第33話


「もうやめて!!」


 突然、お姉さんが声を荒らげた。

「玲奈を責めないで!! 玲奈は、将来が有望な子なのよ……! だから、わたしは……っ」

 自分を殺した相手を、必死に庇うお姉さん。

 どうして……?

 ぼくには理解できず、ただお姉さんを見つめる事しかできない。

 お姉さんは届かないと分かっていながらも、叫び続ける。

「わたしは、死んでも構わない……っ! 不器用なわたしだから、恨みを買う事だってあるわ! ……でも、玲奈は違うのよ!! 優しくて、一生懸命で……っ」

「……あんたは」

 コユキが何かを言おうと口を開いた、その時だ。


「……うるさい」


 玲奈さんの発した小さな一言に、誰もが口をつぐんだ。

 顔をあげた玲奈さんは、歪んだ笑みを浮かべていた。虚空を見つめ、何かを嘲笑っている。

 そんな玲奈さんを、お姉さんは呆然と見つめる。

「……あの人の事が憎くてたまらなかった」

 ぽつりと呟かれた言葉に、誰も反応できなかった。

 理解できなかったのかもしれない。いや、したくなかった、の間違いだろうか。

「誰よりも輝くあの人が。誰よりもこの仕事を愛していた、あの女が」

「……」

燈和ひよりさんはあたしの事、真っすぐで優しいって言ってたけどさ。ホント、見る目がなくて笑っちゃう」

「……え?」

 玲奈さんの言葉に、お姉さんは困惑していた。

 ぼくにも、彼女が何を言おうとしているのか分からなかった。ただ、良い事ではない予感はした。

 それはお姉さんも同じだったのではないだろうか。

 聞きたいけど、聞きたくない。そんな葛藤を抱いているように見える。

「あたしはこんな仕事、好きじゃなかったのに。才能があるからって引っ張り込まれて、いい迷惑よ」

「玲奈、何を言っているの……?」

 玲奈さんの放った言葉の意味を、お姉さんは理解できないようだった。

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