第36話

 その時だ。


「そんなに消えたいなら、オレが消してやるよ」


 突然現れた黒い影に、お姉さんが動きを止めた。

 コユキと同じフードを被り、黒髪と赤い目をした――死神。コユキと対照的な死神の出現に、ぼくらは目を奪われた。

 そして、本能的に目の前の男は危険だと察する。

 ぼくらの事をなんとも思わない冷たい眼差しに、足が竦みそうになる。

 それはお姉さんも同じだったらしく、彼女はゆっくりと後ずさりする。

 そんな彼女に、容赦なく鎌を振り下ろそうとして――。


「させないよ」


 間一髪でコユキが滑り込み、自らの鎌でそれを阻止した。

 すると、死神は忌々しげに舌打ちをする。

「コユキ、どけ!!」

「嫌だね。まったく……やけに大人しく引き下がったと思ったら、こんな事を企んでたのかい、クロウ?」

 クロウ……つまり、鴉。“死”そのものを思わせるこの男に、ぴったりの名だ。

 クロウと呼ばれた死神はコユキを見て、もう一度舌打ちする。そのまま飛び退くと、呆気なく鎌を下ろした。

 そして、今度はぼくを睨みつける。

「おい、お前!」

「は、はいっ!?」

 びくりと肩を震わせるぼくに、クロウは更に表情を険しくする。


「コユキの事を想うなら、さっさと消えろ! それができないなら、どっか行け!」


 そして、クロウはぼくの答えを聞く事なく、あっという間に姿をくらましてしまう。

 告げられた言葉の意味が理解できず、ぼくは困惑した。

 だけど、コユキが何かを隠している事に、ぼくは気付いている。

(まさか……本当に?)

 ぼくが留まり続ける事は、コユキにとって良くないものをもたらすのだろうか。

 そう考えると、自分という存在が怖くなってきた。それに、存在しない方がいいんじゃないかという思いもこみ上げてくる。

「ミライ」

 温もりに包まれ、ぼくは顔をあげる。

 すぐ傍に、コユキがいた。慌てて距離をとろうとするが、優しく抱きしめられ、阻まれてしまう。

 安心させるように、ぼくの背中を撫でてくれる。

「前にも言ったように、これはあたし自身の選択だ。あたしがそうしたいから、お前と共にいるんだよ」

 温かいコユキの言葉に、涙があふれる。

 聞きたい事はあるのに、聞くのが恐ろしくなってしまう。

 ぼくは、ずっとコユキと一緒にいたかった。いつかは、終わりを迎える関係だとしても……。

 コユキのコートを握りしめ、ぼくは目をつぶった。

 それでも、今はコユキの傍にいたいんだ。

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