第18話 討伐成功

「私の股間に顔を埋めて興奮した?」


 レイチェルは睨みながら、返答に困ることを聞いてくる。


「……黙秘する」


「ふ~~ん、じゃあ、こっちで確認しようかな?」


 レイチェルは俺に跨った状態で、身体全体をスーッと後ろ、俺の下半身の方へ移動させる。


「って、俺の何で確認するつもりだ!?」


「もちろん、アレックスの、アレックスが、アレックスしてないかを確認するんだよ」


「アレックスしてないか、ってどういう意味だよ!? 前にも言ったけど、変な言葉を作らないでくれ! 馬鹿なことはやめるんだ!」


「無駄だよ」


 俺が体に力を入れても騎乗しているレイチェルはビクともしない。

 身体能力の差を思い知らされる。


「あなたたち、ジャイアントオークの死体の前で何をしているのかしら?」


 ジェーシの声がした。


 首を動かすとジェーシが視界に入る。

 少し呆れているようだ。


「これは事故なんだ! というか助けてくれ!」


「アレックスが私の股間に顔を埋めた」


 おい、思春期少女!

 俺の立場が悪くなることを言うんじゃない!


「へぇ~~、童貞のくせに随分と積極的になったわね。童貞のくせに」


「おい、ジェーシ、何で二回刺した!? それにレイチェルは早く退いてくれ」


「えっ、これ以上の発展はなし?」


「あるわけないだろ!」


 ジャイアントオークの死体が転がる畑で、ジェーシに見られながら、とかレベルが高すぎるだろ!


「別に私は構わないわよ」


 おい、ジェーシ、レイチェル側に立つんじゃない!

 収拾が付かなくなるぞ!


「そういえば、今度は私がアレックスの股間に顔を埋める権利、あるよね?」


「そんな最低の等価交換があってたまるか!」


 これ以上、状況がややこしくなることを言わないでくれ。


「アレックス、あなた、実はやっぱりこの子とヤッちゃったんでしょ? 大丈夫、お姉さん、誰にも言わないから、こっそり教えて」


「いつからジェーシは俺のお姉さんになったんだよ! 本当にやってない! レイチェルもいい加減にしてくれ!」


「む~~、また私だけ損した……」


 レイチェルは不満そうに俺の上から退いた。


 俺も立ち上がり、三人でジャイアントオークの死体に近づく。


 ジェーシが切断されたジャイアントオークの首を確認した。


「一振りでオークの首を斬ったのかしら?」


 レイチェルは頷いた。


「さすが勇者、って感じね。ただの思春期エロ娘じゃないってわけね」


「あれ? 今、私、凄く馬鹿にされた気がする」


 うん、そうだね。

 でも、それは君が悪いよ。


 しばらくして、村の人たちがぞろぞろと戻ってきた。

 その中にはおじさんもいた。


「凄い。お嬢ちゃんがやったのか!? 一体、何者なんだ!?」


 おじさんが詰め寄るとレイチェルは「あっ」とか「えっと」とか口にして困ってしまう。


「彼女は王都で有名な冒険者なんですよ」


 村の人たちを騙すのは心苦しいが、本当のことを言うわけにはいかない。


「そうなのか、そいつは凄いな」とおじさんは言い、それ以上の追及はしなかった。


 俺もレイチェルも安心する。


「村を救ってくれたお礼だ。今日は村に泊まっていくといい。大したものは無いが、出来る限りのもてなしをする」


 この誘いには俺もレイチェルも困ってしまった。


 万が一、俺とレイチェルが手を離したら、大惨事になる。


 だから、一番手が離れるリスクがある就寝中は人から離れたかった。


「お義父さん、さっき、私は呪いのことを聞いたわ。ちょっと面倒な呪いみたいなのよ。だから、二人にはこの村からは離れてもらった方が良いわ」


 ジェーシが説明を始めた。

 レイチェルは焦っているようだが、俺と視線を合わせたジェーシはウィンクをする。


 どうやら考えがあるようだ。


「もし、二人が手を離すと鳥を呼び寄せるらしいのよ」


 ジェーシは平然と嘘をついた。


「鳥だって?」


 おじさんたちはキョトンとする。


「そう、鳥。しかも大きな鳥を大量に呼び寄せるの。そんなことになって畑をこれ以上荒されたら大変でしょ?」


 ジェーシはジャイアントオークに荒された畑に視線を移した。


「それはそうだが、だからといって何もしないというのは…………」


「食事くらいは良いじゃないの?」


 ジェーシは俺たちを見た。


 俺はレイチェルと顔を合わせて頷く。


「そうですね。食事を頂きます」とレイチェルが答えた。


「そうかい! だったら、せめて好きなだけ食べてくれ」


「いや、おじさん、レイチェルはこう見えて大食いなんだ。そんなこと言ったら、村の備蓄が無くなるよ」


 俺が言うとレイチェルは「どういう意味」と言いながら、手をぎゅ~~と握った。


「ごめん、痛いって!」


 謝るとレイチェルは俺の耳元で、

「私だって、加減は出来るよ」

と囁いた。



 俺たちは夕食をご馳走になる。


 レイチェルはそれなりに食べたが、確かに加減はしているようだった。

 街で金銭を払って食べる際は遠慮が無いが、こうやって無料で出されると気が引けるらしい。


 夕食を食べ終えると俺たちは一旦、村を離れた。

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