第41話

 未来の傍から離れ、燈和はコユキの姿を探した。

 少し離れた所でミアと会話するコユキを見つけ、声をかける。

「コユキさん」

「おや……どうしたんだい?」

 目の前の白い死神が未来以外の名前を呼ばない事を、燈和は気付いている。

 恐らく、あまり入れ込みすぎないようにだろう。

 優しいコユキの事だ。

 情を過度に持てば、先が辛くなってしまう。

 だから、燈和はその事に触れる事なく、別の事を口にした。

「貴女に聞いておきたい事があるの。――死神にとって、わたし達人間は毒なんでしょう?」

 ほぼ断定に近い言い方に、コユキは小さくため息をつく。

「……どうして、分かったんだい?」

「あのクロウとかいう死神の態度で、なんとなく気付いたのよ」

 あの黒い死神は、燈和や未来に対して、強い怒りを抱いていた。

 それこそ、憎しみとも言えるほどの。

 そして、未来に『コユキの為に離れろ』とも告げた。

 未来はコユキと長く行動を共にしている。

 つまり、それがコユキに危害を加えると警告したのだ。

「あの男、貴女を見る時は優しい目をしていたわ。……きっと心配していたのね」

 コユキは『これが自分の選択だ』と言っていた。

 それが、もし未来を気遣うだけのものだとしたら――。

「――本当に、これが貴女の選択なの?」

 ハッキリさせないといけない。コユキの為にも、未来の為にも。

 強い意志を込めて、燈和は白い死神を見つめる。

 嘘をつく事は許されない。

 そんな思いを抱かせる眼差しだと、コユキは思った。

「――ああ。間違いなく、これはあたしの選択だよ」

 だから、コユキは目を逸らす事なく、想いを告げる。

「遠い昔に、ある子と約束したんだ。人に寄り添う死神として生きるとね」

 実を言うと、コユキのような生き方をする死神など、他にいない。

 人と共に在る事は、生命を削る行為だ。つまりは、自殺行為にも等しい。

「それでも……あたしゃ、人と一緒にいたいんだよ。――人間は、憧れの存在だからねえ」

 そう微笑むコユキに、燈和は胸をつかれた。

 彼女のようなひとに憧れと言ってもらえる事が、とても幸せで……少し哀しかった。

 きっと、彼女は一生この生き方を続けるだろう。そして――。

 燈和はそっと目を閉じ、それ以上考える事をやめた。

 代わりに、とびっきりの笑顔を浮かべる。

「それなら、わたしは応援する。夢を持つ大切さは、わたしが一番よく分かっているから!」

「ありがとうねえ、ヒヨリ」

 初めて名を呼ばれ、燈和は目を見張った。

 そして、思わず泣きそうになる。

「そんな顔をしないでおくれ。あたしは名前を呼ばないだけで、ちゃんと皆の事を覚えているんだよ」

 その事実が、更に燈和を切なくさせた。

(……どうか、このひとに救いがありますように)

 燈和は心の中でそう祈るのだった。



 これは、ぼくが知らないところで交わされた会話。

 いつかその事実を知る事になるけれど、今のぼくはそんな事、夢にも思わない。

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