風天の湧く湧くエッセイ

東 風天 あずまふーてん

第1話 のら猫の独り言

のら猫のボクは、ときたま、人間の家で黙って食事をする。


 今どきの食料は、どうかすると、ぜんぶ冷蔵庫というやつに入っているかと思うとそうでもないのだ。


 食べてくださいとばかりに、キッチンのテーブルに置いてあるものもある。


 このあいだも、秋刀魚が三匹も皿に乗せてあったので、しめしめと思って口にくわえると、カチンカチンに凍りついていて、むしょうに歯に凍みた。


 こいつは解とう中というってことなんだな。


 そればかりか、この家の子どもに見つかって、おかあさん、猫!って騒がれて、危うく飛んできたおもちゃのボールでノックアウトされそうになったが、秋刀魚だけはしっかり離さず、その日の晩ごはんにすることができた。


 まー、のら猫の毎日は、こんなもんで、食事のときだけは狩りょう本能まる出しで、緊張感あふれるタイムになっている。


 あとはのんびりと雨露しのげるところさえあれば全く問題なく自由気ままに生きていける。


 このような様子から、僕たちは、いたって進歩進展もなくどこまで行っても猫は猫だと人間からは思われているが、実は猫だってバカにしたもんじゃないんだ。


 僕の仲間にはけっこう笑い上戸が多いんだ。


 それにどきどき泣き上戸にも会う。


 中には人間の学者のように研究熱心なやつもいる。


 そういえば、この前、ケガをしている見ず知らずの猫に、とってきたアジの開きをあげてた慈悲深い猫くんもいたって話しだ。


 猫をバカにしちゃいけない。


 これからは、パソコンを使える猫とか、カウンセリングのできる猫とか出てくるのはまちがいない。


 じゃ、ボクはというと…


 じつは、絵を描くことが得意なんだ。


 ときどき、ガード下のかべや橋げたのコンクリに落書きがしてあるのを見かけるだろう


 あれを描いてるのはボクなんだ。


 ホームセンターや物置きからペンキと筆をかっさらってきて、思い上がっている人間に警告を発信しているのさ。


 たとえば、きのうは夢って描いた。


 なぜって、最近は夢が絵描きにくい世の中になってる。


 昔は良かったっていう話をよく耳にするからね。






 

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