第5話

「ああ……あんたもかい」

 ところが、コユキはあっさり納得する。

「あれだろう? 『死んだらやってみたい事べすとすりい』ってやつをしたかったんじゃないのかい」

「……そんなのあるの?」

「昔、そんな事を言っていた子供がいてねえ」

 え……。ぼくは愕然とする。

 まさか、こんな事をする人が他にもいたなんて。

「意外と多いんだよねえ……人間は死者になると、何かから解放されるのかねえ」

「あはは! まあ、そんな感じかな。生きてたら死んじゃうからね!」

 ……頭痛がしてきた。額を押さえ、何度目かのため息をつく。

 というか、コユキの“人間”に対するイメージがおかしい気がする。自分も同じに見られてるんじゃないか――そう思うと、居ても立っても居られなくなった。

「コユキ! 人間みんながこうじゃないからね!? 少なくとも、ぼくは違うから!」

「大丈夫、落ち着きなさい。あたしゃ気にしてないよ。誰にだって、になる時もあるんだからさ」

「そうじゃなくて!!」

 ぼくが必死になって説明しているのに、ほのぼのと微笑むコユキ。まったく、このお婆ちゃん死神は!

 コユキの説得を諦め、据わった目でおじさんに恨み言を吐く。

「おじさんも、いい年して何してるんですか……」

「――ホントにね。俺、何してるんだろうな」

 急に下がったトーンに、ぼくは言葉を失った。

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