第6話 とある殺し屋のはなし①
不吉さを思わせる赤い満月が浮かぶ、とある夜の日。
遠くでは爆音が鳴り響いている。
ひゅう、ひゅー、ひゅう
男は全身に致命傷の大やけどを負い、まともに息も吸えず、まるで重度のぜんそく患者の様な呼吸音になっていた。
這うようにやっとの事で、仲間たちの待機する建物の扉を開け、その中に転がり込む。
「ヤツが、あの紅蓮のやつが攻めてきた」
やっとの事でそれだけ口にすると、事切れて男はその場で絶命してしまった。
ガタッ、ガタッ
男の命懸けの報告を聞いて、色めき立つ様に、室内にいた十数人の黒い軍服を着た屈強な男達は立ち上がる。
黒い軍服の上着の右胸の辺りには、金色で縁取られた六芒星の紋章が輝いていた。
そして、男達は大急ぎで銃と刀剣それぞれ自分の獲物を装備し始める。
「よりによって今晩か・・・いや、だから来たんだろうな」
短髪で切れ長の目をした、大きな岩を思わせる体格の男は周りに聞かせるでもなくつぶやく。
(そうだ今日は触の夜なのだ、まさにあいつらの為の夜だ)
「行くぞ」
「やつはおそらく単独だ。格好なんて気にするな、全員で囲んで間違いなく殺るぞ」
リーダーと思われる、岩の様に大きな男を先頭に男たちは外に出ていく。
紅蓮と呼ばれる魔法使いは、既に同胞であるノーマルを何百人も殺害している、極悪非道な魔法使いとして名前が轟いていた。
その被害者の中には、自分達の様な軍人だけではなく一般人も多く含まれている。
「しかも、そいつは野郎と来たもんだ。遠慮なんていらねぇぞ」
スキンヘッドで髭をはやした巨漢の男が周囲に向かって喋る。
はるか昔から、優れた魔法使いは決まって女性と言われてきた。
この反魔法使い組織セイラムの中にも、魔女狩りと呼ばれるエージェントが所属する特殊部隊がおり、魔法使い=女性との認識がノーマルの中では一般的だ。
だが紅蓮と呼ばれているそいつは、その例に当てはまらずに男で、天才的な能力を持ち合わせた魔法使いだった。
その呼び名の通り、炎属性の魔法を得意とする魔法使いである。
セイラムは、この紅蓮にトウキョウ周辺にある拠点を2つも潰されていた。
その拠点で紅蓮を目撃しながらも命からがらに逃げて来た男の情報によると、ひょろっとした長身で、特徴的なのが赤と白の斑な頭髪との事だった。
夜空には赤い満月が浮かんでいて、風が一切なく蒸し暑い夜だった。
「やけに暑いな」
スキンヘッドの男は、じんわりと滲む額の汗をハンカチで拭う。
あの、はるか昔の数百年前に起こった、ノーマルと魔法使いが決定的に仲たがいする原因となった、人類にとって歴史的な大事件。
その後から触と呼ばれる、数ヶ月に一度の周期で、赤い満月が現れる事象が観測され始めた。
「本部に連絡して応援を要請しろ。出来れば魔女狩りを派遣してほしいと」
リーダーである短髪の男は、近くの隊員に命令する。
ここはセイラムの軍事拠点の1つであり、規模は小さめで常に待機している人数は10人余りだが、精鋭揃いの兵士達が揃っていると評判が高かった。
敷地内には隊員達の詰め所が2つ、そして装備や食料などをひとまとめに保管している大きい倉庫が1つあり、その建物を囲むように有刺鉄線付きの背の高いフェンスがぐるりと張り巡らされていた。
そして、そのフェンスの外には深い樹海が広がっていた。
十数人の隊員達は、ライトに照らされた基地内のフェンス沿いの道をそれぞれ周囲を警戒しながら歩く。
「おいっ、避けろ」
ゴォーッ
外からフェンス越しに火炎放射のような火柱が飛んでくる。
いち早く危険を察知した一人の隊員の声で、全員が瞬時に異変を察知して間一髪逃れる。
フェンスの火炎放射を浴びた部分の金網がデロデロに溶けて、そこだけぽっかりと人が通れる位の大きさの穴が空いていた。
「ハーッ、惜しい。良い勘してるな、お前ら」
どこからか高いシャープな声が響き渡る。
こつ、こつ、こつ
フェンスの外から近づいてくる足音がすると、次第に照明がその声の主を照らし出す。
その穴の空いたフェンス越しに、パンクファッションのようなボロボロの白い衣服に身を包んだ、ひょろりと長身の男の姿がハッキリと見えた。
男は頬がこけていて、ギョロリとした目をしていた。
そして、特徴的な赤と白の斑の頭髪がその男の異彩さを際立たせていた。
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