第10話 グルメドラゴン②
「まずはこちらはいかがでしょう?」
僕が迷っていると、いつの間に左横にメイドさんが立っていて、僕に一皿渡してくれた。黒髪黒目のエプロンドレスを押し上げる見事なおっぱいをお持ちのメイドさんだ。10代後半くらいかな? この子も美人さんだ。
「クー」
僕はメイドさんにお礼を言ってお皿を受け取る。手渡されたのは、サラダだった。まずはサラダというのは、こっちの世界でも定番なのかな?
僕がドラゴンだから肉食だと思われているのか、テーブルの上にはお肉がいっぱい並べられているけど、サラダも少量ながら並んでいる。
手渡されたお皿には、真ん中にちょこんと千切ったレタスのような葉っぱが盛られ、その上には白いソースがかかっている。ソースには黒い小さな粒の姿も見えた。
僕はお皿を顔に近づけて、一口でパクリと頬張る。最初に感じたのは、とろっと濃いミルクの味だ。まるでミルクを濃縮したような圧倒的な旨味。チーズの味だ。チーズの持つまろやかな旨味が、シャキシャキと瑞々しい野菜と絡まり、野菜のほんの僅かな苦みごと口の中を優しく包んでくれる。ピリリと感じる香辛料の辛味が、口の中に広がりぼやけてしまったチーズの味を引き締め、チーズの味の輪郭をより確かなものにしてくれる。後味に感じる僅かな酸味は、ビネガーのものだろう。チーズにこってりとやられてしまった口の中が、スッキリとする。
このサラダ美味しい。特にソースが好みだ。おそらく、ソースの味を味わってほしくて、野菜はあまり味を主張しない物を選んでいるのだろう。たかが前菜のサラダ。それも使い魔の、言ってしまえばペットのような僕みたいな者へのエサにこれほどの物が出てくるとは……。僕は料理長の本気を感じ取った。料理長は僕の胃袋を本気で掴みにきている……!
僕はなぜか謎の敗北感を感じつつ、お皿に残ったソースをペロペロ舐める。悔しい……でも舐めちゃう。ペロペロ。
「お味はいかがですか?」
「クークー」
赤毛のメイドさんに尋ねられた僕は、何度も頷いて美味しかったことを伝える。
「ふふっ。分かりました」
僕があまりに騒ぐものだから、赤毛のメイドさんに笑われてしまった。ちょっと恥ずかしい。でも、それぐらい美味しかったのだ。
「次はこちらはいかがですか?」
黒髪巨乳メイドさんが、次のお皿を手渡してくる。だが……。
「ウー…」
僕はお皿を手に取らずに首を振った。だってお皿の上に盛られていたのは、生肉だったんだもん。
たしかに、生肉からはとても良い匂いがする。食欲を誘う匂いだ。なんだか甘い匂いまでするほどである。でも、生肉だ。綺麗にサイコロ状に切られて盛りつけられているが、生肉なのだ。料理というか、素材である。見たところソースがかかってるわけでもないし、塩コショウが振ってあるわけでもない。本当にただの生肉なのだ。
本能は食べろと催促してくるが、それを理性で押し止める。本当は理性でも分かっているのだ。パパママドラゴンは生肉を普通に食べていたし、今の僕はドラゴンだ。食べても大丈夫だと分かっているが、ちょっとまだ勇気が出ない。まだ、人間だった頃の感覚が残っているせいだろう。
「左様でございますか」
黒髪メイドさんが生肉をテーブルではなく横にある木のワゴンの上に置く。
生肉はとても魅力的に見えたが、僕はノーを出した。ゴメンね料理長。でもあれは料理とは呼ばないと思う。でも、お刺身を料理だと言い張る日本人だった僕が言える話じゃないか……。
「次はこちらはいかがでしょう?」
そんな感じで、まるでわんこそばのように次から次へと料理を手渡してくる黒髪メイドさん。全部の料理が一口サイズなこともあり、パクパクと次から次へと食べていく僕。どんどん積み上がっていくお皿。ほんとうにわんこそばみたいだ。
そして、美食家や料理評論家の如く赤髪のメイドさんに料理の可不可を伝えていく。
「ケプッ」
生肉以外の料理祖全て食べきった僕のお腹は,はちきれんばかりに膨らんでいた。お腹ポッコリドラゴンである。料理は9割ほどは美味しかった。残り1割も、食べれないではなかったが、あまり美味しくなかった。その美味しくなかった料理の大半はサラダなどの野菜だ。ドラゴンの鋭敏な舌は、クセのある野菜のサラダをちょっと苦手に感じてしまった。
日本で人間だった頃は、野菜に苦手意識を持ったことは無かったんだけど……ドラゴンは基本肉食だからか、あまりクセがあったり、野菜野菜したサラダは美味しくなかった。ドラゴンの舌は野菜の持つ苦みや渋みも強く感じてしまうからね。チーズのソースがかかってれば少しは美味しく食べられるんだけどな……。
あとは魚料理も少ないながらあったね。どれも美味しかったよ。どの料理も一口分しかないのが、とても残念に感じてしまったほどだ。生まれ変わって初めて魚を食べたけど、魚の持つ上品なあっさりとした脂の味の美味さといったらもう……!
魚料理も美味しかったけど、やっぱりメインは肉だよ肉。ドラゴンはやっぱり肉食だったんだなと本能で理解させられるほど肉が美味しかった。人間の時だったら気持ち悪くなってしまっていたかもしれないほどのこってりとした濃厚な脂の味が僕の胃袋を掴んで離さない。
ママドラゴンの焼いただけの肉も美味しく食べれた僕だ。塩コショウを始め、香辛料やソースで味付けされた肉は、とても美味だった。ママドラゴンの手料理(?)も十分美味しかったけどね。それを越えてくるとは……流石はお姫様の料理長だ。
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