだな。幼馴染だからといって部屋に入り浸るのは良くないことだ。


「何で部屋に来てるんでしたっけ?」

「こ、この――ボケナスめ~!」


 キイのことはともかくとして、俺の部屋に入り浸ってもカナに何もすることが出来ない。してくれているのはせいぜい、目が潤ってるくらい。


「ふふん、あたしには全てお見通しなのだよ! 知りたいかね?」

「いや、別に」

「ええい、よぉくお聞き! すばるくんはズバリ! 好きなアニメのヒロインを現実に求めているのだぁ~!!」

「……へ?」


 何を言い出すかと思えば、趣味の中身に突っ込んできたのか。


「カナさん、落ち着いて! アニメとヒロインの中の人の区別くらいはしてるよ? そりゃあ同じシリーズものばかり集めてるけど……別に求めてるわけじゃ――」


 ヒロインの見た目やら性格設定を現実に求めたところで。って話になる。それを現実の彼女とかに希望しても、叶わないことくらいは分かっていることだ。

 

「でも、目の前にヒロインが現れたらどうするんだい?」

「あり得ないけど、興奮はするかも」

「そうだろうそうだろう! だからあたしも近付けるためにすらいむとか色々……ごにょ」

「すらいむはヒロインじゃないですよ?」

「アホーー! バカにしてんのかー!」


 多分カナは何かしらの行動を起こして、俺をにさせようとしている。しかし俺は今までモテたことがない。


 そういう意味でも、カナの意味不明な行動を理解するには時間が必要だ。


「ご、ごめん。でも実際、俺はカナさんのことは――」

「まてぇい! その先は言うでない!!」


 嫌いじゃないけど、それ以上のことはよく分からない。


「ええい、鈍感野郎め! 思いきって鉄槌でも下してやるぞ、この野郎!!」

「キイじゃないんだから、殴るのはちょっと……」


 せっかく美少女姉妹なのに、妹は狂暴。そこに姉も加わったら逃げようがなくなる。


「あたしは決めたぜ。すばるくんには見た目から刺激を取り入れてやろうじゃないか! 勤労少年は確かにエロには鈍いし、お子ちゃまのままだ! それならあたしが一肌脱いで、すばるくんをその気にさせてやるぜ!」


 またまたおかしな宣言をしているな。もしかしなくても、俺の背中に当てたアレすら通じなかったことに納得がいかなかったのか。


 そうだとしたら、ずっと抑えてきている別の感情の行方がおかしなことになるんだが。俺の気持ちをきちんと理解してくれているのか、そこはカナの考え次第だな。


「その気にと言われても……」

「決めたぜ~! そういうわけだから、覚悟しとけ~!」


 好きなアニメのヒロインが現実的にとなると、中の人のイベントに行くくらいだし、あとはコスイベントで勝手に満足するだけ。


 何をしでかすのか分からないけど、生温かく見守るしかなさそうだ。

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