第3話 逃亡テロリスト傷害事件-本伝03
「お久しぶり。やっと会えた」
そう言って笑う、
「お、お、お久しぶりです」
こう言うのをオウム返しって言うんだよな。情けないけど。
もう一度会いたかった、本気で。これきっと一目ぼれってヤツ?
「今日、予定有る?」
笑顔と共に告げられた言葉に、俺は無言で首を横に振りまくった。そんなガキ臭い
「良かった。少し私に付き合ってくれないかな? 話が有るんだけど」
「も、もちろん……」
そんな短い俺の返事は、割り込んできた二人に
「ちょっと、ちょっとお待ちを!」
必死の
「ぼ、僕達、友達でして。
「遠慮してもらえる?」
え?
その、たった一言に今まで感じた事の無かった、お姉さんの別の一面を見たような気がして俺は瞬間、言葉を失ってしまった。
まるで台所のスポンジの間に果物ナイフが隠されているみたいな、柔らかい回答の裏側に
「そ、そこを何とか! お願いします!」
すがり付くようなスケコマ
「やめようよぉ、スケコマ
「なんで? お前、ここで
「無理だってぇ。この人、違うって。僕ら見てないよぉ、
この手の事に関して、俺よりも敏感なヲタ
「お、お姉さ~ん」
「トッキー、また明日ねぇ~」
「じゃ、行こっか?」
「はい!」
二人には悪いけど、ここは邪魔されたくないよね。お姉さんと二人きり、これってもしかしてデートなのか?
その時、俺は完全に舞い上がっていたんだと思う。
だから、バス停に向かって消えていった二人と、すれ違いで歩いてくる長身の男に、俺は全く気付いてなかったんだ。
何か話さないと。そうは思うけど、こんなのに慣れてない俺は、情けないけど言葉が出てこない。
柔らかな風は気持ち良いのに、何だか汗が、じんわり。
きれいな横顔を
そして、ちょい悲しいのが、お姉さんの胸元。リクルートスーツの下の白いブラウスを押し上げるはずの、偉大なる二つの丘が……低い。
無い訳じゃないんだよ、確かに
俺、お尻派のはずなんだけど……あのグラビア見たせいか? 台湾出身の巨乳アイドルに当てられた?
「君、どこ見てるのかな?」
視線が動いて無かったみたいだ。お姉さんの一言に、俺はアタフタと色んな方向を向きまくる。更に汗が。
「えーっと、その、別に……」
情けない
「あのぉー」
「何?」
「どこ行くんでしょうか?」
歩き始めて、すでに10分近く。この辺りは住宅街で、この時間は人通りが少ない。
最近テレビのニュースなんかで目にする東京スラム化。
隣の区ほどでは無いけど、この辺りだって人口は増加してるって聞くのに、空家が点在してたりする。
家とは反対方向に歩き続けてる事もあって、俺は行き先を確認したくなったんだ。
「オリンピック公園、知ってる?」
もちろん。子供の頃は遊びに行ったよ、今は亡き父と。そんな事は口には出さないけど。
「そこにスケートパークって有るんだけど……」
それは知らなかった。俺、ローラースケートなんてやらないから。
「今、改修中でね。人いないから、ゆっくり話ができると思って」
笑顔でそう話すお姉さん。対する俺は、真っ赤になっていたと思う。
誰も
「ど、どんな、お話なんでしょうか?! お姉さん!」
ナニ聞いてんだよ俺。今そんな話をするべきか? 考えろよ。
そうは思うが、慣れてないから、つい。けど俺の一言で、お姉さんは
ヤバイ事、言っちゃったのか? 俺。
「あ!
突然、お姉さんは笑いながら俺に謝る。
「自己紹介まだ、だったよね?」
「あ!」
俺も今、気が付いた。名前知らない事に。
「
みついえいみ、さん。素敵なお名前だぁ。そんな事を考えていた俺の前に、お姉さんの細っそりとした手が差し伸べられる。
「
思わず握手。両手でしっかりホールドしちゃった。ホントに、これこそ
「で、でも、その、
「んん~? あれ? もしかして……まだ気付いてない?」
住宅街を抜けて別の大学の横を過ぎ、今や運動公園のグラウンドの横を歩く。
その木陰で、お姉さん、いや
「これなら、どう?」
そう言いながらリクルートスーツのボタンを外し、内ポケットから取り出したのは、
「え? それ……えぇ!」
「今日は、カツラ持って来なかったんだけどね」
今時の美大生が、カツラって言いますか?
「もしかして……三つ編み
「ピンポ~ン」
思いっきり笑いだしたお姉さんと、
平日の午後、人気のない硬式野球場の横で俺は
「
確かに
目の前の、アキバで一目ぼれしちゃったキレイなお姉さん、と。
亡き父の
同一人物? それ、三人の俺こと多元宇宙の
「さっき、どんな話? って聞いたよね、君」
確かに。ここで答えてくれるのか。
「大学はね、バイト禁止じゃないんだ。ただ実家には知られたくなくて。同期の
あの
金網の向こう側は改修工事の為、板なんかが立ててあって中が見れない。その分、
「あの日、見ちゃったんだ。
見られてた? 背筋を冷たいものが走る。まさか
「
「え?」
「その後は、エキストラが大勢やって来て。お寺の
もしかして、映画撮影と
何だか少しホッとして、俺は小さなため息をついた。それにも気付かず、
「私ね、映画の仕事したいんだ。美大出ても映画業界は難しそうだから、もし出演者の君ならって」
あぁ。そう言う事か。
「コネって程じゃなくても、監督さんに会わせてもらえるとか……無いかなぁ」
「え~っと、あの、ですね……」
どう言えばイイ? ホントの事なんて言える訳ない、言っても信じてもらえない。
答えに困った俺を、多分お姉さんは誤解したみたいだ。
「あ、
そう言いながら、あの
「話し続けて
「何か飲み物、買ってきます」
「私も行く」
うなずく彼女と共に、売店を目指して歩きだした瞬間、さっきまで光井さんが寄りかかっていた金網の支柱が、動いたように目の
「え?」
支柱に立てかけてあった棒が浮いた? そう思ったら今度は、棒を
「まさか……」
「ピンモヒ!」
「くたばりやがれ!」
「危ない!」
最後の悲鳴と共に突き飛ばされた俺は、頭を振りながらも自分が
目に飛び込んできたのは、俺の身代わりになったお姉さんに向かって、真上から振り下ろされる刃だったんだ。
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