第3話 姉の妹ですが、何か?

「あのさ、ちょっと話があるんだけど……」


 昨日の今日で聞くのも早すぎかと思ったが、学校に来たらほぼ確実に顔を見ることになるので、早速カナのことを妹に聞くことにした。


 朝一で声をかけられたことが不快だったのか、小桜キイは不機嫌な表情で俺を見ている。


 小桜キイは小桜カナの妹で、俺が通う高校の同級生だ。しかも同じクラスという、奇遇では済まされない環境下にある。


 妹のキイも姉に負けず劣らずの美少女だ。


 茶髪のショートで肌は白く細身の外見をしているが、整った外見で男子から絶大な人気を誇るも、男子にはとことん塩対応をする怖い女子として有名でもある。


 姉のカナとはまるで対照的な性格かつ男嫌いなせいで、妹だからといってもキイとはあまり話したことが無い。


 それだけに、同じクラスにいるからといって滅多に声をかけることがなかった。


「……何か用?」

「昨日帰って来ただろ? あの人」

「あの人? 別に誰も帰って来てないけど」


 マジかよ。

 実家に帰らないでどこに行ったんだ?


 実家に帰った前提で妹に話しかけたのに、話が終わってしまったじゃないか。しかもすごく睨んでるし、このままでは今日一日の雰囲気が最悪になってしまう。


「悪い、何でもない。話しかけて悪かった」

「あんたがあの人呼ばわりするって、お姉ちゃんのことじゃないの?」

「いや、まぁ……でも、何も無いみたいだし俺から言えることは無くなったから気にしなくていいよ。そんじゃ」


 朝早く教室に来ることが分かっていたから話しかけられたが、ここで時間をかけるとそれはそれで厄介になりそう。


 ということで早々に妹から離れようとしたが、


「は? 意味不明なことを言うだけ言って逃げるとか、あり得ないんだけど?」


 やはり早まったな……。キイは美少女な妹だけど姉よりも対応が厄介すぎる。


「でも他の奴も登校して来てるし……」

「仮にも幼馴染なのに今さらあんたが照れるとか、バカなんじゃないの? つべこべ言わずに白状したら?」


 男子には容赦なく厳しいな。可愛いのに恐ろしいなんて。


「昨日偶然に再会した」

「姉と?」

「そう、カナと。俺が言えるのはこれくらい。詳しいことは連絡するなりして、カナから聞くのがいいと思う」


 商店街やら駅前を彷徨い歩いていたのは言わない方が良さそうだ。理由も聞いて無いし。


「私はまだ会って無いし、連絡もしてないのに姉から話が聞けるとでも?」

「妹だろ? カナの……」

「姉の妹ですけど、それが何か? あんたは無神経な幼馴染に過ぎないのに、何で私よりもお姉ちゃ……姉のことを分かってるわけ? ムカつく」

「何で怒ってるんだよ……」


 実家に帰らず、しかも妹と連絡も取っていないようだ。それなのに俺だけが会ってるし関わってるのが腹立たしいってわけか。


 かなり嫌われてるな。


「知らない。とにかく、大して情報を持ってないくせに姉の話を振るのは非常識だから、やめてくれる?」

「そうするよ。悪い」

「……バーカ」


 何も言えないし反論してはならないと思い知った。しかし今の会話の流れで判断すると、姉妹の仲は悪くないように思える。単純にカナが家に連絡してないってだけだな。


 話の流れで言えば、妹を差し置いて姉に出会った俺が憎いといったところか。


 妹に話しかけることはもうないのはいいとしても、カナは一体どこに行ったのか。でもバイト終わってからじゃないとだし、とりあえず今は気にしないでおこう。


 ――しかし。


「俺に何か用でも?」

「密かに会う約束してるんじゃないの? だから急いでる。違う?」

「違う。俺これからバイトだから」


 もう話すことも無いと思っていたのに、どういうわけかキイから話しかけてきた。しかもかなり不機嫌な表情で。


 俺から切り出した話だったとはいえ、妹のこの反応はもしかして……。


「カナに会いたいの?」

「姉の妹だし、会うのが当然なんだけど」

「……カナは全く実家に帰ってないのか?」


 俺の質問にキイは無言で力強く頷いてみせた。


「連絡も全く?」

「……うん」


 仲がいいとか悪いとかの問題じゃなくて、カナの性格の問題なのでは。


「バイト終わるのが19時すぎだから、その後なら空いてるけど」

「じゃあそのくらいの時間に駅前のコンビニで待ってる。商店街で見かけたなら、多分近くにいるはずだから」

「分かった、終わったら向かう。見つかるか分からないけどいいんだよな?」

「ううん、あんたがいれば絶対見つかる」


 どういう根拠があるのか不明だが、駅前のコンビニ付近なら可能性は無くも無い。


「じゃあ、また」


 まさかカナのことで、今まで嫌われて壁を作られていた妹と行動することになるとは意外過ぎる。


 そんなこんなでバイトが少しだけ早上がりになり、キイよりも先に駅前を歩いていると、コンビニ近くのネットカフェ前で彼女を発見。


 昨日会った時よりもさらに元気が無いように見えるが……。


「おっ! そこの少年!! お金持ってる?」


 あえて見つかるように近づくと、さっそく絡んできてくれた。


「持ってるように見えますか?」

「そりゃあもう! 趣味に囲まれて興奮状態の毎日を送っているんだから、あたしよりも全然……! で、どうだい?」


 ぼさぼさの長い髪を揺らしながら、カナはお恵みをもらえる前提で俺に手を差し出している。


「お金はさすがに無理なので、コンビニで何か奢りますよ」

「おぉ! 心の師匠よ! ぜひとも奢ってちょーだい! お礼に君の希望する女になってやるぜ!」

「希望の女って……とにかく、行きますよ」

「よっしゃー! さすがはすばるくんだね。持つべきものは優しい男の子さ!」


 調子のいい人だな。


 しかしこれで妹であるキイとも再会することになるわけか。

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