第8話 コザカナの反則技
「ハァハァ、ハァァァッ……くぅぅ、激しすぎる」
「フーフーハフゥゥ~」
「ちょっ!? カナさん、俺の舌に息を吹きかけたって変わりませんってば!」
「そう言いなさんな。どう見ても真っ赤だし、
意味が分からない。何で食べさせた本人は何とも無くて、俺だけがこんな目にあっているのか。
通常なら恥ずかしくてすぐに自分の舌を引っ込めるのに、カナが作った手料理があまりに激辛すぎてなかなか口の中に引っ込められない。
それを何の警戒も無く、
「フゥーフゥゥー……どうだい? あたしの息で
「……それは反則ですってば」
「なにおう!? これはあたしなりの親切技だぞ! すばるくんに反則技なんてかけるはずがないじゃないか~」
そういう意味じゃないけど、変に興奮状態にあるようだしどうにも出来ないな。ほんの少しどっちかが舌を伸ばせば、舌同士が接触してしまうというのにこの人は。
しかし全くもってそういう意識は無さそうだし、そういう意味では俺が助かっている。
――しばらくして。
「いやぁ~ごめんよ。やっぱり
「やっぱり? もしかしなくても、カナさんって辛党?」
「断じて違うぞ! そうじゃなくて、あたしが作ると何故か料理全てが激辛になってしまうのだよ。あたしは何も感じないのに不思議だよ」
そりゃあ毒を持ってる本人が毒を感じることは無いだろ……。激辛なのを除けば料理自体は何も問題無いのにどうしてこうなった。
大したものは作れないけど今度から俺が作らないと駄目だな。
「ハー……ようやく麻痺状態から回復した」
「おぉ、おめでとう!」
「……」
「むふ……それにしてももう少しだったねぇ?」
俺の舌の状態が回復したところで、カナが不敵な笑みを浮かべている。
「え? 何が?」
「もう少し近づければ、すばるくんとあたしはとてもディープな接触が出来たはずだったのだよ。少年にはまだ早すぎると思って息を吹きかけるに留まってあげたのさ!」
まさか、俺の意識に気づいていての動きだったのか?
とぼけているようで計算された息吹きかけとか、嘘だろ……。
ちょっとだけ年上で、あっちの知識は大した差は無いと思っていた。それなのに、カナは完全に狙っての動きだった。
もし変な雰囲気になっていたらそのまま流されてディープな動きが発生していたかもしれないが、そうならないくらい激辛だったのがかえって幸いした感じか。
激辛すぎる手料理はともかくとして、今日こそはっきりと言っておこう。
「……カナさん」
「何だい? もう息は吹きかけんぞえ?」
「はいはい、それは過ぎ去ってるから。そうじゃなくて実家――」
「しつこい男の子よのう。なしてあたしをそんなに行かせたいのかね?」
それはもちろん、俺の趣味な時間を奪っているからに他ならない。部屋に毎度のように入り浸っている状況もあまりよろしくないし。
「キイが寂しがってるんじゃないですか? それと、カナさんの親だって……」
「……や、キイちゃんの寂しさは昔からだから変えようがないのだよ。電話すれば何も問題は無いのさ~!」
それにしては俺への風当たりが厳しすぎるだろ。
「じゃあパパさんやママさんは?」
小さい頃に少し会ったことはあるだけで俺は良くは知らないけど。
「すばるくんが知らないだけで、実は我が家であたしのことを物凄く溺愛してるのはキイちゃんだけなのである。親たちも同様なのさ! つまり、あたしが実家に帰ってしまうとキイちゃんが大変になってしまうのだ~」
カナを溺愛するキイが大変なことになる……何となく想像は出来るが。おそらく姉から離れられなくなって、姉離れが出来なくなるって意味なんだろうな。
「そうだとしても、やっぱり一度くらいは実家に帰って話だけでもしてきた方がいいんじゃないかなと……」
「すばるくんはあたしのことがお嫌い?」
「いや、そんな……」
で、次は好きかどうかを聞いて来る――と。
「では好きで好きで今すぐ襲いたくてたまんねえ?」
極端な方向に飛んだな。
「嫌いじゃないのは確かですけどね。そういうことじゃなくて――」
「すばるくん!! お願い! あたしをここに置いておくれ~すばるくんが求めているあの映像の子たちのように変わってみせるから! お願いだ~」
あの映像……あぁ、特典映像のヒロインのことか。
「実家はともかく、カナさんが住んでる方はどうするんですか?」
「うぐっ……それはアレだ。もうすぐ住めなくなるから、だからあのその……」
「追い出されるってことは家賃滞納とか?」
「そうじゃないぞ! 正確には、ごにょっ……」
詳しくは聞かないでおくとしても、俺の部屋に入り浸るのはちょっとまずくないか?
そうかといって何が一番いい解決策になるのかが問題だ。
「すばるく~ん……お願いしますだ~」
「う~ん……」
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