第17話 おやすみドラゴン

 アンジェリカの身支度はとても時間がかかった。まず、その長い髪を乾かすのにも時間がかかった。ドライヤーみたいな魔法の道具があるとはいえ、10分ぐらいはかかったのではないだろうか?


 その後は、髪に花の香りがする香油を髪に馴染ませ、櫛で丹念に髪を梳いていく。ドライヤーに吹かれてボサボサだったアンジェリカの髪の毛が、天使の輪ができるほどツヤツヤになった。アンジェリカの美少女度が更にアップした。髪1つで、こんなにも印象が違うのかと驚いたよ。


 その後、ようやくアンジェリカは服を着始める。まずは白のガーターベルト。その次に白のニーハイソックス。そして、白のパンツを穿いて、最後に白のネグリジェを着て完成だ。アンジェリカは、自分では服を着ない。全てメイドさんの手によって服を着せられていた。まるで等身大の着せ替え人形のようだった。


 そうして完成したのが、豪華なフリルの付いた白の膝丈ネグリジェを着た、まるで天使のようにかわいいアンジェリカだ。髪に天使の輪もあるし、これは確実に天使だね。


「お待たせしました、ルー」

「ルールー」


 僕は、待ってないよと首を振る。本当は、ジュースを3回もおかわりするほど待ったけどね。女性の身支度は、とにかく時間がかかるのは仕方のないことだと分かっている。ましてや、アンジェリカはお姫様だ。下手な格好はできないので尚更だろう。たしかに時間はかかった。でも、どんどん綺麗になっていくアンジェリカを見ているのは楽しかった。


「では、行きましょうか」

「クー」


 アンジェリカが僕を抱っこして歩き始める。例のブラジャーとコルセットが一体化したような下着を着けていないからか、アンジェリカの柔らかさをダイレクトに感じられてドキドキする。花の香りのようなフローラルな良い香りがするし、ずっと抱っこされていたい。


 未だに裸のメイドさんによってドアが開かれると、外の廊下には、メイド服をキッチリ着こなしたメイドさんたちが待機していた。


「ルー様、姫様、お疲れ様でございました」

「はい。お待たせしました」

「クー」


 どうやらここで身の回りのお世話をしてくれるメイドさんたちが交代するらしい。この離宮にはいったい何人のメイドさんが居るんだろう? 少なくとも10人以上は居るみたいだ。それにしても……メイドさんは皆、すごい美人さんだ。顔が良くないとメイドになれないのかってくらい、どのメイドさんも美人だ。メイドさんの採用項目に顔の審査でもあるのかもしれない。


 そんな美人メイドさんたちをぞろぞろ引き連れて、アンジェリカが廊下を進んで行く。もうすっかりお馴染になったメイドさんによる人力自動ドアの向こうは、アンジェリカの自室だった。青と白を基調とした内装は、どこか高貴な、清廉な印象を抱かせる。


「今日はなんだか疲れてしまいました。寝室に行きましょう」

「クー」


 アンジェリカに抱っこされたまま、部屋の奥にあるドアへと向かう。メイドさんによって開かれたドアの向こうには、白とピンクと水色の夢かわいい空間が広がっていた。部屋の中央にドンと置かれているのは、とても大きな天蓋付きのベッドだ。僕はあまり詳しくないけど、これがキングサイズとかクイーンサイズとか云われるベッドなのだろう。小柄なアンジェリカが一人で使うには、あまりにも大きすぎるベッドだ。


 そのベッドの横には、籠にクッションが置かれたペット用のベッドがあるのが見えた。あれが僕のベッドだろうか?


「ルーはどうしますか? 1人で寝ますか? それとも、わたくしと一緒に寝ますか?」


 どうやら選べるらしい。そんなの、もちろん答えは決まってる。


「クク―」


 僕はアンジェリカ用の大きなベッドを指さした。アンジェリカと一緒に寝られるチャンスを逃すなんて考えられない。


 そんな僕の態度を見て、アンジェリカがニッコリと笑う。まるで花が咲いたような笑みだ。僕の邪な心が浄化されるような心地がした。


「では、一緒に寝ましょうか」

「クー」


 やったぜ!


 アンジェリカが僕を抱っこしたまま膝立ちでベッドに上がる。ベッドは、音も立てずに僕とアンジェリカを支えてみせた。お姫様が使うのだし、天蓋付きだし、きっと高級なベッドなのだろう。


 そのまま膝立ちでベッドの枕元へと歩くアンジェリカ。大きいベッドって見た目は豪華でりっちだけど、昇り降りが大変だね。


 ようやく枕元に着くと、アンジェリカは僕を横に寝かせて、自分も横になった。


「ふぅ……」

「く~……」

「ふふっ」


 ため息が重なって、それが面白かったのか、アンジェリカが笑みを零す。


 アンジェリカの方を向くと、アンジェリカも僕を見ていた。美少女とこんな至近距離で見つめ合うとか、照れる。


「今日はいろんなことがありましたね。使い魔召喚の儀式に、お父様や宰相、先生たちと会談したり、そして、ルーと出会ったり」

「クー」


 たしかに、いろんなことがあった。いきなり魔法で召喚されて、アンジェリカと出会って、ご飯も美味しかったし、お風呂も楽しかった。パパママドラゴンの愛情は感じるけど退屈だった日々が、一気に華やいだ。アンジェリカの呼びかけに応えて本当に良かった。


 そういえば、パパママドラゴンはどうしているだろう? いきなり僕が消えて悲しんでなきゃいいけど……それだけが心苦しい。


「クァ~」


 今日はドタバタといろんなことがあったからか、すぐに寝むたくなってきた………。


「ふふっ。おやすみなさい、ルー」

「ク~………」

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