追放王子は異世界から来た天才幼女によって鉄をつかさどる神だったと知る
渡 歩駆
第1話 王子の俺は弟に城から追い出されて辺境へ
「さて、ようやくお前を追い出せるなハバン」
「えっ?」
玉座の間に呼ばれた俺は弟である国王に言われた言葉の意味がわからず絶句する。
「お、追い出せるって、どういう意味だバルドン?」
「お前の能力はなんだ? 言ってみろ」
「俺の能力は鉄を出すことができる、だが……」
王家の血を継いだものはひとつだけ特異な能力を持つ。
弟のバルドンは神々しく光り輝く光の剣を生み出せる。
俺は鉄を作り出すことができた。
「そんな能力はもういらん」
「なんだと? 我がマルサル王国は雨が多くて農作物を十分に収穫できない年が多い。そういう年は俺の作る大量の鉄を他国へ輸出して農作物を輸入しているじゃないか」
俺は国にとって重要な役割を担っている。
そう思っていたが。
「先日、鉄鉱山が発見された。お前はもう用済みだ。辺境の領地へ追放してやる」
「な、なに? いや待て。それでも俺は王子だぞ。なぜそんなところへ行かなければならない?」
「なにが王子だ。お前は下級貴族の子だろうが。上級貴族を母に持つ俺とは違う」
母が亡くなったのち、前の国王だった父は上級貴族の娘を後妻に迎えた。
それがバルドンの母親だ。
「それにお前のその醜い鉄仮面を見るのにはうんざりしていたのだ」
俺は幼少期から、バルドンの母親には嫌われていて、顔を見たくないという理由から、口元以外の顔と頭をすべて覆う鍵付きの鉄仮面を被らされていた。
こんなものは好きで被っているわけではない。
「こ、これはお前の母親が……」
「黙れ。出て行け。鉄さえとれればお前などいらんのだ」
「バ、バルドン……」
「ちっ……さっきから」
怒りに顔を歪めたバルドンは玉座から立ち上がって俺の頭を掴み、
「誰の名を呼び捨てているか貴様っ!」
そのまま地面へと打ち付けた。
「俺は国王だぞっ! 貴様が気安く呼び捨てていい相手ではないっ!」
「くっ……」
地べたに額を擦りつけながら俺は歯を軋ませる。
バルドンの言うことはもっともだ。兄でも、国王の名を呼び捨てて言い訳は無い
しかし母が下級貴族だからと、自分が王になれていないことは不満だった。
それでもバルドンが俺より優秀なら納得していたと思う。
しかしバルドンは無能だ。
現に鉄鉱山が見つかったというだけで、俺の能力を軽視して追い出そうとしている。
「まったく礼儀を知りませんなハバン様は」
「陛下の兄君とはいえ、所詮は下級貴族を母に持つ方です。陛下や我々とくらべれば半分は下級な血筋のお方ですよ」
大臣どもは馬鹿ばかりだ。
バルドンは有能な者を遠ざけて、自分に媚びへつらう取り巻きばかりを大臣職に就けた。その結果、このように無能な大臣集団ができあがったというわけだ。
「すぐに出て行くか、それとも」
立ち上がったバルドンが光の剣を右手に現して俺の首元に近づける。
「ここで死ぬか?」
「い、いや……」
「ならばとっとと出て行けっ!」
「がはっ!?」
腹を思い切り蹴られた俺はその場に転がる。
「あらあらバルドン、野蛮なことはいけませんよ」
と、そこへバルドンの母であり、俺の義母のサリーノがやってくる。
「母上、お喜びください。ついにこの男をここより追い出すことができます」
「まあ素敵っ! ようやくねバルドンっ!」
「ぐっ……」
サリーノは倒れ伏す俺を踏みつけてバルドンの前へと歩く。
「あら? そんなところに転がっているなんて下品なお方。邪魔だから消えてちょうだい」
「……」
無言で立ち上がった俺は玉座の間を出て行く。
「バルドン、今夜はパーティーを開きましょう。盛大に」
「それはいいですな。厄介払いをできた記念です。ふははははっ」
大声で俺を嘲笑うバルドンやサリーノ、大臣たちを背に俺は足早にこの場を去って行った。
――――――――
あとがき
こちらは短編作品になります。
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