本の世界

ミンイチ

第1話

 前の誕生日の日に、少しの寿命を代償にして、他の人には使えない力を手に入れた。


 その力は、他の人に怪我をさせるようなものでも、普段の生活で役に立つようなものでもない。


 ただ、本の世界に飛び込めるだけだ。


 本の世界に飛び込んでいる間は、元の世界の時間は止まっているし、本の世界で怪我をしたり、死んでしまっても元の世界ではなんともない。


 それに、病気のせいで長くは生きられないから、少しでも残りの人生を楽しめるならそれでいい。




 僕は生まれたときから病気だった。


 そのせいで運動もできないし、学校に行くのも難しい。


 小学校低学年までは家で過ごしていてもなんの問題もなかったが、成長するにつれて病院でしか生活できなくなった。


 そんな生活の中で楽しみだったのは読書だ。


 僕は本を――特にライトノベルをたくさん読んだ。


 SFに、現代・異世界ファンタジー、恋愛などなど、いろんなジャンルを読んできた。


 そんな僕にとって、この力はとても嬉しかった。




 この力を使うには、入りたい世界が書かれている本を持ち、入るぞと強く念じなければいけない。


 そして、本から虹色の糸が出てきて僕を包むと世界の中に入ることが出来る。


 この力を使って本の世界に入っても、僕はその世界におけるモブキャラとしか存在できない。


 学園モノだとただのクラスメイト、戦闘モノだと顔見知りの味方、よくて主人公に少し顔を覚えられている、酷ければ町ですれ違う一般人の一人となる。


 たとえモブキャラにしかなれなくても、僕にとっては、普通の人の生活ができるからとても楽しめる。


 僕はこの力を使って、精一杯楽しんで生きていこうと思う。

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本の世界 ミンイチ @DoTK

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