第38話
「……でも、お姉さんは言ってくれたよね」
「……え?」
『周りに何を言われようと……貶されたとしても。誰もきみの才能を奪う事はできないわ。――だって、それはきみの誇りなんだから』
あの言葉に、ぼくがどれほど救われた事か。
お姉さんは確かに言い方は厳しいけど、それは思った事をハッキリと言う性分だから。だからこそ、誰かを救う事もできるんだ。
「お姉さんがハッキリ言ってくれたおかげで、ぼくは勇気をもらえたんだよ。だから、お姉さんは傷つけるだけじゃなく、助ける事もできるんだ」
そう告げると、お姉さんは大きく目を見開いた。そして、泣き笑いを浮かべながら、頷いてくれる。
「……そうね。ありがとう、ミライくん」
「うん」
ぼくが頷き返すと、お姉さんは涙を拭い、立ち上がった。
「きみがそう言ってくれるだけで、じゅうぶん。玲奈の事はショックだったけど……」
すると、コユキが笑みをこぼした。
「そうでもないさ。ほれ、見てみなさい」
コユキに指し示され、ぼくとお姉さんは言われた通りに店内を覗き込む。そして、息を呑んだ。
何故か、玲奈さんが泣きじゃくっていた。
何があったのか分からず、コユキを見ると、彼女が教えてくれる。
「さっきまで言い争ってたんだけどねえ……なんだかんだ、あの子は自分のした事を後悔していたみたいなんだよ。――きっと、魔が差しちまったんだね」
「玲奈……」
お姉さんは小さく名前を呼ぶと、玲奈さんの近くに歩み寄った。
「燈和さ……ごめん、なさい……っ。本当は、いっぱい認めてくれてるって分かってたのに……なのに、あたしが弱いせいで……っ」
「……バカね」
必死に謝る玲奈さんに、お姉さんは優しく笑いかけた。涙を拭おうと手を伸ばすが、その手はすり抜けてしまう。
「本当に……バカ。死んじゃったら、慰める事も、許す事もできないじゃない」
その声は湿っていて、お姉さんもまた、泣いているのだと分かった。
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